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第8話 男子高校生の夏休み・4

 熱い砂浜、寄せては返す波、ヤドカリ、入道雲。 「すっげえ! 海!」 「マカ、浮き輪!」  でけえぇ、と海に突進して行くマカロのパンツを引っ掴んで浮き輪を装着させ、念のために首から溺れた時用の笛を下げる。  マカロが住んでいた所には海という概念がなく、生まれて一度も泳いだことがないと言う。つい親心から色々持たせてしまったが、大丈夫だろうか。 「冷てえ! 気持ちいい!」 「あんまり遠くには行くなよ」  すっかり海が気に入ったらしいマカロが浮き輪を使ってバタ足するのを眺めてから、俺はパラソルの下で膝を抱えているサバラに問いかけた。 「サバラは泳がないのか?」 「あの中には恐ろしいモンスターがいっぱいいる……クラーケンとか、リヴァイアサンとか」 「いねえよ」  素っ気なく言う天和に、サバラが声を荒げる。 「た、確かに俺が読んだ本にはそう書いてあったんだ! 絶対いるに決まっている!」 「損して生きてくタイプだな……」  呆れ顔で天和が立ち上がり、波打ち際へと走って行った。「天和ー!」そうしてマカロと合流し、楽しそうに泳いでいる。 「生贄共め、後悔するぞ」 「クラーケンはいないと思うけど、確かに海って危険な生き物も沢山いるもんなぁ。見えない底の方でサメとかが泳いでたらって思うと、確かにサバラの気持ちも分かるよ」 「炎樽くん。サメくらい大したことないだろう、何を言ってるんだ君は」 「……サバラの基準がよく分かんない」 「俺のことは気にせず、炎樽くんも遊んでおいで。奴らも待ってるだろう」  とは言っても一人海を楽しめないサバラを置いて遊び惚けるのは気が引ける。せっかくなら四人で思い出を作りたい。 「サバラ、そしたら浅い所でちょっとだけ遊ぼうよ。そこならモンスターも来ないし、万が一来てもすぐ逃げられるじゃん」 「しかし……」  マカロが子供になった時のために持ってきておいた玩具のバケツにスコップやじょうろを持って、ニッと笑って見せる。 「………」  するとカラフルな玩具に興味を惹かれたのか、サバラがふらふらと付いて来た。こんな物で釣れると思わなかったけれど、マカロを始め夢魔というものはどこか子供っぽい所があるのかもしれない。  サバラと二人で波打ち際に座り込み、砂を掘って掘って固めて積んで、穴を開けて水を流す。 「よし、炎樽くんはそっち側から城の一階にトンネルを開いてくれ」 「そしたら一旦、その辺で水をせき止めておいてよ」 「うわあ、これいいな。俺が入れるくらいの城も作れるじゃん。お金遣わずに家も建てられる……」  目を輝かせてせっせと砂を高く積んでいくサバラ。何か言おうかと思ったけれど、あまりにもその顔が嬉しそうなのでやめておいた。  それからちょっとだけ穴掘りを休憩して、寄せてくる波の上へと座り込む。海水が俺の足や尻を撫でていく感覚が気持ち良い。  砂に手を埋めて流されないよう体を支え足をばたつかせていると、沖の方でマカロが手を振っているのが見えた。

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