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第9話 マカロのたいへんないちにち・4

 翌日、俺は炎樽の母ちゃんに用意してもらった学ランを着て炎樽と一緒に学校へ行った。 「大丈夫かな? バレないかなぁ……」  新品の学ラン、俺の体にぴったりでいい匂いがする。 「大丈夫だって。マカなら高校生でも通用するし、授業中はサバラの所で休んでればいいし。頭の色は目立つけど、それも三年の集団に比べたらまだ大人しい方だしさ」  そう言って笑う炎樽の髪には寝癖が付いていた。いつもはあのふかふかな髪の中に隠れていたんだと思うと、俺も少しずつ人間の世界に馴染んできたなと感慨深くなる。 「翼と尻尾は隠せてるし、気持ちが乱れない限りは子供の姿にもならないだろ。学園祭当日はこの格好で一日紛れ込むんだから、今から練習しておかないと」  サバラもやれていることなんだから、俺だってできる。慣れないことをするのは緊張するけれど、それと同じくらい楽しみでもあった。  それに──今日の俺には目的があるのだ。 「ほら、正門のとこに天和いるぞ。晴れ姿見せて来いよ」 「あっ、ほんとだ! 天和ーっ!」  思わず羽で飛びたくなったが、今日の俺は男子高校生。ちゃんと二本の足で歩いて走って、行きたい場所に行かなければならない。  俺は人間の男子高校生。  ただ美少女コンテストで優勝したいだけの男子高校生。  * 「お。学ラン、似合ってるんじゃないのか」 「へへ、炎樽みたく第二ボタンまで開けたし、ちょっとセクシーだろ!」  一時限目の授業が始まり、俺は早速保健室でお菓子を食べながらサバラにピカピカの学ランを自慢した。 「セクシーどころか、よりガキっぽくなったな」 「う、うるさいよ!」 「それより、準備は進んでるのか? 学園祭は三日後だぞ。コンテスト出場者は次々ポスターで張り出されるみたいだし、早めにエントリーしておいた方がいいんじゃないのか」 「そういえば、サバラの写真も張り出されてたな」 「出場者」の写真が貼ってある校内掲示板には、連日人だかりができているのだと炎樽が言っていた。自分の女装姿という恥ずかしい写真を早めに晒した分だけ、獲得できる投票数も増えるかもしれないということだ。  サバラは金髪ロングヘアのウィッグを被り、超セクシーな黒のキャミソールの上に白衣を着ているだけというお色気路線の写真を撮っていた。保健室のおんな教師というAVっぽさが男子達に絶対受けると踏んでいるらしい。 「でも残念だったな。お前はこの学校の生徒でも関係者でもないから、エントリーは当日になるだろう。これで俺の勝ちだ。今からケツ洗っとけよ」 「ま、まだ分かんねえし! 俺だって今日中にエントリーすれば……」 「受け付けてるのはコンテストの顧問をしている体育教師だ。職員室へ行って江戸山という男を呼べば会えるだろう。お前にとっては大変なミッションだな」  そのくらいできる。……多分だけど。  両手を合わせてもじもじする俺を見て、サバラが悪戯スマイルを作りながら言った。 「だがこのままだとお前に不利過ぎるから、一つ情報を教えてやる」 「え?」 「その江戸山という教師は、若くてピチピチな男の体育着姿に興奮するそうだ。学ランなんかじゃなく、な」 「サバラ、その人のこと徹底的に調べたんだろ。夢の中で」 「戦いに情報は必要不可欠だからな。──そこでこんなこともあろうかと、お前のためにこの学校の体育着を調達しておいた」 「……わざとこんなことにしてるようにしか思えないんだけど」

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