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第9話 マカロのたいへんないちにち・3

「俺がこれに出るっていうのか? 美少女って……俺は男だぞ」  サバラがプリントを指で弾き、ソファに座って脚を組んだ。 「よく分かんないから炎樽に聞いたら、それって男が女の恰好をしてどれが一番綺麗か決めるイベントなんだって。サバラってサキュバスになれるんだっけ。サバラが出たら優勝するんじゃないかな?」 「勝負事に勝つのは好きだが、性別を変えるのは反則なんじゃないか?」 「えー、いい案だと思ったのに……」 「まさかお前、全校生徒の性欲を俺一人に任せようとしているつもりじゃ……」 「うっ」  あっさりと俺の目論見がバレてしまい、サバラが呆れたように溜息をついた。  美少女コンテスト……多分、盛り上がるはずなんだ。性欲旺盛な思春期の男子達が、美少女と出会えるこんな機会を逃すはずはない。 「しかし」  サバラがテーブルに落ちたプリントをもう一度広い、少し笑って俺に言った。 「面白そうなイベントではあるな。お前がこれを俺に勧めるってことは、俺の色気に群がる生徒達を喰ってもいいってことなんだろう?」 「……再起不能にしない程度にな。誰でもって書いてあるから、多分先生やってるサバラも大丈夫だと思うんだけど……」 「俺が参加可能なら、お前も可能だな」  言われて俺は床に座ったまま踏ん反り返り、「当然!」と鼻を高くさせた。サバラなら絶対そう言うと思って、既に手は打っておいたのだ。 「だから俺も、夢魔印の通販サイトでコスプレ衣装いっぱい見てたんだ。男をメロメロにさせる女王様のボンテージと、きゅんきゅんさせるメイドさんと、ムラムラして虐めたくなるセーラー服と、もうどうでもいいから貪りたくなるベビードールとか!」 「……それをお前が着るのか」 「わ、笑うなっ!」  俺だって自慢じゃないけど肌は白いし綺麗な方だし、女装すればサキュバスに負けないくらいの色気が出るはずなんだ。  サバラには敵わないかもしれないけど、俺だってそれなりにはなれる。夢魔としてのプライドを賭けて、当日は絶対に男達の性欲を全部こっちに向けさせてやると決めたのだ。 言うならばこれは炎樽の天然フェロモンと、俺の盛り盛りてんこ盛りフェロモンの戦い。ちょっとハンデは貰うけど、これが上手くいけば炎樽と天和もお祭り気分の中でテンションマックスにイチャイチャできる。 「マカロ」  呼ばれて顔を上げると、サバラがソファから身を乗り出して俺の真正面に顔を近付けてきた。 「コンテストとは勝負だからな。俺とお前のどちらかが勝ったら、負けた方が一つ言いなりになるっていうのはどうだ?」 「えっ?」 「俺が勝ったら、今度こそお前のバージンは貰うぞ」 「じゃ、じゃあ俺が勝ったら……!」 「どうせお菓子だろ」 「……ま、まだ考え中!」

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