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第10話 みんなのハッピーなまいにち・2
帳が丘学園文化祭当日。
朝から学園内は大賑わいだ。普段は用がなければすぐに帰ってしまう不良達も、毎日受験勉強を頑張っている生徒達も、他校の生徒もそれぞれの家族たちも関係なく、すれ違う人達は皆とにかく笑っている。
「マカから夢魔グッズ借りたんだろ? 今日は変態共に絡まれたりしねえだろうな」
そう言って廊下を歩きながら、天和が俺の肩に腕を回してきた。
「天和、俺があげた指輪してる?」
「あ? 別にしてるけど」
「へへ……」
マカロに借りた「夢魔印の指輪」。それは本当に愛し合っている存在以外を寄せ付けない、夢魔の世界では互いに心に決めた一人にしか贈ることのできない指輪だそうだ。子供を産むために一時帰省したマカロが奮発して買ってきてくれたもので、俺と天和の指にはお揃いの銀のリングがはめられている。
「マカ達も来るんだろ。うろうろしてて大丈夫なのか」
「サバラが校門まで迎えに行くって言ったから、大丈夫だと思うけど……」
「炎樽ーっ!」
元気いっぱいの声が廊下に響き、俺達は同時に後ろを振り返った。
「マカ!」
「炎樽! エッグタルト、ください!」
タルトを抱いたマカロが片手をあげ、眩しいほどに輝く笑顔を振りまいている。その少し後ろではサバラが肩で息をしていた。腕には幾つものビニール袋がぶら下がっている。恐らくここに来るまでの途中、様々な模擬店で買わされたのであろう食べ物の入った袋だ。それに加えてタルト用のベビー用品が詰まったバッグも持たされているし、背中にはおんぶ紐がついたままだ。
「タルトー! よく来てくれたな!」
昨日会ったばかりなのにもう会えたのが嬉しくて、俺は指しゃぶりをしているタルトを早速抱かせてもらった。ずっしりと重く、温かい。今日も順調に育っている。
「ほたうー、たーと!」
「タルトもエッグタルト食べたいって」
「食べさせていいのか? 生地とか結構ザクザクしてるけど」
「大丈夫だよ。俺なんか産まれてすぐ百倍激辛カレー食わされてたし。だから辛いの嫌いになったんだけど」
歯も牙も生えてるし何でもよく食うから平気、とマカロが笑った。その口からは涎が垂れていて、よほど今日という日を楽しみにしていたんだろうなと思う。
「じゃあ天和の奢りで食いに行こうか」
「別に、それくらい奢ってやってもいいけどよ」
「マカロ」
ぜえはあ言いながらサバラがやってきて、持っていた荷物をマカロに預けながら言った。
「俺はコンテストの準備があるから、これ全部頼んだぞ。タルトのおむつが入ってるから、これだけは失くすなよ」
「サバラ、まだコンテスト出るつもりだったんだ。炎樽には夢魔の指輪があるから、別にそんなのやらなくたっていいのに」
「お、お前っ……お前が俺を巻き込んだくせに、しれっと熱冷ましやがって……!」
「だってサバラが種付けしたせいじゃん」
「お前も合意していた!」
痴話喧嘩だか何だかよく分からない二人を前に、俺はタルトの桃色の髪を優しく撫ぜた。
「ほたうー……たーと……」
「そうだよなぁ、ごめんなぁ。……ほら親共、喧嘩してねえで。タルトが腹減ったって。あー可愛い。もう、俺がお前を食べちゃいたいくらいだよ」
「お前まですっかり親の顔になってるな」
「だって子供は可愛いよ。天和、俺達も将来は子供欲しい」
「……そうだな。いつか」
そう言って、天和が俺の額にキスをした。
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