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第10話 みんなのハッピーなまいにち・7
数カ月後──
「炎樽」
「天和!」
俺にとってはいつもの場所、校門前。
天和には最後の日、卒業式。
「天和ー! 待ってたぞ!」
「何だそれは、制服のボタンが一つもないじゃないか」
背景に桜が舞う中──マカロの笑顔とサバラの呆れ顔に迎えられ、天和が照れ臭そうに花束ごとこちらへ手を挙げた。
第二ボタンどころか袖のボタン、おまけにパーカの紐から上履きから使っていた鞄や教科書に至るまで、天和の全ては一年生達に取られてしまった。
俺に残ったのは、何より大事な天和本人。
「卒業おめでとう、天和」
「ああ。来年度はお前も三年だ、頑張れよ」
「うん……」
校門前で堂々と抱き合い、唇を重ねて微笑み合う。
「たかとも! おすし食べるやくそく!」
「おっと、またデカくなったなタルト。一瞬、マカがガキになった姿かと思ったぜ」
「へへ。すぐに炎樽と天和の背も抜くかもな!」
得意げに笑うマカロの横で、タルトを抱き上げたサバラが大きく溜息をついた。
「マカロと同じでお前の胃袋はブラックホールだからな」
「父ちゃん、早くたかとものお祝いしに行こ!」
「ああ、そうだな。先に車回さないと」
「マカパパも!」
「おう! 炎樽、天和。車取ってくるから待っててくれ!」
親子が仲良く駐車場へ向かう後ろ姿を見つめながら、天和が強く俺の手を握った。
桃色の花弁が舞う晴れやかな三月の空。
「炎樽、……」
少し切ない、だけど特別な俺達の空。
「結婚しよう」
「え……?」
ここから同時に踏み出した俺達の一歩は、きっとこの先同じ道、同じ未来へと続いている。
「おーい! 炎樽、天和ー!」
「ああ、今行く」
「………」
俺の手を引いて歩き出した天和の背中はあの日見た時と変わらず、大きくて逞しい。
いつだって俺を守ってくれた、俺の大好きな男の背中。
「──喜んで!」
「うおっ、炎樽てめえ、いきなり……!」
俺はその背中に思い切り飛び付き、赤くなった天和の耳に心からのキスをした。
終
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