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第4話
その時は丁度、俺の大嫌いな数Aが終わったあとの昼休みだった。
俺はいつも周りから"派手"と呼ばれるダチ達と、適当にどこから持ってきたか分かりもしない野球ボールを投げあっている。
するとダチの1人がバカ笑いしながらボールを俺に向かって投げてくる。
そこまではまだよかったが、そいつの下手くそな回転で野球ボールはどこかへ行ってしまった。
『おい下田、どこまで投げてんだよ!』
『ひゃっひゃっひゃっ!やばいうけるわー!
いやごめんってライ!今すぐ取ってくるから怒んなよー!』
ヘラヘラと笑う下田にムカついた俺は、下田の前髪にとめていたヘアピンを奪い取って全力でダチにそれを投げた。
『うわあ!いきなりなんだよ!!』
『お前どうせ探すのおせぇから、俺が探してくるわ。見つけてくるまでお前らはそれでも遊んでろ』
ちょうど自販機で何か買いたかったし。
下田待っている間もどうせ暇だからと、俺はその場からスタスタと離れ出した。
『ぶはっ、じゃあ俺らはクソ下田のヘアピンで魔球でも極めとくわ』
『はぁ!?お前らまでなんだよー!俺のは完璧な球だったんだぞ』
ダチ達が下田を指さしながらゲラゲラと叫んでいる。
俺は笑いながら、とりあえずボールが飛んだ方向にブラブラと歩く。
そこへ行くと辿り着いたのは校舎の裏側。
こんなん所にあるかよ。
内心で舌打ちをした俺は、どうせ自販機に寄れればいいかと諦めて戻ろうとした。
するともっと奥の方でか細い声が聞こえる。
『好きです、付き合ってください』
ふと見ると赤面している女。
見てて消し飛ばしたいくらい化粧が濃いその女は、上目遣いで『おねがいします……!』と泣きそうな声で呟いた。
それを無表情で見つめる男。
別に俺は、誰かが誰かに告白するとこなんてクソほど興味ねぇからスルーする。
なのになぜかその時にかぎって俺の足は立ち止まってしまった。
『……俺さ、小さい頃からずっと好きな子いるんだよね。
だからごめん』
『え、』
はっきりと今あの男は振ったが、まさか振られるとは思わなかったらしい女がカッとなって叫んだ。
『っ、でもそれって昔の話なんでしょ!噂で聞いたよ!!今はもう会ってもいないって……。』
『でも約束したから、ごめんね?』
それでも頑なに迷わないと男の瞳が真っ直ぐに女へと向けられる。
俺はその目を見た瞬間、胸が締め付けられるように痛くなって急な動悸を感じた。
っんだこれ。
アイツ、どっかで見たことあるような……?
いきなりドクドクと胸が鳴る自分に戸惑い、聞いてるこっちが何故だか恥ずかしくなる。
そういえば昔、全く似たようなことがあったんだ。
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