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『記憶』第5話
まだ幼い頃。
俺には仲が良い男友達がいた。
それは小学生のときだった気がする。
相変わらず今と同じように騒ぐのが好きだった俺は、よくその友達の手を握りながら色んなとこに遊びに行っていた。
いつも何も言わずただニコニコと後ろを楽しそうに付いてくるそいつに、俺は嬉しくなってどんな時も一緒に居た。
当たり前のようにそばに居るアイツが嬉しくて仕方がなかった俺。
でもそんな関係も長くは続かない。
――冬頃、急に親の転勤が決まったそいつは、遠く離れた県外に引っ越すことになった。
俺は悲しくて泣きたくても、自分のプライドがどうしても邪魔をして泣けない。
そいつは最後一緒に遊んだ日に『絶対バイバイしようね』と言ってたけど、俺は正直ショックで顔も見たくなかった。
そしてとうとうお別れの時、顔を俯かして黙る俺を見てアイツは苦笑しながらにこっと笑う。
『おれね、ライのこと大好きだよ』
『はぁ…?だいすき?』
『うん、ちゅーしたいくらい大好き』
『ちゅー?おれたち、コイビトでもなんでもないのに?』
俺もこの時はまだ幼すぎて、男同士ってことやそれ以前に友達以上の大好きっていう感情がよく分からなかった。
『……っでもお前は、おれのことだいすきっていうくせに、遠くにいくんだろ?』
口を尖らせながら小さく文句を言う内に、とてつもなく泣きそうになった。
なんでおれのことすきなのにおれから離れるんだよ…。
そんな気持ちでいっぱいだった。
『んーじゃあね、ライ。
もしいつかおれと会えたら、コイビトっていうのに一緒にならない?』
『コイビト??』
俺は目をぱちくりする。
『そうだよ。ほら手ぇ出して、約束』
『っ絶対だからな!』
そうして約束の指切りげんまんをアイツとした。
『じゃあそろそろ行くね、バイバイ』
『うんまたなー!』
アイツがどこか遠くまで見えなくなるまで手を左右に振り続ける。
いつの間にか涙なんて引っ込んでいて、その代わりいつもの元気な調子が出てきた。
いつかまた会って、今度こそは。
小さい子どもながらに俺はそう思ったのだ。
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