6 / 6
星降る夜のフラグメント(サンプル)
宮野玲(みやのれい)は激しく困惑していた。二十二年間生きていて、今、初めて男に抱かれようとしている。
熱めのシャワーを浴びながら、その時を待っているだろう少年のことをあれこれ想像する。
彼はなぜ自分を指名してきたのだろうか。しかも女に頼んでまで呼び出すほど。
「ご指名ありがとうござ……あれ」
新規の女性の接待のために玲は早めに指定のホテルの部屋に到着していた。それなのにドアを開けるとそこには長身で艶のある黒髪と冷たい瞳の青年が立っていた。
「あの……部屋を間違えたんじゃないかな?」
「いえ、ここで合ってます」
身体をぐいっと押され玲はよろめいた。さっさと部屋の中に入った青年の後を追うためにドアを閉める。
玲は女性のみに付き合う高級出張ホストだ。今まで男の客など取ったこともないし考えたこともなかった。オーナーからも特段変わったことは言われなかった。当然、相手は女に決まっている。何かの間違いだと思いリュックを置いた青年の背に声を掛ける。
「君、誰? 本当にここで合ってる?」
「あなた、出張ホストでしょ? 知ってるよ」
見下げられていい気はしない。玲は黙り込んだ。
「女しか相手にしないことも知ってる。だから頼んで予約を入れてもらったんだ」
先程からずっと穴が開きそうなほど凝視されている。品定めでもしているつもりか。それにしてもこの契約は無しだと玲は判断し手を振った。
「だったら俺は帰らせてもらうよ。男はダメだ」
コートに手を伸ばそうとするといきなりぐっと腕を掴まれた。痛みに顔をしかめていると青年はすっと手を放し、リュックを引き寄せた。
「お金ならあるよ。契約とは別に払うから」
中から財布を取り出すと無造作に掴み、札を出してきた。受け取り数えると十万あった。自分を買うのに一晩相当な金を支払っているのにその上まだ金を出すというのか。契約とは別にもらった金はそのまま自分のものになる。玲は少し躊躇ったがその金を突き返す。
「だから男はダメだって言っただろ?」
「足りないならもう十万足すよ。これで俺に抱かれてほしい」
話は決まった、というふうに青年はダッフルコートを脱いだ。そこで玲はびっくりして声を荒げた。
「制服……! 高校生かよ!」
「高校生がダメだとは聞いてない」
「いやダメだろ! 未成年はお断りだぜ」
「ならもう十万出すよ。これでいいだろ?」
一晩で三十万。玲にとってそれはとても魅力的な提案だった。だが相手が男で高校生となると話は別だ。しかし……。
「お金、いるんでしょ?」
決定的な一言を言われて玲は詰まった。金は幾らでも要る。しかもホストをやっていられる時期は限られる。
「これから契約とは別にお金を渡すよ。それでもイヤ?」
考える余地はもうなかった。
「……わかった。よろしく」
いきなり抱きすくめられて玲は胸の中で足掻いた。
「ちょっと待て、シャワーを浴びさせてくれ」
「そんなの構わないから」
「……準備が、いると思うから」
名残惜しそうに少年が玲を放す。一緒に、と言われてそれだけは断り、玲は浴室へと重い足取りで向かった。
……続く
ともだちにシェアしよう!