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在りし日の彼を思う。

「今日花火大会があるってよ。屋上で見ながら飲み会するぞー」 就業間際汗を拭きながら事務所に入ってきた誠一さんが呑気に言う。 「またそんな突然!?」 一応の抗議を口にしながら泰生さんが携帯を取り出し電話を始める。 帰り支度をしていた遥くんの頭をくしゃと撫で、誠一さんが圧をかけて笑う。 「遥も当然参加な」 照れを隠すように笑う遥くん。 笑う彼はとても素敵だ。 笑えるようになった彼を皆が誇りに、そして何より安堵の気持ちで見ていた。 買い出しを済ませて屋上に上がる。 テーブルも椅子もない。 薄いレジャーシートを広げ、肩をくっつけ合うように座りまだかまだかと空を見上げた。 「遥、これからどうしたい?」 誠一さんの声が暗い空に反響するように聞こえた。 「言ってみな。たぶん俺や皆がそれを叶えてやれる」 泣き出しそうに歪む顔。 アンドロイドだった彼が漸く、漸く出せるようになった感情。 思わず抱き寄せていた。 もう二度とあんな顔はさせない。 母性のような気持ちで相変わらずの薄い肩を強く抱いた。 「ここで……働きたい」 搾り出される声に誠一さんがニヤリと笑う。 「明日契約書な。印鑑持ってこいよ」 いつものふざけたようなからかうような誠一さんの言い方に腕の中の彼が笑った。 ここまで仮契約ながら彼は存分に働いてくれた。 まるで心配する皆に恩返しをするように。 率先して掃除をし、データ入力をし、その時彼が出来ること以上のことを常にやらせてくれと懇願した。 必死で役に立ちたいと動く彼を思い出し涙が止まらなくなった。 人の役に立つ仕事がしたい。 初めてきたあの日、その言葉を彼がどんな思いで言ったのか、今なら少しわかる気がする。 誰か、誰でもいい、必要とされたかったんじゃないか。 ここに居ていいと声をかけて欲しかったんじゃないか。 それは家族ではダメで、それを縋るような思いで吐き出したんじゃないか。 止めどなく泣く私の背中を彼の手が優しく撫でる。

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