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在りし日の彼を思う。

「響子さん、コップ空だよ」 遥くんの声にハッと我に返る。 ビールを注いでくれる彼の穏やかで優しい顔を見たら涙が溢れた。 私の手からコップを取り上げ遥くんが私を抱き寄せる。 あの頃に比べたら厚く逞しくなった肩にまた新しい涙が溢れた。 「…思い出してくれてた?」 「うん…」 「響子さん、ありがとう」 「うん…」 侑司くんが心配そうな顔でこっちを見ている。 コーヒーマシンにまでヤキモチをやいたと聞いた時は呆れたけど、そんな侑司くんだから遥くんの今があるのかもしれない。 遥くんにベタ惚れな様子は誰が見ても明らか。 目に余る時もないことはないけど、遥くんが笑っているならと許せてしまうのも確かだ。 「そろそろ離れないと彼氏が焼いて大変よ」 「ん、かもね」 遥くんがふはっと笑う。 私を包むように抱き締めたまま遥くんが背中をそっと撫でた。 「響子さんが泣き止むまではこうさせてよ。俺にしてくれたようにさ」 「……生意気」 「ごめんなさい」 笑う遥くんの腕の中で止まらない涙を拭いつつ思う。 今年の花火、最初の一発目しか見られなかった。 でもそれが何故か凄く嬉しい。 また何度でもこうして皆で見られる、そう思えるから………

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