52 / 215
在りし日の彼を思う。
「響子さん、コップ空だよ」
遥くんの声にハッと我に返る。
ビールを注いでくれる彼の穏やかで優しい顔を見たら涙が溢れた。
私の手からコップを取り上げ遥くんが私を抱き寄せる。
あの頃に比べたら厚く逞しくなった肩にまた新しい涙が溢れた。
「…思い出してくれてた?」
「うん…」
「響子さん、ありがとう」
「うん…」
侑司くんが心配そうな顔でこっちを見ている。
コーヒーマシンにまでヤキモチをやいたと聞いた時は呆れたけど、そんな侑司くんだから遥くんの今があるのかもしれない。
遥くんにベタ惚れな様子は誰が見ても明らか。
目に余る時もないことはないけど、遥くんが笑っているならと許せてしまうのも確かだ。
「そろそろ離れないと彼氏が焼いて大変よ」
「ん、かもね」
遥くんがふはっと笑う。
私を包むように抱き締めたまま遥くんが背中をそっと撫でた。
「響子さんが泣き止むまではこうさせてよ。俺にしてくれたようにさ」
「……生意気」
「ごめんなさい」
笑う遥くんの腕の中で止まらない涙を拭いつつ思う。
今年の花火、最初の一発目しか見られなかった。
でもそれが何故か凄く嬉しい。
また何度でもこうして皆で見られる、そう思えるから………
ともだちにシェアしよう!