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※誰にも渡さない。
充分に遥さんと二人の時間を堪能し、迎えた月曜日。
朝から柏木の声も姿も目につく。
やっぱり気のせいじゃない。
柏木は遥さんに気がある。
思われているのは俺だ。
これから先の将来、共に過ごそうと誓い合ったのも俺。
七年間ほぼ一緒に過ごしてきた。
それなのに、遥さんに気がある男が遥さんの側にいる、ただそれだけでこんなに揺れ不安になるものか。
呼ぶな。
見るな。
触れるな。
その人は俺の物だ。
噛み締めた奥歯が嫌な音を立てたのを耳が拾った時、デスクにマグカップが置かれた。
「侑司さん、大丈夫ですか?」
押さえた真由ちゃんの声に我に返った。
「ありがとうございます…」
「顔色が良くないですよ、熱とか」
「具合悪いのか?」
真由ちゃんの声を遮るように遥さんの声がしたと思った次の瞬間には額に手が置かれていた。
心配そうに眉を下げた遥さんが自分の額にも手を置き俺の熱と比べている。
「熱はないっぽいけど、顔色は良くないな。あんま眠れなかった?」
「大丈夫です」
答えた俺の後ろ髪を撫でながら、遥さんが真由ちゃんに向き合う。
「急ぎの仕事、なかったよね?真由ちゃん」
「はい」
「侑司、お前帰れ」
「えっ!」
思わず仰いだ遥さんの顔は心配そうに歪んでいた。
でも事務所に遥さんと柏木を残して帰るなんて冗談じゃない。
「大丈夫です!」
「定時で帰る。帰ったらお前の好きな中華粥作ってやるから」
な?と笑いながら遥さんが俺の頬を撫でる。
頷きたくなくて見上げる俺の後ろで柏木が動く気配がした。
「あの、お二人は一緒に住んでるんですか…」
戸惑いながら柏木が声にした言葉に遥さんが笑った。
「そう。俺のパートナーは侑司だから」
な?ともう一度聞かれた遥さんに、今度は即座に頷く。
「男同士に抵抗あったらごめん。会社では普通の同僚だから特に意識しないで貰えると助かる」
はいともええとも言えない曖昧な返事をした柏木がさっきまでやっていた仕分け作業に戻ると、遥さんの止まっていた手がまた頬を撫でた。
「一人で帰れるか?」
「大丈夫です、居ます」
顔色が戻ったのか、俺の表情を見た二人の顔が綻んだ。
仕事に戻る背中を見ながらさっきまでとはまるで違う胸の軽さに少し口元が緩んだ。
遥さん、俺に力を与えてくれるのはやっぱりいつもあなたです。
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