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「いよっす。アキ」
ドアの向こうから現れた男に、俺の胸が大きく高鳴る。
俺よりほんの少し高い背。夏の海で日焼けした肌。ほんのりダークブラウンに染めたベリーショート。目元の泣きぼくろ。
……本当、かっこいいなあ。
変な贔屓目無しに見たって、イケメンだと思う。
口角を上げながら歯をちらりと見せる笑顔の仕草は子どもの頃からちっとも変わらない。
今年でもう32年間見続けているのに。だのにいつまで経っても慣れず、懲りず、いちいち見惚れてしまうのだ。
顔を合わせるたびに何度も何度もこの男が好きだと思い知らされる。
彼が俺を「アキ」と親しげに呼ぶときに、呼ばれるたびに、いつも俺の心は跳ね上がって高揚する。
「……いらっしゃい、ショウ」
「おう!お邪魔しまーす!」
家に上げるやいなや、玄関の上に奴の持参してきたコンビニの袋が置かれる。やたら体積が大きい。
中身は見なくたってわかる。酒だ。
「……式の前日にやることじゃねえなあ?新郎くん?」
「はーいブッブー。違いまーす。ボクまだ独身でぇーす」
「まったく。本当にこんなんとくっ付いていいのかねー、ショウの嫁さん」
「なんなの!?アキは俺来て迷惑なの!?」
「……。なわけねーだろ。さっさと上がれって」
「へへっ、だからアキ好き〜」
彼の左手の薬指に輝く銀色の指輪。
こっそりそれを見やると、ショウはにこりと人当たりの良い笑顔を作った。
明日、俺の目の前にいる男は結婚する。
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