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結婚の報告を受け、俺の頭に駆け巡ったのは「おめでとう」という純粋な祝福でも「ずっと前から好きだった」という衝動的吐露でもなく、「ショウを殺そう」という諦めにも似た決意だった。 いつかそうせざるを得ないと思っていた。向こうもこっちも男という性別であるのは変えられないうえ、こいつは至って普通の異性愛者だ。 だからショウを消すことで俺の恋は終わるのだ。絶対に。永遠に。 わかっていたはずだ。 覚悟はあったはずだ。 けれどお互い年を重ねていくうちに、その日はやってこないんじゃないかという淡い期待を抱いていたことも事実だ。 しかし現実はそう都合良くいかない。 好きという感情には慣れないのに、想い人をさも何食わぬ顔で家に迎え入れるのに慣れたあたりは我ながら少し切ない。 俺は酒の山からビールの缶を掴みプルトップを開ける。 しかし、口にする直前で止められた。 「あっストップ。乾杯しよ」 「何にだよ」 「うーん……。あっ!じゃあ、俺たちの友情に!」 「……はいはい、友情にかんぱーい」 俺が適当に缶をぶつけると「雑!」と叫ばれる。 向かいにいる相手の心情など当然わからないまま、ショウはビールに口を付けた。 あっちではグビグビ美味そうに酒を進めているけれど俺は半分で止めておいた。 あまりアルコールが回ると決断が鈍りそうだと思った。 幼馴染で親友。保育園の頃から俺たちは一緒だった。小中高ついでに大学まで同じところに通った。そしてお互い社会人に、大人になってもこの所謂仲良しの状態は続いた。 きっとこれからも、そんな風に付き合って行くのだろう。 俺たちはそんな関係だ。 苦しくて、つらくて、泣きそうなほど。 吐きそうなくらい、俺たちは強い友情で結ばれた友達という関係だ。 元々今日俺は一人でショウを殺す決行日に当てていた。 夜に手土産を持っていて「結婚おめでとう」とか言って、そこで終わらせる予定だった。 「紗耶香(さやか)ちゃんにはちゃんと飲んでくるって言ったのか?」 「言ってないけどぉ…。サヤだろーと親だろうとこればっかは文句言わせねーしぃ。何たって35年生きてるうち俺とアキは30年付き合ってるわけだし」 ……32年だよ。 なんて女々しくて虚しいこと口には出さねえけど。 最後にお前と二人きりで会えただけで、嬉しかった。 奴が唐突に「今日行く」なんてライン寄越してきて、今の会話で花嫁よりも優先された立場であることが俺は嬉しかった。 「アキはなぁ、俺の最優先だから」 「……そう」 ――でもお前は、俺のことなんか何も知らない。 これからお前の一番はきっとどんどん俺ではなくなる。 怒りにも似た悲しみが静かにこみ上げたが、俺は何事もないような笑顔を作った。

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