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1st 1人でいいと、思ってた。
すごく便利な世の中になった。
買い物は、インターネットですべてできるし。
仕事だって、家でできる。
気分がいい時に、外出すればいい。
薬を飲んでいれば、ヒートも大概、楽に過ごせるし。
ずっと家にいれば、ヒートで他人に迷惑をかけることもない。
1人で過ごして、1人で眠る。
寂しいと言えば寂しいけど、僕のせいで周りが混乱すると思えば、この暮らしがとても快適なんだと、思える。
だって、僕はオメガだから。
知り合いのオメガは会社勤めで、「好きな仕事だから頑張れるけど、色々気を使う」って、言っていた。
僕には、そんな器用な事は、出来そうにもない。
どんなに頑張ったってアルファやベータになれるわけがないから、それを受け入れて、オメガとして、上手く生活していくしかないんだ。
それに......。
僕は、アルファから逃げ切れる自信もない。
きっと、本能的にアルファを求めてしまう。
だから、多くのアルファの欲望を目覚めさせる。
たくさんのアルファが僕に狂って、僕の中を支配する。
それに、僕は耐えられない。
穏やかに......穏やかに、生きたい。
せめて、オメガだって自覚なしに、穏やかに、生きたい。
僕は、月1回の頻度で病院にいく。
ヒートの状態を問診してもらって、今の状況にあう薬をもらうためだ。
製薬メーカーが、かなり頑張ってヒートの薬は色んなタイプのものが開発された。
だから、たくさんのオメガがすごく助かっている。
それに伴って、多様化した薬の濫用や不正利用目的での転売を防止するため、インターネットや電話での問診、薬の処方はできず、必ず医師の問診を受け、その場で処方箋を受けることが必要になった。
薬を悪用してオメガを拘束したり、監禁したり。
物理的にオメガを支配できないようになったんだ。
....だんだん、社会的にもオメガが守られるようになってきたんだ、と実感する。
僕が通う病院の先生は、僕が小さい頃からお世話になっている人だから、とても安心してるし、話しやすい。
番号を呼ばれて、診察室に入る。
「失礼します」
「こんにちは、小川佑月さん?
こちらにどうぞ」
いつもとは違う、低い声にビックリした。
思わず顔を見てしまう。
体格がよくて、笑顔が眩しい。
この先生、初めて見る....。
「....あの、いつもの先生は?」
「あぁ、父ですか?
今日は学会に行ってて、俺がピンチヒッターなんです。
これでも医者ですから、安心してください」
その言葉に思わず笑ってしまった。
「先月から変わりはないですか?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、今までと同じ薬で、処方箋をだしておきますから」
「ありがとうございます」
「....ただ環境が変化したり、ストレスを感じたりすると、薬の効き目が変わったりするので、その時は、すぐ連絡くださいね」
そう言うと、その先生は名刺をくれた。
〝江藤光輝〟
ご丁寧にも、緊急連絡先まで書いてある。
「ありがとうございます。....すごく助かります」
....それから少しして。
僕は今までにないくらい、強いヒートを迎えてしまった。
頭がクラクラする....。
脱力感が半端なくって、力が入らない....。
体の奥がウズウズして、体が熱い....。
体が.......欲してる.......?
....立つこともままならない。
みんな、こんなにキツいヒートを迎えてるんだろうか....?
オメガの性と言えば、性なんだろうな。
アルファを手当たり次第に求めて、たった1人の番を探す。
気持ちとか、感情とか、関係ない。
番を探すために、フェロモンを撒き散らして、多くのアルファを引き寄せる。
それが、オメガの性。
普通にしてても絶対に隠せない、僕の本能なんだ......。
でも、キツイ.....。
....どうしよう、薬の効き目が変わったのかな....?
アルファを引き寄せる、体の変化が、怖い....。
....環境の変化もなければ、ストレスもなかったはずなのに。
唯一の変化と言えば、病院の先生が変わったことくらい。
目を閉じたら、あの先生のあの笑顔がチラついて離れない....。
あの先生に連絡したら、助けてくれるんだろうか....?
僕は、思わず電話をかけてしまった。
「....先生、お忙しいところごめんなさい。
小川佑月です....。
....薬が、効かなくなってしまいました....助けてください.....」
✴︎
「....先生、お忙しいところごめんなさい。
小川佑月です....。
....薬が、効かなくなってしまいました....助けてください....」
その人からの苦しそうな電話で、俺は、いてもたってもいられなくなった。
初めてその人が、診察室に入ってきたとき。
その真っ直ぐな黒い瞳に、引きつけられた。
楽しそうな笑顔を見ると、ドキッとした。
そして、ほのかに漂う、甘い....香り....。
オメガって、こんな香りがするんだ....。
その人は小川佑月と言った。
今まで何人か、オメガの人に会ったことがあったけど、特に何も感じることはなかった。
オメガうんぬんよりも、まず、佑月自身に惹かれてしまったから、一目惚れに近いのかもしれない。
問診の間も、ドキドキして仕方がなかった。
俺は、アルファだから....。
今までアルファはオメガに対して、結構ヒドい扱いをしてきた。
ひょっとしたら、佑月はアルファが嫌いかもしれないし。
俺は、佑月に抱いた思いを隠したまま、毎日を過ごしていた。
その矢先に、この電話。
カルテに記載されている住所を確認して、俺は足早に病院を出た。
ピンポーン
『....はい』
「江藤です。病院から来ました。江藤光輝です」
ガチャ。
佑月が、向こう側からのぞくようにドアを開けた。
....キツそうな、火照った顔。
絞り出すような声で「....先生....お忙しいところ、ごめんなさい....」と言った。
そして、あの、香り....。
ヒートの時は、さらに強くなるって聞いていたけど、ここまで強くなるなんて、思いもよらなかった。
俺自身が、我慢できるか、正直、自信がなくなってきた....。
「....こんなにキツいヒートは、初めて?」
佑月はベッドに腰掛けて、こくりと頷く。
俺は、目線を合わせて話をする。
佑月の潤んだ黒い瞳が、荒い息づかいが、香りと相まって、余計に俺をクラクラさせた。
「いつから?」
「2日くらい....前から....薬を飲んでも、なかなか....おさまらなくって....」
「....オーバードーズは、してない?」
「....してません」
よかった....と思った瞬間、俺は、咄嗟に佑月を抱きしめていた。
「先生....?」
「....初めて会った時から、あなたが気になってたんだ....。
決して、あなたがオメガだからってワケじゃなくて、あなた自身が好きになってしまった....。
抑えようと思ったんだけど....もう、ムリだ」
俺は佑月の小さな顔を手で覆って、唇を重ねた。
熱い佑月の唇の感触に、たまらず舌を入れて口の中をかき回す。
佑月が小さく「....んっ....」と、声を漏らすから......俺は、思わず唇を離す。
「ごめん!....でも、止められない!」
「........僕を....助けて」
苦しそうに佑月は言った。
「キツイ.....苦しい........楽になりたい。
もう、自分じゃどうすることもできない........」
佑月から一筋の涙がこぼれ落ちる。
「オメガは......オメガだから........アルファに迷惑をかける.......。
だから、ひっそりと生きてきたのに.......。
苦しい.......助けて!!........先生!......僕を助けて!!」
....そんなこと言われたら、もう、どうしようもない....。
佑月の服を勢いで脱がすと、そのままベッドに押し倒す。
そして、再び激しく唇を重ねた。
首筋に舌を這わすと、甘い香りが俺を余計に刺激する。
佑月の火照った体がしなって、感じているのがよくわかった。
「んっ.....はぁ.......はぁ....あ....」
佑月は腕で顔を隠す。
腕の間から、目をギュッと閉じ、頰を赤らめて懸命に耐えてる佑月の顔が見えた。
....それでも、漏れる吐息や声が、俺をもとめている。
ダメだ....もたない!
「....佑月、ごめん!....君を、乱暴にしてしまいそうだ....」
顔を覆う佑月の両手首を強く握ると、佑月の中に入れる。
「あぁ!!ん....っ」
その瞬間、佑月の瞳が開いて、涙がポロポロこぼれ落ちた.......細い腰が大きくしなる。
佑月の中は、熱くて、溶けてしまいそうで......。
....タガが外れるって、このことなんだ....。
激しく動いて、佑月の中をかき乱した。
その度に、佑月の体がビクッと動いて、声が漏れる。
「奥......やぁ........や.....」
それでも、佑月の中は、俺にぴったり吸い付くように絡め取って離さない。
そして、佑月の首からは、また、あの香り....。
絶頂が近づくにつれ、吸い寄せられるように。
体を倒して、佑月のうなじに唇をもっていく....。
「....先生....!....ダメだっ....!んっ....あっ.....。
光輝!!はぁ....噛まないでっ!!」
佑月の懇願する声は、俺の耳には届いていた。
届いていたけど、逆らえない....。
うなじをキツく噛んだ....。
同時に、佑月の中に出してしまった....。
「あっ!.....あぁ......あ.....」
力なく、佑月が声を発する。
佑月のうなじに深く残る痕....俺たちは番になってしまった。
佑月は、涙を流しながら、呆然としていた。
ごめん....佑月.......でも、もう戻れない。
✴︎
深く噛まれた首の後ろが、ズキズキ痛む。
僕が〝助けて〟って言ったばっかりに。
先生....光輝と番になってしまった。
そして.....。
1度絶頂を迎えてしまった光輝と僕は、求め合うように、何回も何回も肌を重ねた。
だから、イヤなんだ。
アルファの本当の気持ちとか、理性とか。
オメガは、アルファのすべてを崩壊させて、誘い込む。
結局、自分のツラさを、苦しさを解消するため、アルファを利用するんだ、オメガは。
でも、止まらない......。
それは、僕がオメガだから。
少しでも、心を惹かれた光輝を誘って、甘えて、番にまでさせて。
激しく抱かれて、欲情するまで感じながらも、僕はオメガという性が、死ぬほどイヤになった。
もっと、違った形で出会いたかった、光輝に。
アルファとオメガって関係じゃなくて。
心と心が通じ合って、肌を重ねる。
そんな、関係になりたかった.......。
ツライ......。
だから、ずっと1人でいいって思ってたんだ....。
疲れ果てて寝てしまって、目が覚めると、僕のヒートは噓みたいにおさまっていた。
正直、ホッとした。
と同時に、胸が苦しかった。
「佑月、起きたの?」
僕の横で寝ていた光輝が、僕の肩を抱き寄せて言った。
「光輝.......ごめんなさい」
「....なんで謝るの?」
光輝は少し目を見開いて言う。
「僕が〝助けて〟って言ったばっかりに...こんなことになってしまった....本当、なんて言ったらいいか....」
光輝は、笑って僕の頭を軽く撫でた。
「それはこっちのセリフ。こんなことにしてしまって、ごめん。
でも、俺は後悔してない。
佑月とずっと一緒にいたい。
番になってよかったと思ってる」
「......うそ.......そんな優しさなんて、いらない。
番だって、理性をなくしてついつい.....でしょ?
オメガだから.......」
「違う!!」
光輝が、少し怒った顔をして僕をキツく抱きしめた。
「違うから!!佑月!!
そんなに自分を否定するな!!......。
佑月がオメガだからじゃない!!
きっと、佑月がベータでもアルファでも。
俺は、佑月に恋してた。
それは、優しさとか同情とかじゃなくて、俺の本心なんだよ、佑月。
.......信じて......お願い」
光輝の言葉で、心の中につっかえていたモノが、スッと消えて無くなった。
安堵からか、涙が溢れてくる。
「もう、泣かないで....佑月。
今まで1人でよく頑張ったね。
....もう、1人で頑張らなくていいよ。
俺がいるから....俺に甘えていいから....番とか関係なく、これからを一緒に楽しく過ごさない?」
僕は、光輝にしがみついた。
光輝の言葉が、本当に嬉しかった....!!
うそでも、同情でも。
その言葉が、胸に刺さって......。
初めて、アルファが好きになった。
初めて、オメガである自分が、好きになった。
僕たちは軽く唇を重ねた。
きっと、これから....もう、僕は1人じゃない。
光輝がいる。
穏やかに、2人で過ごせたら......。
この上ない幸せを、僕は手に入れたんだ。
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