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4th #3 when it comes to U〜オメガの君と一緒に暮らすようになったワケ〜

秘密。 多分、誰にだって秘密の一つや二つ、心の中に秘めてそっと隠して、守っている。 それが、わざとじゃなく、予想だにしないカタチでバレてしまったとしたら。 逆に、そんなつもりはないのに、予想だにしないカタチで相手の秘密を知ってしまったとしたら。 口を閉ざす、か。 暴露する、か。 いずれにしてもこの二者択一になるんじゃないだろうか。 そして、今。 俺はこの二者択一を迫られている。 つい、ひょんなことから、相手の秘密を知ってしたんだ、俺は。 もちろん俺は口が堅い方だし、誰にも言うつもりもないから、〝口を閉ざす〟の一択なんだけど。 果たして、目の前の人がそれを信じてくれるかどうか 。 いくら言葉を重ねても、嘘っぽくなってしまいそうだし、なにより、俺を睨むこの人の目を早くどうにかしたい。 かわいいんだから、マジで、やめてほしい。 〝一言でも暴露してみろ、お前を八つ裂きにするぞ!〟感がオーラとしても出ててさ。 なんとかしなきゃ、って。 気が急いて思わず、口にした言葉が自分でも信じられなかったんだ。 「じゃあさ、俺と番にならない?」 ね、衝撃でしょ? 言われた相手も呆気にとられた顔をして、目を見開いて俺を見てる。 「.......はぁ?!」 「番になったら四六時中見張れるし、お互い下手なこともできないしさ。 それに俺にオメガであることがバレた時点で、俺たち運命なんじゃないかなぁ、って思わない?」 「.......それ、本気で言ってる?」 さすが......カンがいいからなぁ、ハッタリで言ったってバレそうだ。 「本気。いたって本気だけど?」 「..............」 「変なアルファにバレて変なことになっちゃうより、まだ、俺と番った方がいいでしょ?ね?」 「........嘘、つくなよ?」 俺を睨む眼差しは相変わらず鋭いけど、だんだん俺の話に耳を傾けてくれるようになって........。 俺は少しホッとした。 「俺が、嘘つくと思う?」 「わかんない」 「そこは冗談でも〝つかない〟って言うとこなんじゃない?」 「..............」 「よし!決まり!!じゃあ、荷物まとめて俺ん家おいでよ、部屋も寮より広いし」 「はぁあ?!」 「俺に分かるくらいの香り振りまいてんのに、そのまま寮にいて大丈夫なの?」 「.............」 「心配しなくていいから、ね?依織。俺、寮の門の前で待ってるから」 依織は小さく頷いて、困ったような顔で寮に向かう。 これで.....よかった。 よかったんだ。 そう思うと、足の力が抜けてしまってその場にへたりこんでしまった。 実を言うと。 前から、そうじゃないかなぁ、って思ってたんだ。 依織は、オメガなんじゃないか、ってさ。 さらに言うと。 俺の好きなタイプのどストライクなんだよなぁ、依織は。 だから、ハッタリで口走った〝番にならない?〟って言葉、かなり本音だったりする。 依織がオメガを隠したくなる気持ちがわからないわけではない。 オメガってだけで、この世のあらゆることからハンディキャップをつけられて、正当に評価されないことも多い。 依織くらい優秀なら、なおさら。 なんでもない顔をしてオメガを隠して、ヒートの抑制剤を飲んで、夢を叶えるために努力する。 依織もそうだったんだ。 最近、依織からかすかにいい香りがするようになって、思ったことをすぐ口に出す俺は思わず言ってしまったんだ。 「依織、香水つけてる?いい香りがする」 その言葉に動揺したのか、依織は手のひらに隠していた薬瓶を落とした。 依織の顔色がみるみる青ざめて、体が硬直したかのように、なかなか薬瓶を拾おうとしないから、俺はその薬瓶を手にとった。 ーこれ、抑制剤? あぁ、やっぱり。 伊織は、やっぱりそうなんだ。 俺の漠然とした直感が、判然とした直感に変わった瞬間だった。 オメガである依織を守りたい。 あらゆることから依織を守りたい。 俺じゃ頼りないかもしれないし、依織に対して不純な気持ちを抱えていたとしても、依織をなんとかしなきゃ、って思った。 そして、俺は「番にならない?」って、伊織に言ったんだ。 「荷物、それだけ?」 小さなキャリーケースをコロコロ引いた依織は、不機嫌そうな顔をして小さく頷いた。 「じゃ、行こうか」 「.......志弦」 依織が俺の袖を引っ張る。 「何?」 「本当に、誰にも言わない? ......番になったら、絶対、秘密にしておいてくれる?」 瞳を伏せて、不安そうに依織が言うから.......。 抱きしめてたくなるからぁ!! そんな顔しないで、マジでぇ!! って、俺は心の中で悶えてしまった。 ........かろうじて、理性が勝って。 俺は依織のキャリーケースを持ちながら、悪魔でも紳士的に笑って言ったんだ。 「もちろん、俺、嘘つかなよ?信じて、依織」 「最近調子悪いなぁ、って思ってたんだ。 思ってたとこに、志弦にあんなこと言われちゃってさ。かなり動揺したんだ、僕」 道すがら、依織はポツポツ喋り出す。 「.........ヒートとか、番とか.........まだ先のことだと思ってたから、気持ちがまだついていけなくてさ。志弦には色々と迷惑をかけてしまうかもしれないけど........。 その、よろしく.......お願いします」 伊織は少し恥ずかしそうな顔をして、しかも、星が宿ったみたいな瞳を真っ直ぐ俺に向けて言った。 そんな顔されたらさ、そんな目されたらさ、多少、邪な心がある俺は胸が苦しくなってたまらないんだよ。 「それは俺も一緒。 ゆっくり、慌てないで、これからのコトを考えていこうよ。ね、依織」 俺の言葉に安心したのか、依織は初めて俺に心を許したかのような満面の笑みを見せた。 いいワケになってしまうかもしれないけど、俺の邪な心はその笑顔に鷲掴みにされて、綺麗に浄化されて一気に宇宙まで持ってかれてしまったんだ。 俺たちが通ってるのは中高一貫の有名な男子進学校で、卒業された先輩方は政財界で活躍していたり、国家の中枢で敏腕をふるっていたり。 さらに言うと男子校ではめずらしいミッション系だから、校長先生が海外出身の神父さまだったりする。 多角的な思考を養える自由な校風が人気で、全国の秀才がこの学校に集まってくるんだ。 実家が遠い子なんかは寮に入って学校生活を送るんだけど、まぁ、良家のご子息も多いから。 俺をはじめ、そういうヤツは近くにマンションを借りて学校に通っている。 そういうところだから、だいたいがアルファで少しベータがいて。 依織みたいなオメガは異端中の異端で。 比較的穏やかなヤツが多いうちの学校なんだけどさ。 ヒートを迎えつつあるオメガの依織をアルファ率90%の寮や学校に放置するなんて、考えただけでもオソロシイ。 「番になろう」って強気な宣言をしたにもかかわらず、いざ依織を前に2人っきりになってしまうと、紳士的な仮面がいつ外れるかも分からず.......。 気もそぞろになってしまうんだ。 「寮よりいい部屋、準備してくれてありがとう。あと、お風呂もさきに入っちゃってゴメン」 声のした方を振り返ると.......。 萌え袖ぇ!! オーバーサイズぅ!! な、出で立ちで俺の心の柔いところを的確についてくる依織がたっていて.......。 加えて言うとさ、あのいい香りもフワァって漂ってきて。 俺は白目を剥いて、後ろに倒れそうになってしまった。 身長はそんなに変わらないのにな。 オーバーサイズのスウェットが華奢な依織の体を際立たせるんだ。 「どういたしまして。あ、ご飯にする?時間がなかったから、焼きそばになっちゃったけど」 「ありがとう。僕、焼きそば大好き」 そう言って依織が笑って。 そして、俺は依織に対して一つ気付いたことがある。 いつもの他人を寄せ付けないような、スパイスみたいなキレのある視線とキリッとした顔は、オメガであることを隠すための仮面で、実は、こんなに穏やかに笑って、優しくしゃべって........。 無防備なヤツなんだ、って俺は気付いた。 今、俺は。 その依織の無防備さと香りに当てられてしまって、クラクラするくらい.......。 より一層、依織を好きになってしまったんだ。 「おはよう、志弦」 「.......おはよう、依織」 「エッグベネディクトにしてみたんだけど、不味かったらゴメン」 なんというか、依織は全てにおいて全力投球だ。 家ではかわいい顔して穏やかに笑うからさ。 「志弦ぅ、僕、これできないからやってぇ」なんてかわいくおねだりしてくるのかと思いきや、俺が面食らうくらいテキパキ家事もこなして、朝食と洗濯はだいたい依織がするようになった。 一緒に住むようになってそろそろ一ヶ月が経とうとしていて、その間、依織の色んな一面を知ることができて、それに、心を踊らせてしまって。 たまに、というか、しょっちゅう俺の心を乱すことを無意識にしてくる以外は、至極順調に同棲生活を続けていた。 「あ、美味しい!!」 「本当に?ありがとう。あ、志弦、ちょっと動かないで」 依織は俺の顔をジッと見て、細い指を俺の口の端に持ってくると、そこについていた卵の黄身を拾う。 そして依織が、それをぺろっと舐めて笑うから。 あれだ、ほら。 新婚夫婦がよくやる、あれ。 それを無防備に、無意識にやってくるから、俺は毎日、ドキドキが止まらないんだ。 それに、最近、香りが強くなってきてる気がして、さらに俺の心は穏やかじゃなくなる。 「志弦、体育祭どうする?」 「どうするって?」 「髪だよ髪。地方組の3年は染めるって話でてたじゃん」 あぁ、忘れてた。 俺たちの学校の体育祭は特殊でさ。 地元出身組vs地方出身組で勝敗を競う。 地方出身組の俺たち3年は、髪を全員染めるって話がでてたんだ。 「金髪にしようかな、僕」 「まぁ、似合いそうだよ、依織は」 「体育祭終わったら、即坊主だけどね」 「はぁ?!なんで?!」 「だって染め直すと髪傷みそうだし、そのままにしてたらヤンキーにからまれそうだし。 手っ取り早いのって、坊主でしょ?」 「坊主、却下!!」 「え?」 「俺が傷まないように染め直してあげるから、坊主は絶対、ダメっ!!」 「じゃあ、志弦はどうするんだよ」 「俺は、チェリーレッドだよ」 「体育祭、終わったら?」 「もちろん、坊主」 「なんで?!なんで自分は坊主オッケーなんだよ!!」 「手っ取り早いから?」 「ダメっ!坊主、反対!!僕が傷まないように染め直してあげる!!」 結局、そんな感じで、2人とも坊主禁止令が出てしまった。 たかだか坊主にするしないで、こんだけ話が膨らむから、毎日賑やかで楽しくて。 1人で暮らしてた時は、この部屋はあまりにも広く感じてさ。 殺風景で、寂しかったんだけど。 依織が来てからは、毎日色んなことが起きて、新鮮で、一気に部屋の雰囲気も明るくなった。 このまま。 こんな感じで番になれたらいいなぁ、って思うようになったんだ。 「依織、大丈夫?」 『.......うん、ちょっと熱っぽい。.......今日、休む』 部屋の奥から聞こえる依織の苦しそうな声に、俺は胸が締め付けられて、二進も三進もいかない気持ちになる。 ここんとこ、依織の調子が悪い。 体育祭も近いから、2人で髪を染めた矢先の出来事で。 こんなこと一緒に暮らし出して初めてのことだから、俺は本当、心配で心配でたまらないんだ。 ........ひょっとして、ヒートなんじゃないだろうか? だけど俺には勇気がなくて。 依織にヒートかどうかも聞けなくて、ヒートかもって、その現状を目の当たりにしてしまったら腰が引けてしまって。 俺は情けないくらい女々しくなってしまったんだ。 依織が部屋から出てこなくなっただけで、あれだけ賑やかで明るかった部屋が、急に殺風景で寂しい部屋に戻っちゃってさ。 居た堪れない、ってこんなこと言うんだな、ってぼんやり考えてたんだ。 「ただいま......!!」 依織のことが心配で、早めに学校から帰って。 玄関のドアを開けた瞬間、依織の香りが部屋いっぱいに広がっていた。 頭に血が上って、鼓動が速くなる。 ........依織!! いてもたってもいられなくて、俺はカバンを投げ捨てると靴を脱ぎ散らして、依織の部屋のドアをこじ開けたんだ。 「依織っ!!......大丈夫か......」 ヤバイな、この香り......ヒートだ。 本能的に、いや、俺の中のアルファの本能がそう確信させた。 ドアを開けた瞬間、いつもの何十倍って濃度の香りが俺を包み込むように襲ってきて..........意識が持っていかれそうになる。 「........志....弦.....」 ゆっくり瞳を開けて、俺を見た依織は苦しそうな呼吸の合間に俺の名前を呼んだ。 いつもキラキラしてる好奇心いっぱいの瞳は、熱を帯びたようにとろけて潤んでいて、紅潮した顔と荒い息遣いが、俺を誘ってるような錯覚に陥る。 さらに、染めたての金髪が、本当に眠りから覚めて微睡んでいるお姫様みたいで。 心をグラつかせる。 「依織、ヒート?」 俺は汗ばんだ依織の額をそっと撫でて言った。 その言葉に依織が小さく頷く。 「志弦、僕変なんだよ........。 体が熱くてたまらなくて........。恥ずかしいんだけど、中が溢れるくらい濡れてるんだ........。 クスリ飲んだんだけど、治んなくて」 「依織.......」 「目を閉じて我慢してたら、志弦の顔しか出てこなくて........。 どうしたら、いいんだろう。 僕.........おかしくなっちゃいそうだ........」 思わず俺は、依織の顔を覆っていた手首をとって、熱を帯びた赤い唇に深くキスをした。 鼻腔をくすぐるオメガの香り、その香りが強くなって、俺は依織の口の中を貪るように舌を絡めてしまう。 ........ヤバイな。俺も、おかしくなっちゃいそうだ。 「.........んっ」 依織の乱れた声が耳を刺激して、誘い込まれるまま、俺は依織の中に指を入れた。 ........グズグズって、こんな感じのこと言うんだ。 指を入れただけでも、依織は体を反らして俺の口をとおして乱れた声をあげる。 息が上がって、ようやく唇を解放すると、依織はより熱っぽい目で俺を見つめて名前を呼ぶ。 「志....弦........」 「どうしたの......依織」 「僕.......僕じゃない.......みたいだ」 突然、依織の熱っぽい目からハラハラ涙がこぼれ落ちる。 ヒートのせいでとろけた顔をしているのに、悲しそうな目をして依織が泣くから、俺は中に入れた指を思わず抜いてしまった。 その瞬間、グズグズに濡れた依織の中が、一気に外に溢れ出して、依織は体をビクつかせて「あぁ.....」と、小さく声を上げる。 「依織、大丈夫?」 「志弦と.......今日あったこと.......とか。 色々.....聞きたいのに...話したいのに........」 「依織」 「指が入って.......きた時から.......。 もう、スルことしか考えられ........なくなっちゃって」 「.......ごめん、依織」 依織は小さく首をふった。 「志弦は......悪くない」 「でも.......」 「僕、止まんない.......。 でも、志弦じゃなきゃ.....やだ。 .......お願い、志弦。.......僕とシて、お願い」 想像はしてたんだ、いつも。 かわいい顔で「志弦ぅ」っておねだりしてくれないかなぁ、って。 してたんだけど、想像のはるか上をいく「おねだり」をされて、俺の中の何かがプツッと切れた音がした。 多分、それは、理性だ。 「依織......俺、アルファ丸出しになりそ...,」 「いい......いいよ、志弦.......お願い、シて」 もう、勢いだった。 依織の服を脱がせると自分の服も脱ぎ捨てて、肌を重ねる。 俺だって男だし、今までそういうヤツを見たりして我慢できなくなったりしちゃってたけどさ。 今までとは比べものにならないくらい、興奮して、痛くて。 早くどうにかしたくて、依織の中に押し込んだ。 「やぁ.....あぁ」 生の嬌声ってのを聞いた俺は、さらに理性がふっとんで、依織の奥に深くいっぱいに突き上げる。 依織の腰が浮いて。 華奢な体をよじらせて。 いつも明るくて純粋に笑う依織が、とろけた顔して俺に感じて乱れた声を上げる。 オメガって、実は最強なんじゃないだろうか.....。 ヒートになると普段の人格を覆してしまうくらい、自らをトロトロに乱して香りを撒き散らす。 日頃優位に立っているアルファでさえ、その香りに抗うことができずに、オメガに引き寄せられて理性がぶっ飛んでしまうくらい、オメガを抱くことしか考えられない。 ..........ヤバ、俺。 止まんない..........。 「ん..あ........志.....弦...」 そんな声で、俺の名前.......呼ばないで。 突き上げて、かき乱して。 依織の奥深くに当たって。 依織からさらに香りが強く発せられるから。 俺は依織の両肩に手をかけて、依織の動きを封じた。 そして、その綺麗な白いうなじに、俺は口を近づけたんだ。 「.....あぁっ!!」 俺の歯がそのうなじ食い込んで、依織の悲鳴に近い泣き声が俺の耳に突き刺さる。 .........番に、なっちゃった。 明るく、穏やかに、楽しく。 そんな感じで番になりたいなぁ、って思ってたのに。 俺が思い描いていた理想は、経験値が足りない甘ちゃんの理想でしかなくて。 結局は、オメガに理性をふっとばされて、アルファの本能のまま抱き潰して、うなじに噛み付いた。 それでも、止まらなくて。 依織が大事で、大好きで、たまらないのに。 依織を乱して、壊して、泣かしてしまう。 これで、よかったんだろうか? こうなることを、俺はずっと、切実に望んでいたはずなのに。 「番にならない?」って軽く言ってしまった俺のせいで。 その一言で依織を縛ってしまったんじゃないか、って。 俺の心は後悔に苛まれているのに、体は依織を求めて止まなくて。 心と体がチグハグで、涙が、止まんない。 それでも、体は止まらなくて。 何回も、何回も。 依織のヒートに欲情して、その華奢な体を全て俺で満たして、独占するかのように。 お互いが力尽きるまで、肌を重ねたんだ。 ✳︎ 番になっちゃった。 さらに言うなら、〝初めて〟も経験しちゃって。 〝初めて〟から〝番〟になるまでが、あまりにも一気に上り詰めた感じになって、終わった後、電池が切れたみたいに深く眠ってしまった。 だからかな。 あんなに僕を乱して、苦しめていたヒートが嘘みたいに収まって、息がちゃんと吸える。 体も変じゃない。 ヒートってこんな風になるんだ、って初めて知って、オメガがあんなに乱れると、アルファですらオメガを抱くことに逆らうことができないんだ、ってのも初めて分かった。 志弦で.....志弦がそばにいてくれて、本当によかった。 もし、あの時、志弦の誘いを断って寮に居続けていたらと思うと、ゾッとする。 多分、寮は僕のせいでパニックになっていたハズだ。 その志弦は今、僕の隣にいて、僕の肩に優しく手を回してぐっすり眠っている。 あまりにもぐっすり眠っているから、僕はそのキレイな赤い髪を指に絡ませた。 僕が染めた赤い髪、志弦に似合ってる。 カッコいいのに、外見とは裏腹すぎるくらい、優しくて、いい人で。 だから、僕を抱いてる間、志弦はずっと泣いてた。 優しいから、オメガの香りに当てられて理性を失ったことに、耐えられなかったのかもしれない。 そんなこと、気にしなくていいのに。 僕は志弦とできたことが、番になれたことが本当に嬉しかったんだから。 強いて言うなら。 あの時、「じゃあさ、俺と番にならない?」って言ってくれた志弦の一言。 睨んではいたけど、僕の本当を知って尚且つ、僕を守ってくれるようなことを言ってくれたから.......。 僕は泣きたくなるくらい嬉しかったんだ。 脅すことも、できたハズなのに。 にっこり笑って優しく言うから、その瞬間、僕は志弦を好きになってしまったんだ。 志弦の言うとおり、運命なのかもって。 その時から。 僕の初めても。 番になるのも。 全部志弦じゃなきゃ、イヤだったんだ。 その証拠に志弦が僕の中の奥深くまで満たしているのに、気持ち良さが優先して、志弦の動きに合わせて腰を揺らしてしまったし、うなじを噛まれたときもそう。 歯が深く皮膚に入り込んだから、ビックリして悲鳴をあげたけど、噛まれたところからあったかさがじんわり広がって........。 志弦のあったかさがそこから、僕の体の中に入ってきたような.......。 アルファとオメガが交わって一つになる感じがして。 これが番になるってことなんだ。 こんなに幸せなことなんだって思って。 こんなのきっと、アルファやベータは経験できないんだろうなって思うと、顔がほころんでしまったんだ。 僕は志弦の頰にそっと触れる。 柔らかい.......。 そして、少し、冷たい......。 涙のあとがその頰に残っていて、僕はそのあとがたまらなく愛おしく感じて、指でなぞった。 志弦が、ゆっくり、目をあける。 「あ、ごめん。起こしちゃった」 「.........依織、俺」 また......まただ。 また、志弦は泣きそうな顔をする。 だから、僕は志弦を抱きしめて言った。 「志弦、僕は今幸せなんだけど。志弦は違う?」 「でも、俺......依織にヒドイことした.....かも」 「ヒドイこと?」 「自分じゃないみたいな......依織が痛がってるのに無理にしちゃった気がする.......ごめん」 やっぱり。 やっぱり、僕のこと、気にしちゃってたんだ。 志弦はどこまで優しいんだろう。 「僕、痛そうな顔してた?」 「........前に見た、そういうヤツの女優さんみたいな顔はしてたかも」 「........志弦、あのね」 「だってさ......」 僕は志弦の頰を両手で覆って、僕から視線をそらせないようにした。 「恥ずかしいから、あんまり言葉にしたくないんだけど........めちゃめちゃ、よかった」 「.......え?」 「気持ちよかったの!!」 「.......依...織?」 「志弦のも!噛まれたのも!全部!! こんなに気持ちよくていいのかな、って思うくらい気持ちよかったの!!」 「.......はい」 「だから!!......だから、泣かないでよ......」 「........依織」 「そんな顔しないで、志弦.......。 僕は志弦と番になれて嬉しいのに、志弦はツラそうな顔してて.......。 幸せなのって、僕だけなワケ?」 僕が〝志弦のエッチは最高だっ!〟っていうのをオブラートに包んで、包んで、包みまくって、必死に志弦に伝えた結果、志弦はようやく、いつものように優しく笑ってくれた。 そして、僕を抱きしめてくれたんだ。 ........初めて、抱きしめてもらったかも。 ギュッと力強く、それでいて苦しくなくて、僕の体がすっぽり収まる広くてあったかい体が.......。 僕の内側も外側も、全部。 志弦に満たされて。 こんなに愛おしい存在ができたのは初めてで、ずっと志弦から離れたくないって感じたのも初めてで。 そして。 今日は、怒涛の初体験オンパレードだったんだな、って冷静に考えるとおかしくなっちゃってさ。 思わず笑っちゃったんだ。 「何?何、笑ってるの?依織」 「.......秘密」 「何?依織がオメガって言う秘密意外、まだ何か秘密があるの?」 「.......さて、どうでしょう」 ふと、志弦が斜め上を見上げて、考えながら言う。 「そういえばさ」 「何?」 「俺が依織の秘密を知ってしまったから、一緒に住むようになったワケだよね?」 「そうだね」 「秘密がきっかけで、番にまでなっちゃったワケだよね」 「そうだね」 「やっぱり、俺たちの間に秘密は作っちゃいけないと思うんだ」 「.......だから、何?」 志弦がにっこり笑って、笑ったと思った瞬間、僕の上に覆い被さってきた。 「秘密、言う気ない?」 「ない........!!....やっ....ちょっ、何す......あ」 志弦が僕の胸を舌で舐めて、指を僕の中に入れてきて.......優しく、それでいて、強くせめてくるからさ.......。 ........ヤバい........また、濡れてきちゃう.......。 「言う気になった?秘密」 「.......言わなかったら.......どうなるの?僕」 「このまま言うまで、ヤッちゃおうかな?」 そう言うと思った。 だから僕は思いっきり笑顔で言ったんだ。 「じゃあ、言わない」

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