1 / 35
第1話
「湊中学校出身、伊吹 忍(いぶき しのぶ)です。よろしくお願いします」
部室は、他の1年生新入部員の自己紹介の時より大きな拍手で包まれた。
県立城南高等学校・文芸部。
ここに在籍する誰もが、すでに忍のことを知っていたからだ。
3年生の森 俊介(もり しゅんすけ)もまた、ひときわ大きく手を叩いていた。
俊介が忍に抱いた第一印象は『薄い』だった。
栗色の髪、白い肌、茶色の瞳に、細い体。
全身が薄いだけに、強く印象付けられた。
「あの、一冊ください」
そして、部員の作品で綴られた同人誌を買ってくれたのだ。
俊介が1年生の時の、文化祭での出来事だった。
飾られた教室内の休憩席で、さっそく本を開いてくれた忍。
そして後日、各作品への丁寧な感想が、学校宛てに送られた。
文芸部一同、泣いて喜んだものだ。
ともだちにシェアしよう!