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昔とちっとも変わらない?
このオッサン、いつのこと言ってるんだ?
中学とか小学生の頃……?
それで「ちっとも変わらない」って、なんかおかしくねぇか……?
「ごめんね、岬」
岬は隣に立つ濡宇朗を見下ろした。
「今日はバイバイ」
「は?」
三十代と思しき年上の男の元へ濡宇朗は歩み寄り、その腕に甘えるようにもたれかかった。
男は連れである岬に目もくれず、自分にもたれてきた華奢な体を親しげに抱き寄せ、路上駐車していた車へ。
「は?」
重厚なエンジン音を響かせて車は空いた裏通りを走り去り、呆気にとられた岬はしばし歩道で放心せざるをえなかった。
そして、これまでのマイペースぶりを上回る濡宇朗のダントツ自己中行為に苦笑いを。
気紛れでワガママな駄々っ子に苛立つのも今更で、やれやれと白アッシュ頭を掻き回し、せっかくここまで来たのだからと一人「UNUSUAL」へ向かったのだが。
「……定休日かよ……」
細い階段を下ってみれば赤い扉のドアノブには「Closed」のプレートが下げられていた。
初めて来店したときは逸る気持ちに唆され、入店を断るプレートを無視して厚かましくも店内へ踏み込んだ。
今日は節度を守って回れ右、岬はチョコレートムースを断念し、奇抜な洋食レストランを後にした。
多少のモヤモヤを抱えたヤンキー淫魔はコンビニで棒付きキャンディを購入した。
店頭で早速口に咥え、エコバッグ片手に暮れなずむ空を仰ぐ。
さて、どうやって帰るか。
タクシーもったいねぇし、バスに乗っていくか。
濡宇朗はさっきのスーツ男とどういう知り合いなんだろう。
苛立ちや嫉妬というより、ただただ違和感が押し寄せてきて岬はモヤモヤした。
……もしかしてスーツ男も淫魔だったか?
……まさか中学生ンときに関係があったとか……まさかまさか、小学生のガキの頃とかじゃねぇよな?
放っておいて大丈夫だろうか。
あんまりにも一瞬のことで第三者みたいに見過ごしちまったけど、濡宇朗の奴、異常なくらいの変わり身の早さだった。
何か俺に知られたくない事情があった……とか。
せめてどういう相手なのかくらい確認しときゃあよかったなーー
「あ」
コインパーキングの横を通りかかった岬ははたと足を止めた。
ついさっき目にしたばかりの高級車が駐車してあるのをフェンス越しに発見し、通行人の行き交う周囲を忙しげに見回し、小走りになって移動して反対側の歩道にも視線を巡らせてみた。
連れ立って歩いている濡宇朗とスーツ男の後ろ姿を見つけた瞬間、岬は、一文字にぐっと唇を結んだ。
エコバッグを肩に引っ掛けて、横断歩道を渡り、一定の距離を保って二人の後を追いかけた。
余計なお節介、単なる好奇心、夏休みの昂揚感。
いろんな思いに促されて尾行していたら人生一度目の尾行のことを思い出した。
『ほら、現在進行形でお前に焼かれてる手だ』
翌日から五月の連休が始まる放課後、夜の街で人間に擬態した夜行性の獣みたいに見えた志摩の姿が脳裏に蘇り、岬は小さく息を呑む。
……暑い。
……ひどく喉が渇いた。
今頃、志摩センセェ、何してんのかな。
夏バテしてなきゃいいけどな。
「マジかよ、濡宇朗」
濡宇朗とスーツ男が訪れた場所に岬は驚いた。
そこは夜遊びが大好きな、正に夜行性に属する酔狂人らが夜な夜な集まる名の知れたクラブだった。
夜の七時を回り、南国のエキゾチックな宮殿を思わせる外観はライトアップされ、入り口には疎らながらもすでに列ができていた。
濡宇朗を寄り添わせたスーツ男は列を無視し、ドアマンに声をかけ、すんなり中へと招かれていった。
さすがのヤンキー淫魔も陽キャパリピの巣窟に尻込みしていたが。
意を決し、長ネギの覗くエコバッグを携え、列に並んだ……。
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