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14-最終章-淫魔ヤンキー、卒業す
「今までいろんな生徒を見てきた」
岬はまだ通路と玄関の境目に立っていた。
「前にも言ったように淫魔筋の生徒もいた。そのときは言わなかったけど、体で縋りついてくるレセシブもいた」
ーーでも全部断った。
背負っていたリュックを部屋の中へ投げ捨て、黒スニーカーを履いたままの志摩は、隅々まで火照る褐色頬に両手を添えていた。
どちらの唇も露骨に濡れている。
岬の方は下顎にまで透明な跡が連なっていた。
「お前は、お前だけは縋りつかれる前に手を差し伸べてやりたくなった。慰めたくて堪らなくなった」
たった今まで、甲斐甲斐しい舌先に口内を愛撫され、舌を吸われ、下唇を甘噛みされていた。
腰の辺りから背筋を駆け抜けて首筋まで這い上がってきた甘苦しい感覚。
岬はずっと動悸を止められずにいた。
「……いや、違うな」
腰が抜けそうになっている生徒に志摩は言い直す。
「お前のこと欲しくて堪らなくなった」
「ッ、ん……っ」
息継ぎに勤しんでいた唇を再び塞がれて岬は苦しげに眉根を寄せた。
唇奥を改めて掻き回される。
ブレザーを捲り上げた手が敏感化した腰や背筋に官能的に触れ、甘やかな戦慄が増殖する。
……なんかすげぇ。
……今までのキスで一番クル。
……センセェに告白されて、求められてるってわかって、きもちいい……。
「ッ……ッ……センセェ……」
絡み合うのに夢中になっていた舌が解け、執拗だった唇が離れていき、岬はまた息を荒くして志摩を仰いだ。
手を引かれて玄関に招き入れられる。
開きっぱなしになっていた玄関ドアはやっと閉じられ、住人によってロックされた。
「……あ……」
そのままの勢いで志摩は岬を室内まで誘 い、脱ぎ捨てられた二人の靴が玄関に不恰好に転がった。
キッチンから洋室へ。
定番の場所となっている革張りの三人掛けソファをスルーした志摩に岬の吊り目は見開かれる。
岬はそこを<あかずの間>と脳内で勝手に呼んでいた。
志摩の寝室だ。
足繁くお邪魔している、キッチンと隣接する洋室の隣部屋になるわけだが、これまで一度も足を踏み入れたことがなかった。
秘められていた淫魔教師のテリトリー。
志摩は岬を初めてそこへ招いた。
阿久刀川にこの部屋を譲り受け、それから誰一人として許したことがない、欲望を昏々と眠らせてきた巣穴へ……。
「お前のこと壊してもいいか、岬」
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