101 / 112

0-5

「愉しいランチの時間をありがとう、それじゃあ、僕はこれで」 ファミレスを出るなり速やかにタクシーを拾って去っていった究極マイペースな阿久刀川。 「喋られっぱなしで食った気がしねぇ」 ぐったりした様子の岬が呟けば、隣に立ってタクシーを見送った志摩も浅く頷いた。 「いつも一人勝手に喋り続けて、勝手に会計を済ませて、勝手に帰る」 ……そんな勝手な奴とえらく仲よさげだったよな? ……笑ったり相槌打ったりするどころか、ほとんど無視してスルー、よっぽど気心が知れてないとそんなことできねーもんな? 「雨だ」 志摩を見上げていた岬は吊り目をパチパチ瞬かせた。 ふと雨の雫を受け止めた褐色頬。 次の瞬間、地上を一気に濡らす勢いで土砂降りの雨が降り注いだ。 「ッ……おいおい、いきなり過ぎじゃね?」 「岬、こっちに」 ファミレスに入る前は晴れていたはずが、俄かに暗雲が垂れ込めて辺りが暗くなったかと思えば激しく降り出した雨。 傘を持ってきていなかった二人。 多くの通行人が慌てる中、岬は志摩に腕をとられてコンビニの軒先へと避難した。 「俗に言うゲリラ豪雨かな」 「阿久刀川が雨雲呼び寄せたんじゃねぇの」 「そうだな、アイツなら呼びかねない」 白アッシュ髪がすっかり濡れてしまった岬は志摩をチラリと横目で窺う。 ……いきなり腕掴まれてビビった。 ……いや、別に友達に不意討ちで体当たりされたり肩組まれたりするけど、こんなにビビったりしねぇ。 いや、ビビってるっていうか……やたら心臓が跳ねたっつぅか……。 「もう帰ろうか」 「え」 明らかにがっかりした声を出してしまい、岬は慌てて口を噤んだ。 「雨、ひどいし。食事も済んで特に用事もない」 次に、またしょげた。 これ以上自分といる必要なんかない、そう言われているみたいで心の奥底がスゥ……と冷え込んだ。 なー、志摩クン? 俺な? 今日な? 実は誕生日なんだ? 教えてねぇし、知らないのも当然なんだけどさ? でも、だからって言っていいことと悪いことの区別、つきませんかね? ……ほんっと嫌な奴……。 「……志摩、用事ないんなら俺んち来いよ」 それなのになんでもっと一緒にいたいなんて思うんだろな。 「こっから近いんだよ」 濡れた眼鏡レンズをタオルハンカチで拭き、かけ直した志摩は、隣で何故だかきつく拳を握っている岬を見下ろした。 「拳なんか握ってどうしたの、俺のことまた殴るつもり」 「だ、誰が殴るか!」 「突然お邪魔して、家の人に迷惑じゃないのか」 「ッ……百合ちゃんは昨日から事務所に泊まり込んでっから、今は誰もいねぇし、ほら、アイスもあっから」 ……なんだよ、アイスって、小学生のガキかよ。 ざあざあ降る雨に視線をやり、志摩は、まだ不要な力をこめて拳を握っている岬に問いかけた。 「アイスって、なんのアイス?」 ……アイス目的で来んのかよ、ほんっと、感情が読めねぇ死んだ魚の目した嫌な奴……。

ともだちにシェアしよう!