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153 長瀬香 <SIDE> 天使の矢

「重いよ!」 どのくらい時間が経っただろう。 すっかり熱が冷めてしまった瑛斗が、俺の下から文句を言った。 狭いソファで二人してうつ伏せに横たわる俺の体重が、細い瑛斗の身体に圧し掛かっていた。 後ろからその細い肩を抱いて白い首筋にキスを落とす。 「やめて!」 そう、きっぱり拒否される。 宥めようと乳首に手を伸ばそうとした俺の腕を、触らせないように払われてしまったので、腰を撫でたらとうとう逃げられた。 ソファから立ち上がり服を拾って抱えたまま、仁王立ちで俺を見下ろしている。 快楽に喘ぎながら零した涙がまだ睫毛を濡らし、怒りを含んでいてもどこか気怠そうな表情は妖艶で、俺がつけた首筋の赤い痣が征服欲を満たしてくれる。 「なんで笑ってんの?こんな酷いことをして」 おや? まだご機嫌斜めのようだ。 「酷い?あんなに喘いでいたのに?」 「無理矢理でしょ?俺の意思なんかお構いなしだよね?」 「え、だってヤルためにここに来たんでしょ?」 あ……まずい……。 またしても失言に、瑛斗の顔が真っ赤になって後悔する。 「もうほんと大っ嫌い!」 目に涙を浮かべながらバスルームへ行こうとする瑛斗の手首を掴んだ。 「離して!」 力いっぱい手を引こうとした瑛斗の動きが一瞬止まり、下を俯いて自分の脚の辺りを見下ろしている。 それはそれは恐ろし程にすごい形相で、後ろの蕾から流れ出た俺の精液が、ツーっと、太ももを伝っているのを見ていた。 「もう!!! 中に出さないでって、あれほど言ったのに!」 涙を流して本気で怒っている。 だけどそれさえも酷く愛おしく、殴られても蹴られてもいい、どんなに暴れてもこの胸に抱きしめたいと思ってしまった。 「愛し合ってるんだ、種付けしたいのは本望だろう?綺麗な瑛斗を孕ませたいよ」 「男は赤ちゃん産めないから!」 俺をキッと睨んでそう言った。 現実的な意見ごもっとも……。 掴まれた腕を振り払おうと必死で暴れる瑛斗が逃げないように、俺は肩をしっかり抱きしめながら壁際のチェストまで引っ張って行くと、引き出しを開けて中からリボンの付いた黒い箱を取り出し、瑛斗の目の前に差し出した。 「なにこれ……」 「誕生日おめでとう瑛斗」 箱を凝視したまま、受け取ろうとしない瑛斗は、喜ぶかと思いきや、眉間に皺を寄せて俺を見据えている。 え……あきとくん? 「こんな……こんな物要らない!!!」 俺の手から奪うように掴んで、放り投げようとした所を押さえつける。 「瑛斗!」 何するの、瑛斗くん! 「開けて?」 俺はしつこく、もう一度箱を目の前に差し出したが、瑛斗は俺を睨んだまま、手で箱を振り払おうとした。 「なんでさ、要らないもん!!!」 そう言って、俺の腕の中から逃れようともがいている。 「開けろってば!」 少しばかり苛立った俺の声に驚いて、ビクンと身体を震わせた瑛斗が、不服そうに顔を顰めながら渋々箱を開けると、中に入っている物を見てハッと息を呑んだのがわかった。 「……」 黒いビロードの箱の中には、シルバーのリングが光っていたからだ。 「リングの内側を見て」 瑛斗が言われるままに中を見ると……、驚いた顔に変わり、すぐさま俺の顔を見上げた。 「……これ……」 『Together. Forever.』 指輪にはそう刻まれていた。 俺の本心……、17のガキに何のぼせてんだと言われるかも知れないが、瑛斗が射った矢は、3年目にして漸く俺の胸に突き刺さった。

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