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第1話

「 お兄ちゃんさぁ…、毎朝毎朝鏡の前を占領するのやめてくんない?」 今年中学1年になった妹のすずいが、歯ブラシを口から出して文句を言う。 「うっせぇんだよ、お前等、兄貴がイケメン嬉しいだろ?」 俺は尚も鏡を見ながら髪の毛を治すのに必死だ。 「べつに~、それよりそこどいて貰う方が嬉しい、ね空」 すずいは傍らの弟に同意を求めるが…。 「;+%&79(&…」 同じく歯磨きをしてる為、空に至っては口が泡だらけで何を言っているのかさえ分からないレベル…。 空は今年小学5年生になったと言っても、まだまだすずいより身長は低く、勢力図でもパシリレベルだ。 まあ、要するに狭い洗面所の鏡を争って3人が並んでいる構図だ…。 昨日の夜、同級生のみなちゃん家から帰って来たのが夜中の3時、それから風呂入って髪の毛を乾かす事すらせずに爆睡したら、朝鏡を見て仰天自慢の栗色のサラサラ髪の毛が、あらぬ方向に跳ねている始末…。 「今日、お兄ちゃんが食事当番だからね」 「…え、俺今日部活だからお前作っといてよ」 「嘘だーー、部活なんてやってないくせに」 「昨日始めた」 「そんな嘘ぴょん言ってると、ママに言いつけるからねー」 『ママに言いつける』が、この頃の口癖な妹は唇を尖がらせて不満そうに言う。 「だって俺の料理マズイって言ってたじゃん、俺よりお前の方が断然美味いじゃん?」 「それはそうだけど…」 お、乙女心をくすぐったらしい、妹はまんざらでもなさそうで、嬉しそうな顔をした。 褒たら伸びるタイプか妹よ? 流石俺、女子の扱い慣れてる日頃のたまもの。 「と言うことでよろしくぴょん!」 「お兄ちゃんーーーー!もう!」 そう言って、俺は洗面所を後にすると鞄を持って玄関を出た。 そんなワケでこれが河野家の毎朝の風景でもある。 母親が医者をしているが当直の日が多く、兄妹で飯の買い出しを担当している。 だいたい夜は三人で食べる事が多く、俺の手料理はマズイと評判なので出来合いの食事が食卓に登るが、空に至っては料理も出来ないので、もっぱら我が家のパシリの地位に甘んじている。 妹が日増しにしっかりしてきたので弟の世話はほぼすずいが見ている。 だから俺は大いに助かってる。 高校二年ともなれば遊びたい年頃だし、頭の中は女子のことばかりと言っても過言ではないだろ? あれ?俺誰に喋ってんだ? ああ、つまり母親の望む通りなんとかスレスレで名門校の門を潜れた俺はあんなに苦しかった受験のことなどすっかり忘れて毎夜遊び呆けてる分けで…、いや何もしなくても女の子が寄って来るからしかたない。 だって俺イケメンだもん。

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