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第2話

「葵くーん!おはようー」 学園前の改札口を出た所で、数人の女子に早速声を掛けられた。 まあ何時もの事でこうやって駅から学校までの数百メートルを歩いて通学する為に待っててくれている天使ちゃんたち。 俺が振り向くとその天使ちゃんたちが、きゃぴきゃぴ喜ぶのだ、こっちだって悪い気はしない、ちょっとしたアイドル気分だ。 バカだな俺。 「おはようー」 俺が微笑むと顔を赤らめる子がいたりして、なんとも可愛いじゃないか。 まあ、しょうがない…俺がイケメンすぎるからね。 ふっ…。 と、その時、背後から女子の奇声が上がった。 「きぁぁぁぁぁ」 俺の時より奇声多くないか? いやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃない。 しかも、とても嫌な予感…。 俺は足早に校舎へと急ぐが、悪寒を伴ってまさに背後霊の如く、俺の後ろにヒタリとやって来た男…、振り向かなくてもその高価な香水の匂いで誰だか直ぐに分かった。 「葵」 俺は聞こえない振りをしたが、周りの天使ちゃんたちがおせっかいにも…いや、親切にも『静月(しずき)くんだよ?』と言って、教えてくれた。 余計なお世話なんだけど…、まあ、彼女らの目がハートになってるのは大目に見よう。 実際、静月凌駕(しずきりょうが)は学園イケメンランキング1位と自称する俺が、唯一認めたイケメンなのだ。 綺麗な瞳を隠しそうに長い真っ黒な髪の毛が印象的で、涼しそうな目元や高い鼻梁、適度に膨らみを持った形の良い唇を持つ和洋折衷顔で、俺が男だったらこんな顔になりたいという理想のパーツ黄金配置だ。 身長だって高二で180cmってどんだけ伸びるつもりだ? 俺178cm…ちくしょおぉぉぉ。 おまけに成績は学年トップ10入りで、俺はと言うと最下位ワースト10入り…。 ああ、くそぅ…いろいろムカつく。 「葵、無視すんなクソガキ」 自分もクソガキのくせにそう言って、静月が俺の肩を後ろから押した。 「うっせぇなぁ」 「おまえ、昨日俺が職員室に行ってる間にさっさと帰ったな?」 「あ、悪い忘れてたわ」 俺は堂々と恍けてやった。 「追試を受けるか、俺との勉強を20時間やるかどっちか選択しろよ、お前と遊んでるほど俺は暇じゃないんだ」 この学園では赤点を取ると追試を受けるか、学年50位以上の者に教科書の復習を20時間乞うか選択が選べた。 教える者にとっての利点は大学受験の際に内申書の効果が期待できるので、先生から使命を受けても嫌がる者はほぼいない。 ただ、俺の目の前のこの暴君を覗けばだ…。 静月となんか勉強できるか! と、言いたいところだが、追試はさらに難しくなってると言う噂があるので、俺はそれに合格する気がしない…、何故なら授業を殆ど聞いて無いから根本的に理解できないのだ…良い点が取れる筈がないだろう。 だったら我慢して静月の20時間を耐えるか…。 どちらか決めかねてる間に学校に着いてしまったが、最悪な事に静月の席は俺の隣だ、はよ返事しろと言わんばかりに着席してもずっと睨みつけて来る。 「こえーよ静月、イケメンが台無しだぞ?」 「お前に媚びてどうする?何の得になる?」 う…、そりゃそうだが…可愛気ないなぁ…。 超絶イケメンはそう言って真顔で言い返した。 「凌駕~」 猫なで声でそう呼ぶのは、これまた美少年と誉高い隣のクラスの高梨瑛斗(たかなし あきと)だ。 こいつは何て言うかちとナルが入ってて、自分が可愛いと言うタカピーが鼻につく奴で、身長も175cmくらいだろうか華奢な身体で、長めの薄茶色の髪が少し緩くカールしている。 瑛斗は暇さえあれば休み時間はここに…、いや凌駕の側へとマメに通って来る。 なんつったって凌駕は堂々とゲイを公言しているので、そりゃぁ女子にも男子にもモテまくる…。 この瑛斗とも噂が絶えない…。 とにかく静月凌駕は見た目も学業も、そして家柄も抜群に抜きん出ていて、女子を毎夜とっかえひっかえ遊んでると言う噂が広まっても、素行の悪さに関しては誰も文句など言えない絶大な存在感を持ってここに君臨していた。 「今日の放課後買い物に付き合ってよ」 「駄目だ、此奴の勉強見ないといけないんだ」 凌駕がそう言って俺の方を顎で示すと瑛斗は『ああね』と、見下したように微笑んだ。 「俺まだお前に頼むって言ってないんだけどーっ」 「追試の合格率3割っていうのに、学年ワースト10入りのお前が合格できるとでも?」 「…」 う…、真顔で言うな真顔で! ほんと口が悪いイケメンだ…、俺涙目よマジで…。 「と言う事だ、悪いな瑛斗」 「ざーんねん!でも今度ショッピングには付き合ってもらうよ」 「いいよ」 丁度その時予鈴が鳴ったので瑛斗は自分の教室に戻って行った。 結局、有無を言わさないんじゃねーか! まあ、しょうがねぇか…。 この男に近づきたいような避けたいような不思議な感覚だ、噂ではチャラくて女子をとっかえひっかえだと聞くが、授業は真面目に聞いているし教師の評判もいい。 四月から机を並べてるが休憩時間になると俺等の回りには女子が集まり、どっちがどっちのファンなのかさっぱり分からない、最早Hした子がダブってやしないかと慄きそうになる。 こいつは澄ました顔してやることはちゃんとやってる…て、優等生がやりすぎだろヤリちんめが。 だからその生態が気になるのは確かだ…。 と、そんなことを考えながら静月の顔を見ていたらしい…、静月が怪訝そうな顔して振り向いた。 「何だよ」 「い、いや…」 パーツ黄金配置率100%顔は冷ややかな目線を送って来る。 「お前、おれに惚れた?」 真顔でサラリとふざけた事を言う。 「あるわけねーだろっーーーーっ」 ちょっとドキッとしたけどな…、さっきから此奴の顔をガン見しすぎた事は認めるが、俺は根っからの女の子好きだ、男を好きになるなんて絶対にあるわけない。 「何ムキになってんの?お前が女子食い散らかしてることくらい知ってるし」 「な、てめーには言われたくないね」 「そこの2トップ、煩いぞ!痴話喧嘩は外でやってくれ」 教師がそう言うと、教室中がどっと沸いた。 最近、こんな調子で静月と纏められる傾向があって、基本此奴とはウマが合いそうにない俺は面白く無い。 「今日は残れよ、すっぽかしてみろお前八つ裂きだからね」 真顔で脅かしてくるけど、これは冗談でも無く本気の目だ、そして此奴が放課後ボクシングジムに通ってると風の噂に聞いたことのある俺は、心底ビビるのだった…。  

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