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意識の遠く……どこかで……、スマホの着信音が鳴り響いていた……。
それはだんだん近くなり、俺の意識がこの世に戻されて来た。
そして重い瞼をゆっくり開けると、すぐ側で鳴っているのに気が付いた。
それはベッドサイドのテーブルの上で鳴っている。
俺の……スマホ?
鉛のような頭を少し持ち上げてみたが、部屋には誰の気配もない。
静月は……居ない?
着信音は止みそうになく、鳴り続けていて手を伸ばそうと身体を動かした時、足元からジャラリと金属音がした……。
え?
足に違和感を感じてシーツをめくってみたら、白い皮ベルトが右足首に巻かれていて、そこから繋がれた長いチェーンがヘッドボードに繋がっているらしかった。
…………。
何だよこれ。
まあ……気を取り直そう。
まずは電話だ、さっきから鳴り響く着信音が煩くてしょうがない。
俺は鎖のチェーンを手繰り寄せながら、手を伸ばしてスマホを耳に当てた。
「……ぁ?」
ついでに欠伸が出た。
『おおーー、葵大丈夫か?』
大河だった。
「うん……なんとか」
『俺何も知らなくてさ、今光太郎さんに聞いて驚いてんの!大丈夫だったか?』
大河の声が、心配と言うよりどんなにワクワクだったか確認するようにテンションが上がっていて、高い声のトーンがちょい頭痛を誘った。
「俺……、薬盛られてさ、あんま記憶無いんだよね」
『ああ、光太郎さんが言ってたけどさ、ベロエロに酔っぱらったような状態のお前を数人で店から連れ出して行ったから、何かあったんじゃないかって心配になって店の者に後を着けさせたんだってさ』
「まじか……」
『でもさ光太郎さんが行く前に、何故かすでに静月や啓介が先に来てて、みんなで中の様子伺ってたけどヤバそうになったんで、入口に車を突っ込ませたんだとよ』
あの爆音がしたのは車が突っ込む音だったのか……。
すげぇことになってたんだな……、でもあまり記憶がない。
そして、まだ回らない頭ではあるがひとつ疑問が湧く。
「なんで静月は俺の居場所が分かったんだろう?」
『それは聞いて無いなぁ。でも啓介が別筋でずっとおまえ見張らせてたじゃん?そん時は何ウザい事やってんだって思ってたけど正解だったよな、こんなことになるなんてさ、ほんと危なかったよおまえ』
……だなぁ。
『まぁ、啓介も凌駕もみんな喧嘩強いからあっという間に片付けたらしいけどね、良かったよおまえが無事で、でもかなり殴られたと聞いたよ?』
「サンドバッグ状態だったわ……」
『うへぇ、キツイな』
改めて自覚すると、身体中の痛みが襲って来た。
痛てぇなぁ……ちくしょう……。
「あ……、ごめんな。寝てたんだろう?悪かったなー、まあ無事な声が聴きたかっただけだ。ゆっくり休んでくれ』
「うん、ありがとうな」
『じゃあ、来週学校で会おう』
そう言って大河の電話は切れた。
確かに静月はどうして俺の居場所が分かったんだろう?
てか、なんだよこのチェーンは!
いったいどこ行ったんだよ、目覚めた時に居るって約束したじゃねーかーー!
外はどっぷり暮れていて、俺は一日中寝てたわけだ。
ただ静月が居ない……それだけが寂しい。
寂しいとか……今までそんな風に思ったことなんて無かったじゃないか、しっかりしろ俺!
ベッドサイドの明かりがぼんやりと部屋を照らしていた。
長い鎖が怪しく光っている、いったい何のマネだよこれは。
「またか……やっぱりな……」
濃厚なエッチの後、何度ひとりで目覚めたことだろうか。
「同じじゃん……前と……」
ふざけんなよ、あの野郎!
散々、甘い言葉で惑わしておきながら、いつもの放置の後で帰って来て、気まぐれに俺を抱く気か?
そう思うと、腹が立ってきて俺は枕を投げ飛ばした。
ベッドの足元に用意されてた白いバスローブを羽織るとまず冷蔵庫へ行った。
もちろん、鎖付で。
足元でジャラジャラ音を立てている。
冷えたミネラルウォーターを一気に飲んだ後、ローストビーフのサンドウィッチや、果物の盛り合わせ、スイーツ類や、生ハムのサラダやチーズといった、何でもあり状態の冷蔵庫の中から色々取リ出し、片っ端から食ってやった。
クソッ、クソッ!
リビングのテーブルの上には、好きに遊んでとばかりに最新のゲーム機が置いてあり、飲み物やお菓子が置いてあった。
こんな物で騙されるかよ!
俺はそれらをテーブルの上から払いのけた。
ガシャガシャと大きな音を立てて全てがひっくり返った。
そのままバスルームへ行くと湯が張ってあったので、着ていたローブを脱いで湯船に浸かる。
手にはワインボトル、チェーンの巻かれた足首は浴槽の外へ投げ出して、昨日の事を思い出そうとするが、酒に酔ったのか頭はぼーっとして考えられない。
そう言えば昨日は身体が軋むほどにはエッチしなかったな……。
もしかして……、もう俺に興味が無くなった?
いや……、これが静月のいう『愛』なのか?
こういう愛し方なのか?
だったらかなり寂しくね?
そうなのかな……。
そう思うと、気分が沈むと同時に眠気が襲ってきて静かに目を閉じた。
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