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第118話

進路指導室の前で深呼吸し、意を決してドアを開けた。 ガラガラガラ……。 部屋の中は……誰も居なかった。 呼び出した海堂の姿は無く……それでも部屋の中に入りソファに座って待ってた。 10分程経っても来る気配がない。 海堂に声を掛けて一旦職員に行き、気持ちを落ち着けてここに向かった……時間的に考えても海堂の方が先に着いてるはずだ。 私と対峙するのが嫌なのか? それ程嫌われた?……いや、憎んでる? そう思うと気持ちは沈み心が痛んだ。 でも…そう思わせる事をしたのは……私だ。 それ程、海堂は傷ついてるって事だ。 今の私の心の痛みなんか海堂の傷ついた心に比べたら……。 いつまでもここに居ても仕方ないと、ソファから腰を上げ進路指導室を出て廊下を歩く。 明日、朝のHRが終わった後に廊下で注意しよう 朝なら、海堂も逃げられないだろうし。 そう考えながら廊下を歩き、自然と無意識に足は教務室に向かってた。 教務室のドアを開け中に入ると、そこに居るはずのない海堂が見えた。 膝に肘をつけ手を握りソファに座ってる海堂の姿があった。 ドアが開いた音で私が入って来た事が解り、チラッと私を見たが直ぐに目を逸らした。 目を逸らした事にチクッと胸が痛む。 長ソファとテーブル……それ以外は座る所が無く私はいつも座ってる椅子を机から出し、海堂の斜め横に椅子を置き座った。 「海堂……進路指導室って言ったはずだが?」 ドキドキ…し心臓が痛む。 そして海堂を傷つけた事を思うと……海堂を直視できない。 「……どこでも良いじゃん」 海堂の声は低く威嚇するような感じだった。 ……そうされても仕方ない。 「「…………」」 長い沈黙の後に、やっと私から口を開いた。 「……呼び出された原因は解るよな?授業をさぼる事はダメだと前にも言ったはずだ。大学が決まっても最後まで気を抜くな。もう、学校生活も残り少ないんだから」 教師らしく話せてるか? 自分でも不安だった。 「……それで?授業さぼったから、またグランド10周?」 小馬鹿にしたような顔で言い放った海堂を見てられなかった。 「………他の先生の授業はきちんと受けてるようだから……それはしない。他の生徒の事もある…嫌かも知れないが、きちんと授業を受けるようにあと数回の事だ」 芳村の話は、やはり授業をさぼった事への注意だった。 久し振りの2人だけの空間に俺はドキドキ…してたが、顔は俺の方を向けて話すが、俺が芳村を見ると目を逸らす……そして俺が見てない時に視線を感じ見るとまた目を逸らす……そんな態度に徐々に腹が立ってきてた。 そんなに俺と2人になるのが嫌なのかよ‼︎ だったら、俺の事なんか放っておけよ‼︎ 俺は苛立ちが我慢できなくなりそうで、芳村にぶつけてしまうと思い部屋を出ようとソファから立ち上がった。 「話は、それだけ?解った。もう、さぼる事はしない‼︎ それで良いんだろ⁉︎」 そう言い放ちドアに向かい出ようとした時に、芳村から腕を掴まれた。 「海堂!」 なぜ、海堂を引き止める真似をしたのか?解らない。 体が勝手に動いてた! 海堂が掴んだ私の手を冷めた目で見た。 「何?まだ、なんかあるの?」 冷たい目……私をこんな目で見た事は、今まで1度も無かった。 思わず怯み掴んだ手を離し俯いた。 今度は海堂が私の腕を掴み… ガチャッ! 鍵が掛かった音が聞こえた。 海堂はそのまま私の腕を掴んだまま歩き、ソファに私の体を投げ出した。 ドサッとソファに倒れた私の上に海堂が覆い被さってきた。 海堂が何をするか?解って、私は止めた。 「海堂! 何をする! 止めるんだ‼︎」 手足をジタバタ…と振り回して抵抗した。 体重を掛け腰に乗り両手首を抑えられ頭の脇に押しつけられた、それでもまだ足はバタバタ…動かし抵抗した。 「止めるんだ‼︎ 海堂!」 「煩え~な! 別に、叫んで助けを呼んでも構わない‼︎ この光景みたら俺は停学?いや、普段の素行が悪いから退学か?それでも構わないんだぜ」 殆ど脅しを掛け芳村を睨んで話すと、芳村は抵抗を止めた。 「教師面して一丁前に注意してさ、笑っちゃうよ‼︎ 幼気(いたいけ)な高校生捕まえて弄ぶような事しておいて」 くっくっくっ…… 小馬鹿にした嫌な笑い方をした海堂を見て、どれ程傷つけてたか改めて認識した。 海堂を停学や退学にしたく無いと言う思いもあり抵抗するのは止めたが……これで海堂の気が済むなら……私はどうなっても構わない。 これは私が海堂を傷つけた罰だ。 「抵抗しないんだ⁉︎ それはヤっちゃって良いって事?」 くっくっくっ…… 「……好きなようにすれば良い。それで海堂の気が済むなら……」 「気が済む⁉︎ 気が済む訳ねーだろうが‼︎」 荒く強い口調で言われ殴られる⁉︎と一瞬思い、咄嗟に目を瞑った。

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