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「お、正臣くん!」
店主が僕の背中越しに誰かに声をかけた。
後ろを振り返ると、身なりのきちんとした背の高い男が立っている。
どこかで見た事があるような気がするけれど、気の所為だろうか。
「返しに来ました。新作、やはり面白かったです。」
「そうかそうか、あ、由紀くん、ちょうど返ってきたよ。借りるでしょう?」
「あ、はい。」
男は僕の顔をじっと見つめる。
何か付いているのだろうか?
男が口を開きかけたところ、店主が話し始めた。
「彼は由紀くん。この間言っていた子だよ、翻訳いるんだ。」
「彼があの。」
いまいち、状況が飲み込めない僕はその場から立ち去ることにした。
「あ、あの、僕はこれで。」
「あぁそう、またおいで。」
二人に軽く会釈をして貸本屋を出る。
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