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*由紀side
風邪を拗らせて、僕は一週間程寝ていた。
まあ、体調が良い日も結局は部屋の中に居なければならないので大して変わりわないのだけれど。
久しぶりであるし、外へ出るのも許されるだろうと、いつも僕に食事を運んでくる使用人が来るのを待ち構えて、外出したいことを伝えると、
分かりました、とだけ言い、部屋を出ていった。
杖を付きながら部屋を出て階段を降りる。
大通りの外れにある貸本屋は、物好きの店主が異国から取り寄せた珍しい本から大學の図書館にしか無いような貴重な本まで取り揃えてある。
何故そのような本を手に入れられるのか、店主の正体は謎に包まれているのだ。
店に入ると、客は僕の他は二、三人しかいないようだ。
「久しぶりだね。」
初老の店主が僕に声をかけた。
「えぇ、ちょっと風邪を拗らせてしまって。」
「それはいけない。もう大丈夫なのかい?」
「はい。そういえば、こないだ入ってくるとおっしゃっていた○○○の新作借りられますか?」
「あぁ、それねぇ。原書で読める人は少ないから誰も借りないと思っていたんだけど、借りてった人がいてね。もうじき返ってくると思うんだけど。」
「そうですか、分かりました。」
戸棚を見て周り、何冊か手に取って、店主の所へ持って行く。
「これ、貸してください。」
「はいはい。あ、そういやまた翻訳頼んでもいいかい?」
「いいですよ。」
僕は時々店主に頼まれて、洋書の翻訳をしている。
この貸本屋には外国語を学んでいる学生も多く来る為、洋書を借りて行くのだが、辞書だけで自力で読むのにはなかなか難しい。
勿論きちんと翻訳さたものもあるが、ここに置いてある珍しい洋書の多くは和訳版は出ていない。
僕が自分の趣味の範囲内で訳したものを店主に見せたら、なかなかの出来だと褒められたので、時々頼まれて訳すようになったのだ。
勿論公式のものではない為、販売は一切していない。
「結構評判良いんだよ。」
「それは良かったです。」
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