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第31話 終
アメリカでの新しい生活が始まって数週間たったある日、進藤からメールが来た。そのメールには何か添付されていた。
『元気にやってるか? 俺は元気で職場の先輩にしごかれているよ。鷹人、日本に帰ったら、俺の所に来いよ。俺がお前を世の中に広めてやるからな。俺はその頃には一流の営業マンになってる予定だ。必ず帰ってこいよ。 追伸―お節介なのは分かってるが、シュンの出たTV番組の録画を送る。お前って罪な奴だぜ。 進藤剛士』
進藤は、俺の仕事のことを考えてくれている様で、その気持ちがとても嬉しかった。
それにしても……テレビで何があったんだ?
パソコンで映像を開いてみると、日本の音楽番組が流れ始めた。そんなに時間が経っていないのに日本のテレビ番組がとても懐かいと思った。
「それでは、次はサーベルの新曲、『愛を探して』です」
『生まれ変わったら 僕を見つけて
今度はずっと離れないから
お願いだから 誰よりも先に愛していると言って
いつまでも君のそばに居たいから
何に生まれ変わっても 必ず見つけて
僕も君を 愛しているから』
そんな歌詞が耳に入って来た。
シュン、その歌詞、もしかして俺のパクリじゃない? そう思ったら少し可笑しくなった。
笑ってる筈なのに、涙が頬を伝っていた。
それから、コマーシャルの後に、司会者がシュンが父親になったという話題を振っていた。俺は見るのを止めようか迷ったが、シュンの瞳が俺を見つめているようでその場を動けないでいた。
「おめでとうございます。男の子さんだったそうですね」
「ありがとう。そう、男の子だったんだ」
「お子さんのお名前を聞いても大丈夫ですか?」
「うん、いいよ。名前はね、タカト」
「どんな字を書くんですか?」
「鳥のタカの『鷹』に、かなえるって意味の『叶』」
「素敵な名前ですね」
「良い名前だろ? 大好きな名前でね。鷹のように自由に空を飛び、夢を叶えて欲しい。なんてね」
画面のシュンがこちらを見つめていた。
「やっぱり自分の子供は可愛いでしょうねぇ」
「うん、メチャメチャ可愛い。俺はタカトを愛してるんだよね」
「うわー。もう、親何とかですねぇ」
「そうだね」
そう言って、シュンが笑っていた。
嘘だろ? なんでそんな名前付けるんだよ。一生忘れられないじゃないか、そんな名前付けたら。シュン、あなたは馬鹿だ。どうして――。
テレビの画面には、他の歌手が楽しげに話をしている様子がうつっていた。俺は、その画面を見つめたまま、さっきのシュンのことを思い出していた。
『俺はタカトを愛してるんだ』
子供は可愛いだろうけど――
俺はスマホを取り出すと、送るつもりのないメールを作り、すぐに破棄した。
『シュン、2世誕生おめでとう。たくさんの愛情を注いで、幸せにしてあげて下さい。
俺は元気で夢に向かって頑張っているから、心配しないで。
遠い国から愛を込めて』
「愛だけじゃ足りない」編に続く
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