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第30話

「鷹人!」  シュンの声のような気がして、声のする方を振り返っていた。 「シュン……なんで?」  振り返った俺を見つけて、シュンがこちらに駆け寄ってくるのが見えた。 「会いたかった」  俺の間近に来たシュンが、俺の両手を掴みながら苦しそうに言った。 「来たらダメじゃない――」  俺の計画が―― 「会いたかった。鷹人、家に居ないし、連絡もつかないから、バイト先に行って進藤君に聞いた。彼なら知っているんじゃないかって思って」  進藤にだけ伝えてあった、飛行機の時間と行き先。俺はもしかしたらシュンに来てもらいた かったのかもしれない。俺だって会いたかったから。 「どうして来るんだよ」  会いたかったのに俺、酷い事言ってる。 「顔が見たかった。、鷹人、どうして何も言ってくれなかった?」  シュンが泣きそうな顔をした。 「あなたの事が嫌になったから……」 「嘘だ」 「あなたの存在が重すぎるから」 「分かってる……俺が鷹人を苦しめたんだろ?」  そうです、あなたが俺を追い込んだんだ。そう言ってシュンを突き放そうと思った。 でもその時、シュンが俺の身体を抱きしめてキスをしかけてきた。声の漏れてしまいそうな程激しいキスだった。  俺は慌ててシュンの身体を押し離した。 「シュンさん、あなたは有名人なんだよ。こんな事しちゃだめじゃないか!」  切ない目をしてシュンが俺を見つめている。 「平気だよ。撮影だとか思われるさ」  そう言うと、シュンがもう一度俺の身体を抱きしめキスをした。 「ダメだよ、お願いだからもうやめてください」  シュンの腕を解いて、俺は頭を下げた。 「嫌いなんて嘘なんだろ? 行くな。行かないでほしい」 「シュン、あなたはも父親になるんだから。子供に悲しい思いをさせないで」  俺は一度頭を上げ、シュンの目を見つめながらそう言った。シュンの両眼からは涙が零れ落ちていた。 「愛してくれて、ありがとう。それから……ごめんなさい」  俺はそう言うと、シュンをその場に残し、駆け出した。まるで映画のワンシーンのようだと思った。

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