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第29話

 シュンには、これから忙しくなるのでメールも送れない時もあるからと、前もって言ってあった。それでもシュンからのメールは2日に一度は届いていた。返事は無くても良いから話を聞いてと。 時々電話をかけてくれてるのも、知っていた。番号は表示されてなかったけど、きっとシュンだよね。いつも夜中に少し鳴らして切れてしまう電話。気が付いていたけど出なかった。声を聞くのが辛いから。  苦しかった。早くシュンの前から消えてしまいたかった。ごめん、身勝手な俺を許して――いや、許してなんて無理な話だろうね。シュン、あなたを傷つける事になってしまって、本当にごめんなさい。  きちんと会って『さよなら』をすればいいのにと何度も思ったけれど出来なかった。何を迷っているんだろう俺? 酷い奴って思われてもいい、なんて偽りの気持ち。勇気が無いんだ。シュンに会ったら、抱きしめたいキスしたい、愛し合いたい、その気持ちをきっと抑えられないから。  友達でも良いなんて、そんなの無理な話。好きだから、愛してるから、自分だけのものにしたい。 でもやっぱり、自分が幸せになる事で、誰かが不幸になるような愛なんて、シュンと同性の俺には荷が重すぎるよ。  そして、とうとう日本を離れる日になった。向こうでは父親が首を長くして待っている事だろう。始めから俺に一緒に行くように言っていた父親だから。  俺が「卒業したら、やっぱりそっちで暮らすよ」と電話した時の親父は、「だったら前にちゃんと言ってくれたら広い所に引っ越してたのに」って文句を言っていたけれど、とても嬉しそうだった。  新しい生活が待っている。いつまでも過去に捕らわれている訳にはいかないんだ。 過去――そう、シュンとの事はもう過去の事なんだ。会わなくなれば特別な感情は無くなるだろうから。 きっと、男に恋してたなんて、俺も馬鹿だったな、なんて思える日が来るはずだから。  飛行機の時間は夕方だったのだけど、家に居てもやる事も無く、シュンから送られてくるメールを待つような感じになってしまうのもいやだったので、早めに空港に向けて出発した。  空港に着いてから、旅客機が飛び立っていく様子を何度となく見つめていた。もうすぐ俺もあの空に旅立っていく。初めて愛した人のいるこの国ともお別れだ。 苦しかったけど、あなたと会えて良かったんだと思う。さようなら、シュン。  また1機、滑走路から飛び立って行く飛行機を見送った。その時、 ポケットに入れておいたスマホの振動がメールの着信を知らせた。 ポケットから出し画面を確かめると、シュンからのメールだった。 『今どこに居る?』  まさか、俺の事を探してるのだろうか?  すると、すぐに今度はメールではなく、電話がかかって来た。もちろん相手はシュンだった。でも、俺は出る事が出来なかった。 それから呼び出しを続けているスマホを見つめながら、『なんで、最初からそうしなかったのだろう?』と思いながら、電源をオフにした。 俺は離れていく決心をしてたけど、それでもシュンからの連絡を待っていたんだ。シュンが俺のこと考えていてくれるって事、実感していたかったんだ。  静かになったスマホをポケットに入れてから、チェックインカウンターで手続きを終えた。手荷物を預けようと歩き始めると、どこからか俺の名前を呼んでいる声がする事に気が付いた。

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