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第1話

ちゅんちゅんと鳥の囀りが聞こえる朝、高川雅(17歳)は体に重みを感じながら目が覚めた。 その重みは今に始まった事ではなく、覚えのある重に魘されつつ目を開ける。 どきっと雅は鼓動が跳ねた。 目の前には、それはもう羨ましいくらいに顔が整っていて、サラサラの金髪が色白の肌に合っていた。 男から見ても綺麗な顔立ちが、目覚めて直ぐに目の前にあるのだから不意にもドキリとしてしまった。 心臓に悪いと逆を向けば、先程見た顔立ちと似ている顔があって、また心臓に悪い。 こちらはどちかと言えば少し男前だろうか、こちらも同じく金髪が視界に入る。 それは、重いはすだ。さして広くもないベッドの上に2人に乗っかられてる。そして、この状況にそこまで驚かなくなったのは、ここ最近こんな感じだからだった。 雅は大きくため息を吐くと、2人をベッドから突き落とした。 「いい加減にしろよ!」 勢いよく突き落とされた2人は、ガタンと落ちた音を立てた後でゆっくりと起き上がった。 「何も突き落とさなくていいだろ」 「せめて揺するとかしてくれないかな?」 顔立ちのいいこの2人の1番の見分け方は、目を開ければ、1人が青い瞳、もう1人が赤い瞳をしている。 「突き落とされたく無ければ、自分の部屋で寝ればいいだろ!?」 「やだ。」 2人は、即答で答えた言葉に、雅は分かっていながらもため息を付いた。 ここ最近の朝の恒例みたいになっていた。 声を揃えて言うあたり、双子に感じるが2人は兄弟だそうだ。 青い目をしてる方は、自然と左から右へ前髪が流れて少し長めの髪で顔立ちは少し男前の方が、兄のレオン・ガーレッド。 赤い目をして方は、前髪を真ん中で分けて、綺麗な顔立ちをしてる方が、弟のシェイル・ガーレッドだ。 日本人離れした容姿のこの2人は、海外からの留学生…でもなく、ハーフ……という訳でもなく。 「まぁいいや、それよりさ…」 弟の方のシェイルが、再びベッドに乗り出し顔を雅へと近づける。 「雅の血が欲しいな」 蠱惑的に笑みを浮かべ、瞳が妖しく光った。 シェイルは雅の手を掴むと指先を舐め出す。 「なっ!ちょ……」 困惑してる間にいつの間に背後に居たのか兄の方のレオンが、耳元で囁く。 「俺もほしいな?」 レオンは雅の耳を口に含む。 雅は、不意の出来事に体を震わせた。 「ふっ……こらっはなせっ」 そう、彼らはよくファンタジーとかで出てくるお伽話の吸血鬼だ。 雅も最近までその存在なんて、ゲームとか漫画の世界の話だと思っていた。が、今現在こうやって直面している上に、よりよって男2人から迫られるのでもうたまったものではない。 ほっとけばどんどん過激になっていくので、雅は閉まってるカーテンを掴むと片手で強引に開いた。 「離せって言ってるだろ!!」 窓から光が入ると、2人は慌てて雅から離れ朝日が直撃しない所に移動した。 「酷いな、俺達が日に弱いからって」 兄のレオンの方が頭を掻いた。 よくある、吸血鬼は日に弱いらしいって言うのが本当に効いて良かった。と心底雅は思う。 あのままほっといたらどうなってしまうのか、考えたくない。 「ここではルール違反なんだろ!?それにオレはこらから学校なの!」 2人はえー?と言いたげな顔をしていたが、諦めたのか立ち上がった。 「仕方ないね、部屋に戻って寝ようかな。行ってらっしゃい」 弟のシェイルの方が、ひらひら手を軽く振ってから雅の部屋から出て行く。レオンも後に続いて、行ってらっしゃい。と声を掛けられた後出ていった。 雅は、朝からどっと疲れを感じてため息をつくと、時計を見たら7時半を指しているのに気付いて慌てて顔を洗って制服に手を通した。 既にどこからツッコミを入れればいいか分からないこの状況を説明するなら、一言で語るには設定が盛り盛りである。 まず、ここは全寮制の私立高等学校で、昼間のコースと夜間コースに分かれている。 昼間のコースは普通の人間が通い、夜間コースが吸血鬼が通う学校らしい。因みにこの夜間コースに通う方が吸血鬼達。という事実は昼間のコースの人には本来知られていない。 雅がそれを知っているのは、理事長が保護者として引き取って貰ったからだった。 そこで、雅は心に影を落とした。 1年前、両親が不慮の事故で亡くなった。 引き取り手が居なかった所、父の親友であった高川叶さんに引き取ってもらって、暫く何もする気が起こらなくなって塞ぎ込んだ後、叶さんに勧められて理事長をしているこの学校に1ヶ月前転校してきた。 今もまだ心の傷は癒えてなく、突然泣き出したくなりそうになる時があるが、現在住んでる寮の住人が賑やかなお陰で紛らわされているのもあった。 昼間と夜間で寮も本来なら全く別々らしい。 雅が突然の転入だったので、昼間の方の寮に空きがなく夜間の寮へ入った訳だった………が、仮に引き取った子どもを吸血鬼だらけの寮に入れるのはどうなんだろうか!?と思う。 初め吸血鬼達がいると聞いた時は、叶さんの冗談かと思っていたら、本当に吸血鬼がいて当初は驚いて理事長室に駆け込んだ。 「彼らは大人しい方だから大丈夫。」 とにっこりとした笑顔で言われてしまった。……が、毎日こんな感じなのでとてもヒヤヒヤしている。 でも、今の所なんとか実害はないし、引き取ってもらっただけでも有り難いのに、学費も免除して貰っていて、叶さんには迷惑もかけたくないので、とりあえずは様子を見る事にした。 時計を見ると8時前を指している事に気付いて慌てて自分の部屋から出た。 この全寮制の学校の寮はとても豪華らしく、内装はアンティークな作りをしているし、1人一部屋設けられている。 ただ、光が入らないように作られてる為か朝でもこの寮は薄暗かった。 部屋も学生が住むには広く作られているが、なんせどこを見ても広い。玄関の方へ階段を降りていくと、慌てて走っていたからか、階段を一段踏み外し態勢を崩して前に倒れそうになる。 「うわっ!!」 思わず目を瞑っていると、痛みがない。 転げ落ちる事はなく誰かが体を支えてくれたのかお腹の辺りに別の体温を感じた。 「大丈夫かいな?」 目をゆっくり開けると、肌以外全身黒い格好を、した男がにっこりと笑いかけた。髪は後ろに一つ結んで、瞳も黒い。 「ありがとう。ウラニス」 「その様子やとまたレオン様とシェイル様に絡まれたんか?しゃーないお人やな〜」 流暢に関西弁で話すので日本人らしいウラニスだがこの人(?)も吸血鬼だ。 正直この寮の中では、1番話しやすい。 レオンとシェイルに敬称を付けるので、もしかしたら2人は吸血鬼の中では偉い人なのか?と思いつつ、時間がヤバかったの思い出した。 「やばっ!オレ行ってくる!」 「おう、行ってらっしゃい。気をつけてなぁ」 ウラニスに軽く手を振る。 叶さんに引き取られた後引きこもっていたからか、行ってらっしゃいと声を掛けられるのは少し嬉しかった。 ここは吸血鬼だらけだけど、人の雅にも優しくしてくれる。 玄関付近に行けば、すれ違いでとても美人な顔をしたピンク色の髪を2つに結び、瞳は紫色をしている。服装はとても派手にゴスロリを着ているが、それが気にならない程似合っていた。 「あら、出るの遅いわね……あらら?またお二人に添い寝してもらったのかしら?」 ニヤニヤと楽しげにもはや恒例になってる事実を詮索してくる。 「2人が朝起きたら勝手に寝てるんだよ!望んで添い寝してるみたいに言わないでくれ!」 朝2人に詰め寄られた事を思い出し、少し顔が熱くなった。 ふーん?と怪しげに見てくるが、それ以上は詮索せずにクスクスと笑っている。 人を揶揄うのが趣味らしいので、見た目に反して少し残念な性格をしている。名前はミルク・ウォンティー。 もっと残念な事に、彼女ではなく、彼は男だ。 どっからどうら見ても女にしか見えない見た目で、更にミルクって名前だからなのか、この事実はこの寮にいる人らしか把握していないので、昼間のコースの人達は女の子だと思ってるらしい。 「まぁ、気をつけて行ってらっしゃい」 行ってくると、返事して寮から雅は駆け出した。 今の寮内で、仲良くしてくれる吸血鬼は話かけてきた4人。 それ以外は突然人間が寮に入って来たことに不信感を持っているヤツもいる。 本来相入れない存在どうしなのだから、当たり前と言えば当たり前だ。理事長の家族に入るのもあって何かしてくる訳ではないが、4人のお陰で寮内で特にしんどい思いもしていなかった。  昼間コースの学校になんとかギリギリ着いた。寮から学校まで敷地が広いせいで離れている。クラスに入ると、そこはどこにでもある普通の高校クラスだ。 「あ、きたきた!高川くん、今日の王子様兄弟の情報何か教えてよー!」 クラスに入って早々に同じクラスの女子生徒に声を掛けられる。 王子兄弟とは、レオンとシェイルの事だ。 なんせ両方ともイケメンなので、それはもう女子には大人気である。雅が向こうの寮で暮らしてる事を知ってるせいで、毎日何かしら情報を求められる。 また、レオンとシェイルに限らず、吸血鬼達は殆どが美形か美人なので、どの吸血鬼も大概人気なんだが、その2人は群を抜いて人気が高かった。 少し髪は色素が薄くて茶色をしてるが、顔は普通な雅が、まさか毎日朝なぜか起きたから2人が寝てる……なんて事は口が裂けても言えない。 「ええっと……今日はちょっと眠たそうにあくびしたかな?」 そう言うと、昼間コースと夜間コースはすれ違うだけの存在なので何気ない姿の話でも、女子はかわいい何それー!?ってキャキャとしていた。 「ホントお前羨ましいな。そっちの寮の方が広いらしいし、毎日美人拝み放題だし」 そんな訳で男たちからも羨ましがられる。 「基本生活習慣が違うから、そんなに顔合わせないんだけどな」 「一緒の屋根の下ってのが羨ましいんだろがー!」 そう言って男子らにはたまにプロレス技を決められて、イタタタと言いながらふざける。 この1ヶ月でこの生活も悪くないと思えた。  授業が終わり、帰宅時間の夕方…日が落ちかける頃になると、昼間の生徒たちが帰る中、真逆に学校の校舎へと向かう吸血鬼達の群れが現れる。 その時間を狙って女子達が待ち構えてる事も多く、レオンとシェイル達が通れば周りがキャーキャーと賑やかなにる。 こんな中で声を掛けられると面倒なので、そそくさとバレない様に帰ろうと人混みに紛れて割って寮へと向かおうと足を進める。 「あ、雅。」 雅ドキンとして、一瞬固まった。 何で気づくかなー。。。 返事をしないのもどうかと思って観念して振り返った。 「……何?」 「明日は逃げるなよ?」 そう言って、レオンの方がウィンクしたものだから、一斉に周りの女子が黄色声で叫び、中には卒倒した人も出た。 顔面偏差値の暴力もいい所だな。と肩をすくめると軽く手を振って返事をした。 幸い女子の視線などがこっちに向いてないので、特に何か思われた訳でも無さそうです内心で雅はホッとした。 何か思われるって何にだよ。ってそこで自分にツッコミを心の中で入れた。

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