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第28話 帰還
黒瀬のベッドに伏せたまま眠ってしまった理人は、髪を優しく撫でる指の感触に、瞼を開けた。
真人だと思ったその指の節くれだった手触りに顔を起こすと、奇跡が理人を見て微笑んでいた。
「・・・お前が・・呼ぶから・・・」
黒瀬はわずかな力で、その手を動かした。
信じられない光景に震えながら、涙を流しながら、理人は黒瀬の手を取った。
「・・かえって・・・きたぞ・・約束・・・」
理人は横たわる黒瀬の胸に、顔を埋めた。言葉の代わりに嗚咽が漏れた。
「・・・危なっかしくて・・・置いて・・・いけない・・だろうが・・」
黒瀬は胸にすがる理人を愛おしそうに撫でた。
理人は、まだ装置に繋がれている黒瀬の頬にそっと触れた。
「一樹さん・・・っ」
「・・・もう・・・泣くな・・・」
それから、真人と慧が病室へ戻ってきた。
そこで初めて、理人は真人にすがりつき、声を出して泣いた。
真人は理人を抱きしめ、声を殺して泣いた。
慧は、病室の外でしゃがみこんで泣いていたのをナースに見つかり笑われた。
黒瀬はたくさんの泣き声のコーラスを聞きながら、微笑っていた。
「僕が呼んだ・・・?」
「勝手だなんだと、いろいろ文句言ってただろうが・・・」
「でもあの時まだ意識は・・・」
「聞こえたんだから仕方ないだろう。お前、ずいぶん失礼なことを言ってなかったか?」
「勝手なのは本当じゃないですか!」
「・・・まあ、そうだな。これから文句はたっぷり聞いてやる。・・・心配をかけすぎたからな」
「・・・文句を聞いてもらうだけでは割に合いません」
「腰が立たなくなるまで抱き潰してやると言いたいところだが・・・この身体じゃ、しばらくは無理だな・・・」
「・・・病院で何てこと言うんですか・・・でも、それなら・・・」
理人は黒瀬の頬に手を添えた。
「僕が・・・抱いてあげます」
理人は黒瀬を抱き寄せた。理人の胸の中で、黒瀬は微笑った。
「ああ・・・抱いてくれ、理人」
完
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