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第1話
っていうか、何? 何、アレ?
今、僕は、やり場のない怒りに苛まれている。だって……だってさ。
同じ職場の隣のシマのかわいい女の子。やたら僕に話しかけてくるし、警戒心のないかわいい笑顔だって見せてくれるし。ランチにだって誘われるからさ。
こんなの誰だって、脈ありだって思うじゃないか、普通。意を決して、ちょっと……いや、かなり雰囲気のいいお店を予約して、ご飯に誘って。
「好き」なんて告白したら……!
「ゴメンね、京田くんは可愛すぎるから、そういう対象にならないなぁ。だって、私、腐女ってるじゃ。京田くんがあんまり可愛いから、今度、好きなアニメのコスプレしてもらいたかったの。だから、トモダチじゃダメかなぁ」……だって。
ちょっと、まってよ……腐女子なんて、聞いてない。
脈がないなら、ないって言ってよ。勘違いするようなこともしないでよ。
繰り返すけど、腐女子って先に言ってよ……。
さらに言うなら「あんまり可愛いから」とかさ。「コスプレさせたい」とか僕は君のオモチャじゃないんだよ。
かわいい、とか。恋愛対象じゃない、とか。そんなのはしょっちゅう言われるし、だいたい慣れっこなんだけど。
なんだけど……。今回は、本当に……本当に、傷ついた。立ち直れそうにないくらい、傷ついた。女性不信どころか、人間不信になりそうだ。それくらい傷ついて、悲しくて、怒りがこみ上げてくる。
かわいいのが、心底恨めしい。こんな風に産んだ両親に、ひどく憎しみを覚える。同じ遺伝子から産まれるんだったら、どうせ産まれるんだったら、弟みたいな容姿になりたかった。
同じ親から産まれているハズの僕たち兄弟は、神様のイタズラレベルで全く似ていない。僕は背はまぁ普通だけど、瘦せぼっちで全体的に色素も薄い。弟は背が高くて、筋肉質のいい体をしていて、なりより顔がカッコいい。モデル、みたい。そのままにしていても人生楽勝モードなのに。
なのに………弟は、僕の弟は、引きこもっている。
弟が引きこもって、もう3年。
引きこもる、って言っても自室に閉じこもりっきりとかじゃなくて。普通にリビングとかウロウロしてるし、筋トレしたり、お風呂に入ったり。家の中を満喫していて、要は一歩も家からでないひきこもりなんだ。なんで引きこもってるのか、僕をはじめ、父も母も、みんな知らない。
家族みんなで食卓を囲んで、普通に話もするのに。何故か弟は引きこもっている理由を話そうとしないから。父も母もすっかりソレを受け入れてしまって、今じゃいい感じのイケメンニートが出来上がってしまった。
でもさ。でもだよ?
将来、父も母もいなくなって。
かわいいと言われる僕にも、かわいい奥さんができたとして。「ひきこもりの弟の面倒を見てくれない? 家事スキルは高いからさ〜」なんて、口が裂けても言えない。
だから、僕は必死なんだ。家族の中で、一番、弟の社会復帰を懇願しているのは、僕で。
だからなんとかしたくて。でも、そんなささやかな夢や希望すら叶わなくて。
僕は、ズタボロの状態の心を引きずって、僕は自宅の玄関の鍵を開けた。
「ただいま」
「おかえり、恵介」
件のイケメンニートの弟が、リビングからひょっこり顔を出した。
「あれ? 母さんは?」
「依子おばさんに呼び出されて、出かけた。多分、泊まるって」
「またぁ? 父さんは?」
「出張。やっぱり帰らないって」
「そっか……。紘太、メシ食った?」
「うん、チャーハン作って食ったよ」
「そういう自活能力は高いんだよな、おまえは」
「いい奥さんになるよ? 俺」
「……誰のだよ?」
「……恵介の?」
「……おまえさぁ、そんな冗談言えるんだったら、ちゃんと家からでろよ。大学もずっと休学してんだろ?」
「気がむいたらね」
紘太が話をそらそうと、座っていたソファーからおもむろに立ち上がった。
いつもなら。そのまま自室に引き上げる紘太を、僕は黙って見送る。
いつもなら、な。
今日は、フラれて。怒りがこみ上げてきていて、まだ、腹の虫がおさまらなくて。
つい……。僕は紘太に八つ当たりをしてしまった。
「………いつまでも、甘えてんじゃねぇよ!」
僕の挑発的な言葉に。健康的なイケメンニートは、眉間にシワを寄せて振り返った。
「このままずっとおまえが、このままで! 父さんとか、母さんが、死んじゃったりとかして! そしたら、誰がおまえの面倒見るんだよ!? 僕が結婚したら、おまえ1人になるんだよ!? どうするんだよ!? なぁ!! おまえ、そこまで考えてんのかよ!!」
本当に、よどみなく。日頃、僕の心の中にしまい込んでいた、不安と焦りと醜さが一気に紘太に向けて、ダイレクトに放出した。
単純に。紘太に、僕の本当の気持ちを分かって欲しかっただけだったんだ。分かって、そして、前の紘太に戻って欲しかっただけだったんだ。
その瞬間、僕を見る紘太の目が見開いて、潤んでーー泣く、と思った。
バタンーッ!!
派手な音とともに、僕の背中と頭に激痛が走る。
激痛すぎて目がチカチカする。背中を強く打って、息ができない。僕の体にずしっと何かが乗っかってきて、僕はその正体が知りたくて、懸命に目を開けた。
「……!! ……紘太!! な、何……すんだよ!!」
日頃、暇を持て余し筋トレなんかして、やたらイイ体を保持している紘太が。僕のどうしようもなく細い手首をガッチリ握って床に押し付けて……。紘太から逃れようと、僕は必死に体をバタつかせたけど……本当にビクともしない。
……弟に、負けてしまった。それが軽く……いや、かなりショックで。僕は紘太を睨みつける。そんな切羽詰まった状況下、紘太は少し怒ったようなその顔を僕に近づけて言った。
「恵介は、結婚できないよ」
「なっ!! 何、決めつけてんだよっ!!」
「できないよ、結婚なんて」
「なんでだよっ!!」
「だって、俺とするんだもん」
「はぁ!?」
「昔から好きだったんだ、恵介」
「……はぁぁっ!?」
「そこら辺の女子よりかわいいし」
でた。
僕の嫌いなワード〝かわいい〟
でも今はそんな事で、怒ってる場合じゃない。場合じゃ全くないっ!!
「バカじゃねぇの!? 兄弟なんだよ、僕たちは!! そもそも男同士なのに、何考えて……」
「兄弟だし面倒な手続きがいらなくていいじゃん。……ま、俺は何が何でも、恵介を嫁にするけどね」
そう言った紘太の目が、冗談を言ってる感じでもなくて……。僕は急に怖くなって、体が動かなくなってしまった。息ができないほど、胸が詰まる。痺れるほど、体が固まる。
「恵介、好きだ……。恵介は、俺のもんだ」
その一瞬で。僕の唇と紘太の唇が重なって、紘太は僕の口の中に深く舌を絡ませる。同時に、足の間に膝を入れて、僕の体を突くように刺激してくる。
いかんせんリアルでご無沙汰な僕は。紘太の容赦ない刺激に変な声をあげてしまった。……めっちゃ、情けない。
「……ん! ぁ、やめっ!!」
「やめる? やめられるワケない。こんなに色っぽい恵介を見て、やめられるハズがないじゃないか」
紘太は僕のネクタイを片手で器用に外すと、僕の両手首を縛って自由を奪った。
「や……やめっ……」
冗談じゃない!! 真剣な紘太の眼差しに、背筋が一気に寒くなって。僕はたまらず顔を逸らした。
そんな僕をよそに。康太は力づくでシャツのボタンが飛び散る勢いで引きちぎると。間髪入れずに紘太の舌が僕の体を這う。
「紘……やめろぉ! や、やめっ!!」
やばい……! 一線を越える前になんとか……! そんな僕の懇願する声が聞こえないのか。紘太は強引にベルトを取らると、その中にスルッと手を忍ばせて僕のをしごき出す。
紘太のスピーディな行動に、あっという間に、体が火照って……僕は情けない声が出てしまった。
「……あぁ……あ……」
「イッて、ほら。恵介、早く」
お、おとうとに……。弟にしごかれてイくなんて……。情けなくも、気持ちいいと感じる僕に。僕は心底腹が立ってきた。それでも快楽を覚えた体は、紘太を突っぱねるどころか。頭の不快感とは真逆の行動をとる。
「恵介、結構溜まってた? すげぇ濃いじゃん」
「………や、やめ」
「いやいや、これからじゃん。結構、気持ちいいんだろ? それに今度は、俺が気持ちよくなる番だから」
ニヤリと笑った紘太は、僕から出たのを指に絡め取り。鍛えられた膝で強引に広げた僕の中に、その指をゆっくり差し入れ、小さな振動を伴い弄ぶ。
だんだん中に……。
だんだん本数が増えて……。
めちゃめちゃ感じるところを強くつついて……。
体がしなる、腰がうく。僕、女の子みたいじゃないか。あの……あのかわいい腐女子が、僕に言っていたことが、なんとなく理解できてしまった。耐え難いくらい屈辱なのに、妙にストンと納得できたんだ。
僕は女の子を惹きつけない。
腐女子が喜ぶ、男を惹きつけるんだ……。
それに比例するかのように、体が、腰が、揺れて紘太を吸い寄せる。
「こ……う……んぁ、や、やぁ」
「そろそろ、いいかな? 恵介、俺たち新婚初夜ってヤツ、経験しようか」
……は? ……シンコンショヤ?
流石にそれはぶっ飛びすぎやしないか? ぶっ飛んだ紘太の発言に、一瞬で思考が停止して。同時に紘太の指が抜かれる。ぼんやりとする僕の中に、熱くて、硬くて、でかいのが、僕の中にゆっくり、ゆっくりと侵略するように入ってきた。
ちょ……ちょっと、待って。
待って……待って、紘太っ!!
「あ、全部はいった」
「………や……ら、抜…いて……」
気持ちがいいからか、怖いからか。拒否した頭が快楽と恐怖で、ワケがわかんなくなる。
震える体がよじって、しなって。
僕はもう、どうにかなりそうだ……。
二進も三進もいかない僕に、紘太は優しく微笑んだかと思うと、深いキスをする。
「恵介、前からずっと前から愛してた。これからは、俺だけのだよ。恵介」
「い……いっ……やぁ!!」
紘太の甘い声と突き抜けるよう激しく揺さぶる行動が、僕を脳天まで刺激して。僕は今まで経験したことのない、気持ち良さと後悔に襲われてしまった。
僕は、紘太の兄なのに。僕は、男なのに。
どうして……なんで……でも、気持ち良い。複雑な心境を抱えて。僕は紘太に抗えず、体を委ねたんだ。
リビングの床の上で一回。お風呂場の中で二回。紘太の部屋でさらに二回。
弟である紘太は執拗に舐めて、突いて。
兄である僕は、そんな紘太に喘がされてイカされて。とうとう腰が立たなくなった僕は今。僕のことを〝嫁〟と言ってはばからない紘太に、ベッドの上で後ろから抱きしめられている。
……おかしい。
おかしいだろ、この状況もその言動も。
曲がりなりにも僕は兄だ。紘太の兄なんだ。
体力差、体格差はあるとしても。僕は紘太の兄なのに、紘太はさも愛しい恋人を抱きしめるかのような力加減で、僕を抱きしめるから……。こんな状況に僕は、石像みたいにカチコチに固まってしまっていた。
「………紘太……」
「何? 恵介」
「なんで……なんで、僕が嫁なワケ?」
「俺より小さくてかわいいから」
でた。
僕を苦しめるワード〝かわいい〟
でも、今はそれを気にしている場合じゃない。
ぼんやりする思考をフル回転で起動させ、僕は今更ながら紘太の説得にあたる。嫁じゃない、僕は兄だ。だからこんな状況はおかしいのだ! 直ちに僕から離れよ、と。
「今から言うのはあくまでも、あくまでも仮説……仮説だからな? 仮にそういう感じになったとしてだよ? 僕は外で働く、紘太は家で家事をする。奥さん的なのは、どっちだ?」
口からつい出た説得の言葉が、あまりにも間抜けで。僕は焦ってしまって。紘太はそんな僕を見て、顔を僕の髪に近づけた。フッと鼻で笑うその空気が、僕の頬にかかって、僕はカーッと顔が暑くなる。
「俺、かな?」
気を取り直して、頑張れッ!! 僕!!
「……じゃあ、なんで僕のことを嫁とか言うワケ?」
「かわいいから?」
「いや、だから……」
「恵介が嫁でいいじゃーん」
「ちょっ……ちょっと!! 紘太」
暖簾に腕押しな紘太に腹が立った僕は。僕の体に回している紘太の腕をふりほどこうと、自分の腕に力を込めた。獣のカン並みに僕の動きを一瞬で察した紘太は、回している手をぎゅっと固くして僕の動きを封じる。そしてその手が、僕の胸の小さな膨らみにそっと触れて。強く優しくをいじってきた。荒くなる僕の息に反応するように。僕の後ろに熱くて固いものが当たって、じわじわと入り口に近づいてくる。
……抜け目がない、というか。……絶倫、というか。ひきこもっていたかなりの時間を発散するように、紘太が一気に僕を突き上げる。
「や……!! やめ……紘……太」
「……久しぶり、だなぁ」
「……え……?」
「小さい頃はよくこんな風にして一緒に寝てたよなぁ、俺たち。恵介が暗いの怖いっていうからさ、こうやって、俺がギュッてしてあげて」
「ち…ちが……それ、おまえ……んっ……」
「その頃から恵介は、かわいかったんだよなぁ」
「ちが……う……あ、あぁ……」
「そんな声出さないでよ。刺激したら新婚さんは、止まんないよ?」
「い、や……だから………や、やぁ」
紘太は僕の手首を掴んで、そのまま覆いかぶさった。
また、かよ……そして何度も言うが、新婚さんってなんだよ。どんだけすんだよ、コイツは……。
などと、考えつつ。
紘太の攻めに耐えられなくなって……僕はまた息が上がって、声が乱れる。イヤイヤ言いながら、僕のも熱を帯びてきて。
……ヤバい。
……僕は、完全におかしくなってる。
間違いようもない弟である紘太に感じて、腰が揺れて。そしてまた、ありえないくらい気持ちよくなって……。
父さん、母さん、ごめんなさい。きっと僕と紘太は、あなたたちに孫の顔を見せることができないと思います。
なぜなら、兄である僕のことを〝嫁〟といってはばからない弟・紘太せいで。京田家の血筋は僕と紘太の代で終わってしまうかもしれないからです………。
「いててて……!」
男は痛みに弱い生き物だって聞いたことがあるけど、全くもってそのとおりで。昨夜、紘太に散々弄ばれたありとあらゆる体の部位が痛くて、僕の体は情けなくも人目も憚らず悲鳴をあげている。
だから、つい。僕はその体に蓄積した痛みを体外に出したくて「痛い」って口走る。
「どうした?恵介?」
僕の隣に座っている同期の内村が、怪訝そうな顔で言った。
「い、いやぁ、昨日……弟と」
「ケンカ?」
「……まぁ、そんなとこ」
弟曰くの〝新婚初夜〟で全身が痛いです、なんて……絶対に言えない。
「おまえんとこの弟、ヒキニートなんじゃなかったっけ?」
「まぁ、そうなんだけどさ。〝明るいひきこもり〟だから、体とか鍛えてて。僕より強いんだよ」
「……なんだよ、それ」
「兄ちゃんも大変なんだよ」
「そうか、大変だな恵介も。しかし、そんなんじゃ恵介を誘えなくなったなぁ」
「何に?」
「ナースとの合コン」
「マジで!?」
「企画課の岩本が行く予定だったんだけど、急に出張が入って行けなくなってさ。おまえならどうかなーって」
「……行く」
「え?」
「絶対、行く!! お願い!! 参加させて、その合コン!!」
「……おまえ、大丈夫か?」
「大丈夫!! 平気!! なんともない!! そういうことだからよろしく、内山!!」
「お……おう。わかったよ。こっちこそ、急に誘ったのにありがとナ」
これは……これは、千載一遇の最後のチャンスかもしれない!!
紘太の嫁から脱するチャンス!! 父さん母さんに孫の顔が見せられる最後のチャンス!!
そして、さらに言うなら白衣の天使とか……!! 僕にもとうとう、強い運が回ってきたかもしれない!!
……と、思ったのに。
結果は惨敗で………。僕にやっぱりあの〝呪いの言葉〟が、ずっとつきまとう。
「えー! かわいいーっ!!」
「なんか〝彼氏〟にするより〝癒し〟にしたい」と白衣の天使達に口々に言われ。昨日からの傷心を、自らの手でさらに大きなものにしてしまった感じになってしまった。
かわいいって、なんなんだよ。
赤の他人も弟もみんな、僕のことを〝かわいい、かわいい〟言ってさ。好きで、かわいいワケじゃないんだよ……僕だって。
そう思うと、なんか泣けてきて。不自然に顔をうつむかせて、僕は夜道をトボトボ歩いたんだ。
「……ただいま」
「おかえり、恵介。遅かったね」
「うん……疲れたから、風呂入って寝るわ」
泣きべそをかいた顔を、紘太に見せたくない……!! 全くもって最後の足掻きみたいに強がる僕は。僕は紘太と目を合わさず、その横をすり抜けるように一目散に風呂場に向かう。
早く顔を洗いたかったし、なにより、弱ってる僕を紘太に悟られたくなかったし……早く、1人になりたかった。
ガチャーー。
「!!……紘太!! なんで風呂まで入ってくんだよっ!!」
「だって、新婚さんだし。嫌なら鍵かければいいじゃん。まあ、マイナスドライバーで簡単に開いちゃうけどさぁ」
「!? なんなんだ、お前はっ!!」
狼狽する僕を尻目に、明るく言い放った紘太は。僕風呂場に入り込むと、その広い肩で僕の貧弱な体を抱きしめる。
シャワーで体があったまっているのにも拘らず、僕の体は小さく震えて。紘太の体を突き放したいのにできなくて……。
僕はいい大人なのに、涙が止まらない。
「どうした?恵介。何かあった?」
「……んで……なんで、なんだよぉ……」
「恵介?」
「おまえも……みんなも……なんで……僕のことをかわいい、かわいい、言うんだよ……。そんなの言われたって、嬉しくともなんともない……なんで……なんで……」
紘太は僕の顎を優しい手つきで支えると、唇をついばむようにキスをして。僕を労るように、そっと深く舌を絡めてきた。
「……ん……や、やめろ……って」
「カッコよくは、ないだろ。恵介は」
「……」
「恵介は綺麗な顔してるし、かわいいし。特に女子はやっかんでんだよ。だから、よっぽど器が大きな女じゃなきゃ、恵介は結婚できない。想像してみろ。ウェディングドレスを着た一生で一番キレイな自分より、横に並んで立ってる男の方が綺麗でかわいいなんてさ。耐えられないだろ、普通」
「……」
酒が入ってるからか。はたまた、めちゃくちゃ傷ついているからか。
妙に説得力のある紘太の言葉に、僕は言い返すことができなかった。その言葉に呆然としている僕の耳元に口を近づけて、紘太は吐息混じりに囁く。
「恵介のことを一番わかってるのは、俺なんだよ。だから恵介。潔く諦めて、俺の嫁になって」
紘太がそのまま僕の耳たぶに噛み付いて舐めるから、僕はビクっとして体を反らした。
「……やっ! やめ……あ、ぁあ……」
「そんな声出すなよ、恵介。挑発されてるみたいじゃん」
シャワーが常に体にあたって。それと同時に、紘太が僕の胸を舐めたり、指を中に入れたりするから。余計、体温が上がる気がする。
「恵介、後ろ向いて。挿入るよ」
「……んぁ、や……やぁ!!」
僕の中にゆっくり入れてきた紘太は、僕の両腕をガッシリ握って、奥まで波打つようについてきて。
……な、なん……なんだ? 紘太に、弟に突かれてるだけで、イキそうになるなんて………。
や、やば……い。
「……恵介、俺のでイッちゃった?」
「……ん、い…言う……な……」
「もう、俺の嫁じゃん。恵介は」
僕の両腕を離した紘太は、僕を後ろからぎゅっと力強く抱きしめて、僕に言う。
「大好き、愛してるよ。恵介……っ!!」
そして昂った感情のまま、紘太がより深く僕を突き上げた。それと同時に僕の体は反り返って、中にあったいモノがジワジワ広がって。溢れたソレが太ももをつたっていく。
今日一日、いろんなことがあって、いろんなことに傷ついて。一日の終わりに弟に犯されて。
何も……何も、考えられなくて。
頭がパンクして涙が止まらない僕は、紘太に体を預けて。ぼんやりとシャワーから止まることがない優しい水流を眺めていた。
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