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第12話 結婚式大作戦編

✳︎ 「ひょっとして、京田のツレの方ですか?」  待ち合わせ場所である駅の出口付近で、俺は声をかけられた。スラっとしてスーツをカジュアルに着こなして、めちゃくちゃかっこいい人。俺は驚いて、半歩身を引いた。センスいいな、この人。自分の似合うスタイルを知ってる感じだ。 「あ、はい」 「僕、幸田です。あなたがあまりにも目立つから、そうじゃないかなぁって」 「あ、あーっ!! はじめまして!! け、恵介の弟の紘太です!!」  タッパは恵介と変わらないくらいかな。幸田さんはにっこり優しく笑うと、「はじめまして」とすごくいい声で言った。 「すみません。恵介は取引先から向かうって……もう、着くとは思うんですけど」 「気にしないで。僕のツレも仕事がおしてるみたいで……。そこでコーヒーでも飲みながら、待ちませんか?」  やっぱり、接客している人は話し方も身のこなし方も違う。洗練されていて、見れば見るほどかっこいい、というか、キレイというか。それでいて控えめなんて……幸田さんから目が離せなくなる。先輩が、いかに幸田さんが神のようだったと。饒舌に語り出したのもわかる気がする。 「京田もすみにおけないなぁ、こんなかっこいい人を大事な人だなんて」  ブレンドコーヒーをブラックで飲みながら、幸田さんは言った。  だ、大事な人!? 恵介のヤツ、そんなことまでこの人に言ってんのか?  なんか、恥ずかしい……。 「気にしないでよ。僕の大事な人も……。その、男の人だし。京田は昔から察しがいいからなぁ。僕が送ったメッセージだけで分かっちゃったのかも」 「まぁ、そうですよね。野生並みにカンがいいし」 「カンだけじゃないよ」 「え?」 「僕はさ、京田に足を向けて寝れないんだよ」 「……」  言葉が出なくて押し黙っていると、幸田さんは穏やかな表情で続けた。 「僕、ドレスが好きで」 「え? ドレス、ですか?」 「うん。ドレスを見てるだけで幸せなんだけど。大学の時、仲がいい人たちに〝ドレスが好き〟って言ったんだ。別に隠す必要もなかったし。僕のことをちゃんと知ってもらいたかったし。京田だけだったんだよ。『だからセンスいいのか! 僕、イマイチよく分かんなくって………。今度一緒に服、買いに付き合ってよ!! あ、ドレスじゃなくて!〟って言ったの。周りの友達がドン引いてる中、京田がそう言ってくれたから、周りも和んじゃってさ」  そう言って、幸田さんは苦笑いをしながら、コーヒーをすすった。恵介はいつもそうだよな。恵介の言葉に、俺だってたくさん救われた。いつも、自分以外のことに優しくて。自分のことには鈍感で構わなさすぎて。だから、佐竹さんを傷つたんじゃないかって心配したりして……。見た目とは裏腹でサバサバしてるのに、優しいんだよ。  酒の力を借りないと本音が言えなかったり、二人きりじゃないと甘えられない。この間酔っぱらった恵介とヤッてる時、泣きそうな顔で言った「結婚して」って、アレ。  きっと、恵介の本心なんだ。そういうことは、本当は、俺から言わなきゃいけないのに……。  いつも〝いい嫁〟の恵介に。その秘めた恵介の思いに俺は、ちゃんと応えているだろうか……。俺は、恵介に何かしてあげてるんだろうか……。 「幸田さん! 初対面でこんなこと言うのもなんですが! 協力してほしいことがあるんです!」  その時、ブルッと。小さく、長く。俺のスマホが震えた。  ……んあーっ!! 誰だよ!! こんな大事な話し方をしてる時に!! スマホがしつこいくらい震えて。イラッとしながら、スマホを見ると未登録の番号が画面に表示されいた。  あれ……?  一瞬、腹ん中がモヤッ……とするような。そんな違和感を覚える。幸田さんに軽く頭を下げて、俺はスマホの通話ボタンを押した。 「もしも……」 「京田くんの弟くんっ!! さささ佐竹です!! 京田くんが! 京田くんが、大変なんだよぉ!!」 「え……?」  俺の言葉を遮るように。いつもの〝ゆるさ〟なんて微塵もない佐竹の叫び声が、俺の耳を劈いた。すごく間近で響いているにもかかわらず。佐竹耳の中でボーッとこだまして……。  恵介が……何……? どう……した……?  情けないことに。俺の思考は、完全に停止してしまったんだ。  恵介のこととなると、平常心じゃいられなくて。手が冷たい……。頭も冷や水をかけられたみたいに、冷たくて痺れる。  俺の異変に気付いた幸田さんが、俺の固まった手から電話を外す。凄く自然に、俺のかわりに佐竹さんと話してくれてた。なんか、地に足がつない感じでしたフラフラしてしまって……。俺は椅子に深く座ったまま固まっていた。 「紘太君! しっかりして!! 一緒に来て!!」って、幸田さんが大きな声で呼ぶまで、自分の体じゃないみたいな、そんな感覚に支配されていた。全く使い物にならない俺を、幸田さんはリードするようにひっぱって、優しく強く話しかけて。  時間もどれくらいたったか。待ち合わせ場所からどれくらい移動したか。  恵介をおぶっている佐竹さんの姿が目に飛び込んできて、急に我にかえった。 「け、恵介っ!!」  深いスリープモードから一気に覚醒した俺は、ありったけの声で恵介の名前を叫んだ。 「京田くんの弟くーんっ!!」  汗だくになりながら恵介をおぶっている佐竹さんの声が、安堵と疲労が入り混ざった声をしていて。途端に申し訳なさでいっぱいになった。 「よかった~。思いの外、早くきてくれて。ぼく、見た目がこんなんだし……。お巡りさんに職質されたらどうしようかと思ったよ~」 「ご迷惑をおかけしてすみません。……なんか、怖くなってしまって…….幸田さんも……すみませんでした」  ……情けね、俺。恵介のピンチの時に何もできてない。佐竹さんや幸田さんがいなかったら、多分、紘太をもっと危険な目に合わせていたかもしれない。 「ここじゃなんだし、場所移そうか。ツレがこの先にホテルとってるから、そこに行こう。な、紘太君」 「……何から何まで、すみません」 「佐竹様も、ご一緒にどうですか?」 「……い、いやいやいや!! だいじょうぶですぅ!! あ、でも!京田くんが目を覚ましたら連絡もらえますか?」 「そんなにご心配なら、一緒に行きましょう!!」 「……え? え?……え?」  幸田さんのスマートな行動力に驚いて。佐竹さんの超絶ないい人ぶりに癒されて。いざとなったら無能な俺は。顔を赤らめて気持ち良さげに、寝ている恵介をただただ抱えて。幸田さんと佐竹さんの後をポチポチついて行ったんだ。 「ツレが、そこのホテルとってる」って、さも簡単に幸田さんは言ったよな?だいたい幸田さんのツレとか。どんな人でどんな職業なのか詳しく聞いてないし。でもさ、「そこのホテル」って言い回し、あまりにもラフすぎだろ!?  そこのホテルが、帝都ホテルなんて聞いてない!! そのとってある部屋がインペリアルスイートなんて、もっと聞いてねぇよ!!  しかも、幸田さんはなれた手つきでルームキーをあけると、実家よりはるかに広い部屋に案内した。  思わず、佐竹さんと顔を見合わせる。お互い、口には出さないけど〝俺たち、場違いだよな?〟って顔して。 「紘太君、京田を奥のベッドに寝かせてて。せっかくだし、京田が目が覚めるまで、僕たちは軽くルームサービスなんか頼んじゃおうか」 「い、いやぁ、ぼくは、本当だいじょうぶなんで……」  緊張しまくってる佐竹さんに。幸田さんは優しく、そして何か企んでるように笑って言った。 「ここで働いてるにもかかわらず、僕も二回目なんです、ここにくるの。この際だから、満喫しませんか? 佐竹様」 「で、でも!! お、お金はぁ……?」 「そういうことは、心配されなくても大丈夫ですよ。というか、僕も一回は食べてみたかったんですよね。自分で働いてるとこのお客様仕様の料理」  ……つくづく、肝が座っているというか。シレッと俺の考えの上を行くというか。幸田さんと佐竹さんが、わちゃわちゃ言っているのを尻目に。俺は奥のベッド恵介を寝かせた。みんなに心配かけてるくせに、気持ち良さげに眠っちゃって、さ。  そんな、恵介を見てると。どさくさのうちに流れてしまったあの話を。幸田さんにしなくちゃいけないって、衝動にかられたんだ。  俺は拳を握りしめて。佐竹とルームサービスを楽しげに選んでいる幸田さんの元に、歩をすすめた。 「幸田さん! あの……お願いが、あります!!」 ✳︎ 「おめでとう! 佐竹さん」  僕の声が届いたのか。濃いグレーのタキシードをカッコよく着こなした佐竹さんは、僕に照れ臭そうに笑った。  佐竹さんと総務課のあの甘い声の女子との結婚式。二人とも始終ニコニコしていて、幸せそうだ。  少しぽっちゃりしていた佐竹さんが「マリエさんに恥をかかせられない!!」と、一念発起してダイエットを敢行。すっかりスリムになってた佐竹さんは。いい人感はそのまま、めちゃめちゃ男前になって。まさしく、『痩せたらモテすぎるから、敢えてぽっちゃりでいた』みたいな。  本物の王子様みたいになった佐竹さんを見ていると。愛の力ってすごいなぁって、つくづく感じたんだ。佐竹さんが一念発起するきっかけとなったのは、実をいうと他にもある。  遡ること。取引先から引き上げた途端、僕が「赤ちゃんかよ」ってくらい眠気に襲われて。つい、路上で佐竹さんに寄りかかって爆睡したあの日。  実は僕、宅間にイカガワシイ薬を盛られていたらしい。らしい、ってのは、あまりにも僕が薬に対して耐性がありすぎたことにより。盛られたことに気付かず、盛ったネコみたいになるどころか、死んでんじゃないかってくらい爆睡した。そのせいで「なんか、変だぞ?」って程度に終わっていたんだけど……。  ただ、1人。佐竹さんだけは僕のそういう状況を不審に思っていた。そして、電話口で宅間に詰め寄り、問いただしたんだ。佐竹さんの勢い……というか、剣幕に、宅間は渋々白状した。スピーカーから流れてきた宅間の声に、二課の全員が固まった。  「京田くんお茶に媚薬を混ぜました」って。  ……媚薬、ってさぁ。エロ動画の見過ぎだろぉ、宅間ぁ。真実を知った僕は、気が遠くなりすぎて、後ろに倒れそうになった。  そんな中、佐竹さんが一人ヒートアップして叫んだ。 「かわいい部下になんてことをしてくれたんだーっ!! 宅間さんっ!! あなた、最低ですっ!! もうお宅とは契約しませんっ!! 未来永劫、天変地異があっても、お宅とは絶対に契約しませんからーっ!!」  あの佐竹さんが……。人目をはばからず、電話越しに宅間を怒鳴り散らして……。あんなに佐竹さん自身が頑張っていた契約なのに、僕のせいで白紙にしてしまで僕を庇ってくれた。正直、僕のせいなのに。  同時に、僕は覚悟した。電話をきってもなお、プンスカしている佐竹さんに、僕は頭を深く下げる。 「佐竹さん、すみませんでした。……僕、このシマから外してもらって構いません。本当にすみませんでした」  僕がいたら、この先、佐竹さんもやりにくいだろうな、って思ったし。何より、佐竹さんが望むなら。他のシマに行くか異動するか、そうなってもしょうがないって覚悟を決めていたのに。なのに……。 「なんでー? 京田くんがいなきゃこのシマはまわんないよ〜。京田くんが無事で、ぼくは涙がちょちょぎれるくらいうれしいんだよ? だから、そんなこと言わないでよー」って、佐竹さんが優しく言うから。  本当に嬉しかったんだ、僕は。  その件もあって。 「きっと宅間さんは、ぼくの見た目からして馬鹿にしていたに違いない!!」と、怒りが原動力となり、さらに拍車がかけてダイエットを頑張っていた。  そして、この幸せ満載な結婚式に至る。  佐竹さんの隣にいる、今や佐竹さんのお嫁さんとなった総務課女子が幸せそうに笑って、甘い声がより一層甘くなっいる気がした。  いい、結婚式だなぁ……。披露宴が終盤に近づくにつれ、僕は佐竹さんの親族かってくらい、目頭が熱くなってしまったんだ。  僕、マジで、親戚のオジサンかなんかだろ。 「……恵介、大丈夫か?」  紘太が呆れたよう笑って、僕に声をかける。 「うん……佐竹さんが、すごく幸せそうでよかった……よかったぁ」 「恵介、披露宴が終わったら、幸田さんがブライダルサロンに寄ってってさ」 「分かった。幸田にも、ちゃんと……ちゃんと、お礼言わなきゃな。足向けて寝れないよ、幸田に」  って、半泣きになりながら言ったのが一時間前。  僕は、今の状況が飲み込めずにいる。  佐竹さんの二次会にも行かなきゃいけないのに。僕は幸田の手によって、白のタキシードに無理矢理着替えさせられて、髪をセットされていた。ほぼほぼ着せ替え人形よろしく。幸田のいいなりになっている。  あっという間に、佐竹さんみたいな新郎ができあがってしまった。  ……状況が、飲み込めない。 「やっぱり京田は線が細いから、白が似合うと思ったんだよね! 我ながらセンスいいなぁ。京田、すごくキレイだよ」 「……あ、そう? ありがとう。……じゃないだろ!? 幸田! これ、なんだよ!!」 「まぁまぁ、落ち着いて」  幸田がいたずらっ子っぽく笑うと、白くシミ一つない手袋をはめた手を僕に差し出す。 「え? 何?」 「京田恵介様、ご案内します。こちらにどうぞ」  幸田がいつにもなく優しい声で僕の名前を呼ぶから。僕は不覚にもドキッとしてしまった。  手を取らずにはいられない。僕は、差し出された幸田の手をとる。ドキドキの鼓動が、耳にこだまするくらい興奮して……緊張して。僕は幸田に導かれるように歩き出した。  ゆっくり、それでいて、華やかに。  まるで……お姫様になったみたいに……。いや、男なんだけど、僕……。  でもぴったりの表現が、まさしくそれしかなかった。幸田が、にっこり笑いながら、白い扉をゆっくり開ける。 「え? えぇ!?」  ……ここ、チャペルだよね? なんで? 幸田はなんで、僕にこんな格好をさせて、ここに連れてきたんだ?  徐々に開く扉。  その先にあるまっすぐなバージンロードが、目に飛び込んでくる。 「!?」  バージンロードを挟んだ両側には、佐竹さんとか、内村とか……。みんなが笑顔で僕を迎えて、拍手をおくってくれて。  そして、そして……。濃いブルーのタキシードをきた紘太が、優しい笑顔で僕を迎えるように僕を見つめている。  夢、かな? これ、夢なのか……? 〝僕と紘太と、いつかは神様の前で、永遠の愛を誓うことができたらいいなぁ〟って、密かな願望が……。  叶うはず、ない。  叶うはずもない願望なのに。  今、叶おうとしている、のかも……。 「恵介、泣いてんだよ」 「泣いてない……目にゴミが入ったんだよ……」 「相変わらず、バレバレの嘘つくのな。恵介は」  ……あぁ、もう。なんなんだよ……。  嬉しすぎて、牧師様の声もしっかり頭に入ってこない。興奮しすぎて、紘太がまともに見られない。 あぁ、だから。花嫁さんはベールを被るのかな? 僕もベール被ればよかったかな……。 「紘太さん。あなたは彼を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」 「はい、誓います」  穏やかな牧師様の声と、聞きなれた紘太のいい声がスッと心に入って……。うぅ、また目にゴミが入る……。 「恵介さん。あなたは彼を、健康な時も、病の時も、富める時も、貧しい時も、良い時も悪い時も、愛し合い敬いなぐさめ助けて、変わることなく愛することを誓いますか」 「はい……誓い……ます」 「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」  僕はようやく紘太と目を合わせて……紘太が合図をするかのように、にっこり笑った。 「はい、誓います」  神様の前で、声を合わせて。  僕らは、変わることのない永遠の愛を誓ったんだ。  僕の左手のくすり指に、新しいアイテムが一つ増えた。  紘太とお揃いの……リング。神様の前で愛を誓うと言うサプライズを紘太から、みんなからもらって。  まだ、夢の中にいるみたいだ。  僕たちの挙式が終わると。改めて佐竹さんの結婚式の二次会が、ホテルのラウンジでとり行われれた。 あんなに人前でガキみたいにビービー泣いたのも初めてだったし。なりより……皆の面前で、紘太と愛を誓ったと言う事実に。我に返った僕は、いきなりいたたまれなくなった。ハズカシイんだけど? 「京田く~ん! 幸せになろうねぇ」  式の緊張から解放されたであろう、ほろ酔いの佐竹さんにそう言われて。 「悔しいけど、めちゃめちゃお似合いだーっ!」  だいぶ酒が回った、内村と大原に絡まれて。  幸せが増える、溢れる空間に、ぼくは心の底から嬉しくなったんだ。  なんか、楽しかったな。  帝都ホテルの、スイートとまではいかないけど、幸田が一部屋手配してくれて。僕は指輪を眺めながら、今日の余韻に浸っていた。  本当、何から何まで……なおさら、幸田に足を向けて寝られないなぁ。ふかふかのベッドに寝っ転がって。キラキラの指輪をニヤケながら眺めていたら、シャワーから出てきた紘太の顔が視界に入ってきた。 「紘太。準備、大変だったんじゃない?」 「ううん、幸田さんとか内村先輩とか、あと佐竹さんが手伝ってくれて。……アレだよ。恵介がみんなに愛されてるから、みんな喜んで手伝ってくれたんだよ」 寝っ転がってる僕に、紘太は体ゆっくり預ける。そして、深く、官能的なキスをした。 「……ん、こうた……ありがとう」 「どういたしまして。今日の恵介、めちゃめちゃキレイだった」 「……紘太も……妬いちゃうくらい、カッコよかった。幸田のセレクト?」 「そう。さすがだよね、あの人。恵介は絶対白が似合うって言い張ってたし」  紘太の指輪をはめた手が、僕の体をなぞるように愛撫しはじめる。神経がギンギンにとんがってる僕は、すぐに感じてしまって……ヤバいくらい、乱れる。 「すごく……すごく、うれし……。本当は、本当は……こういうこと、したかった。……したかったんだよぉ…こうたぁ」  ……止まんない。止まらないから、僕は紘太にしがみついて言ったんだ。 「……こうた、僕をちゃんと嫁にしてくれてありがとう」 「とんでもない。これからもよろしく。愛してる、恵介」 「うん……うん。僕も愛してる、紘太ぁ」  嫁になれ、って迫られて。  好きって気付いて、一緒に住んで、夫婦みたいになって。隠してるつもりはなくても、なんとなく後ろめたい気持ちが心の底にあった僕たちだったけど。  でも、今は……堂々と、紘太の嫁でいられる。  あの時からすると、僕と紘太の関係は変わってしまった。  でも、お互いを愛する気持ちは、絶好に変わらない。  狂おしいほど好きな気持ちは、変わりようがない。  ひきこもりの弟が兄である僕に嫁になれと迫ったばっかりに。  その結果、僕たちは唯一無二で最強のの二人になったって思えるんだ。  ……なんてね!

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