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第1話

「それでは、これより ゆりかご地下室内の清掃を始める!」 先輩の号令と共に、僕を含めた新人研修生五人が、「……はいっ!」と大声を出す。 地下室の頑丈なドアは、既にその道の専門業者がこじ開け、二人の特殊部隊と共に、防塵服を纏った特殊清掃業者がぞろぞろ中へと入っていく。 世界が一変してから五年。 僕がナツネくんに会いたいと、家出してここに来た日から、二年。 その数年の間に、水面下でここが某国の大富豪に買われ、厳重体勢が敷かれる中、地中深くに埋まった地下室が掘り起こされた。 『何でわざわざ、埋めたものを掘り起こすんスかねぇ……』。社からワゴン車でここに来る間、同乗した新人達がそうぼやく。 あの地下室を、化け物ごと封じ込めたのは周知の事実。 それをわざわざ掘り起こすのだから、不安を持つのは当たり前だ。 だけど……その目的なら、何となく解る。 恐らく、ナツネくんの能力に関するものが欲しいんだろう。 ナツネくんは世界で類を見ない『増殖種』の成功体──身体を化け物に食い千切られても再生し続け、決して死なない人間。 その能力を手に入れる為に、膨大な金を投資したんだろう。 ナツネくんが、自ら犠牲になってまで惨劇を終息させ、平和に導いたというのに。……それを、掘り起こすなんて…… 嫌な感情が沸き上がり、眉間に皺を刻む。 「……うぉ、臭ぇ!」 入口に入って直ぐ、鼻が曲がる程の強烈な悪臭が襲った。 僕の後ろについて歩く新人が、身を屈め叫びながら顔を両手で覆う。 黴とガス、肉の腐敗した強烈な臭い。 防塵マスクなんて何の役にも立たず、特殊部隊がつけている完全防備の防毒マスクを恨めしい目で見る。 「いつもと違って、換気ができねぇからな」 振り返った先輩が、僕を含めた後輩達に優しい口調で声を掛ける。 しかしその目はしっかりと仕事モードに切り替わっており、つり上がっていて真剣そのものだ。 「……気分が悪くなったら、構わず休憩取れよ」 「はい!」 返事をすれば、目が合った僕に少しだけ目元を緩ませてみせる。 肩肘張っていたのを見抜かれていたのか。先輩が、それを解してくれたように感じた。

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