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第2話
工事用の照明は、熱い。
本当、兎に角熱い。
熱が籠もり、額から汗が噴き出し、張り付く防塵服を脱ぎ捨てたい衝動に駆られる。
暗い底に所々当てられた照明。浮き彫りになった内部の光景は、それだけで充分異様だ。
それは、ゆりかごから出た時に匹敵する程の惨劇で。共食いの末に朽ち果てた化け物の残骸が、床という床を埋め尽くし、不気味な黒い影を落とす。
長いこと密閉されていたせいで、腐敗する速度が緩やかになったのか。それとも、最近まで共食いを繰り返していたのか。
時が止まっていたかのように、原形を留めているものが所々に見受けられた。
風を送り込む巨大な装置が入口に設置され、ようやく新鮮な空気が入り込む。と、悪臭が若干薄まった気がする。
「……よし。次、運び出せ」
巨大生物の処理。
滑車の付いた大きな箱に、切り刻んだ死骸をいっぱいに詰め込む。
もう死んでるとはいえ、いい気はしない。
「……先輩、もう無理っす」
悪臭に堪え兼ねた新人達が、弱音を吐きながら次々と脱落。
残ったのは、僕と先輩のみ。
特殊部隊の二人も、一通り内部を見廻った後、さっさと休憩に入ってしまった。
……はぁ、はぁ、はぁ……
もう、五年も経っているのに。
脳内を引っ掻き回され、否応もなくあの時の出来事を蘇らせる。
込み上げてくる、嫌な感情。
……ナツネくんは、ここで……
この巨大生物に……喰われ続けたんだ……
毎日毎日……
食われては再生し、それを休むこと無く、……ずっと、ずっと……
……朽ち果てるまで……
額から流れる汗が、途中涙を含んで顎先へと伝って、落ちる。
あの地獄絵図のような光景は、瞬間記憶能力のある僕にとっては、酷だ。
こうして、何度も何度も……
何度も何度も何度も……ずっと……
僕の記憶の中に擦り込まれたものを、鮮明に映し出してしまうから。
「……伊江」
作業をする先輩が、手を止める。
「辛かったら、お前も休め」
「……」
手を止めて顔を上げれば、先輩と視線がぶつかった。
「………いえ。大丈夫です」
この仕事を始めた頃は、こんな作業ばっかりだったっていうのに。
どうして先輩が、そんな事を言ったのか……解らなかった。
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