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第15話(10/23修正)
「ン…………はぁ……」
唇を離すと、相手は熱く湿りを帯びた息を吐いた。
薄い唇は赤みを増し、唾液で濡れて艶めいていた。
背にしがみつくように回っていた彼の手が、そっと俺の頬を包み込んだ。
何かを確かめるようにゆっくりと指で撫ぜていく。
「……どうしよう……夢みたい……」
「それは俺の台詞ですよ……」
夢見心地だというその気持ちごと、そっくりそのままお返ししたい。
俺も彼の真似をして頬に触れてみる。
思っていた以上に柔らかくて滑らかな肌だ。
くすぐったいのか、ふっと微笑んだ相手からふんわりと色香が漂ってきて堪らず双眸を眇めた。
表面上は何とか平静を取り繕っているけど、内心、胸が張り裂けそうなほど昂ぶっていた。
同性相手に上手くできるだろうかという不安と、行為そのものがご無沙汰による緊張、加えて男の醸し出す色気に興奮もしている。
少しでも気を緩めてしまえば、張り詰めたものが弾けてどうにかなってしまいそうだ。
「もっと触ってもいいですか……?」
「……はい……」
そう答えてくれた彼の声には固さが感じられた。
緊張しているのは相手も同じだとわかると、ほんの少し気も和らいだ。
スウェットの裾の中へと手を滑らせる。
素肌を撫でられ、相手はこそばゆいと肩を竦ませた。
「なんだか……せっかく着替えたのに、ものの数分で脱がすっていうのもアレですね」
和ませる意味でもぽろりと本音を零したら、充輝も頬を緩めて相槌を打ってくれた。
互いにシャワーを浴びて、彼にも俺のスウェットを着てもらっていた。
それがつい数分前のことだ。
まだ火照っている肌を辿り、胸元へと行き着くと小さな尖りに指が引っかかった。
「硬くなってますね、ここ」
「そ、いうことは……言わなくて大丈夫です……」
いじらしい主張に思わず口元がだらしなく緩んだ。
親指でぐりぐりと捏ね回していたのを摘まんでみる。
「ア……っ……」
可愛らしく震える声に表情まで崩れていきそうだ。
ピンと立ち上がったその硬さを楽しむように小さな突起を愛撫する。
「どんどん硬くなってく……」
「――……っ」
手の甲で口元を押さえ、充輝がこちらを見つめてくる。
恥ずかしさもあってか大きな瞳は潤んでいて、彼には大変申し訳ないが意地悪をしたくて我慢ならない。
「胸、気持ちいいですか?」
「……あ、あんまり……触らないで下さい……」
「じゃぁ、舐めてもいい?」
「え、…………」
訊いておきながら返事を聞く気はなく、裾をたくし上げて胸元を露わにした。
愛らしく尖った乳首はとても美味しそうに見えて、平らな胸に酷く興奮する。
舌でねっとりと舐めると、頭上から息を呑むような声音が聞こえてきた。
唇で軽く食みながら、舌先で愛撫する。
もう一方は指で弄りながら、唾液でたっぷりと濡らしていく。
「……はぁ…………んん……っ……」
ちゃんと感じてくれているようで、充輝は気持ち良さそうに声を震わせる。
嬉しくなって執拗に吸い付いていたら、乳首は赤くぷっくりと腫れてしまった。
これがまたいやらしさも増して美味しそうに映るものだから、自制心を繋ぎ止めるのにも必死になってしまう。
ただ、彼の方はもういっぱいいっぱいのようで、胸を大きく上下させている。
「可愛い……」
啄むような軽い口付けを落とせば、充輝も気恥ずかしそうに唇を薄く開いて応えてくれる。
彼の仕草や表情の一つひとつに煽られるまま、己の手は止まることなく下肢へと伸びていった。
身体のラインをなぞるように腰から下腹部へと向かうと、動きに合わせて相手が腰を引こうとする。
「まっ……ッ、…………」
「キツそうですね……」
布越しでもわかるほどにそこは明らかに形を変えていた。
男の身体はこういう時、とてもわかりやすく反応を示す。
おまけに同じ男だからこそ、相手がどれだけ気持ち良く感じているのかもよくわかる。
男の興奮がそのままこちらに伝わってくるようで、己の下半身にもじんわりと熱が集まっていく。
頬を染め、恥ずかしさに身悶える姿は女性相手でもあまり見られないくらい初心だった。
案の定、服を脱がせてもいいかと尋ねてみれば、見ていられないほど身を強張らせてしまう。
それでも彼もまた俺の服を脱がしたいと言ってくれた。
いそいそと起き上がり、二人して逸る気持ちを抑えながら互いに服を脱がせ合った。
細身ながら程よく筋肉質でバランスも良い。
普段から気に掛けていないと作れない体だ。
艶のある綺麗な肌をしていて、思わず舐めるように見つめていたら、充輝がそっと口を開いた。
「……良かった…………」
「ん? どうしました?」
「……男の身体でも、久保さん、大丈夫そうだから…………」
張っていた気を緩めるような姿に、胸を鷲掴みされた。
恥ずかしくて緊張しているのだとばかり思っていたけど、そんな単純なものではなかったのか。
昂ぶった感情をぶつけるように抱きつき、ベッドへと横たわる。
首元に顔を埋めて、ぴったりとあわさるように肌を密着させた。
腰を引き寄せ、頭を擡げたモノも押し付ける。
「大丈夫どころか、大変なくらいですよ……優しくしたくて、必死です……」
「ふふっ。久保さんのそういうところが好きです、俺」
「…………充輝さん……わざと煽ってますか……?」
無邪気にそう言ってのける彼が確信犯のようにも思えて、弧を描く唇へ咎めるようにキスをした。
唇を触れ合わせるだけでは物足りなくて舌を絡ませようとすると、彼もこちらの動きを察して応えてくれる。
「……ん、ぅ…………」
深くなっていく口付けの合間に、そっと彼の中心部に触れてみる。
「ンっ…………」
ぴくりと充輝は身を震わせた。
嫌がるような素振りもないので、そのまま熱を孕んだモノを掌で包み込んだ。
先から根元へと優しく扱いてみると、先走りが溢れてくる。
「……はぁ……っ、んぅ…………」
熱っぽい吐息が耳を擽る。
敏感な先端の窪みを親指で押し撫でれば、嬌声は淫らに艶めいた。
滴る体液を塗りつけるように動かし、手の滑りも良くなっていく。
自分でする時と同じような慰め方でも、手の中の彼自身はどんどん硬さを増していった。
ところが突然、相手の手が阻むように俺の手に重なった。
「ん? 気持ち良くないですか……?」
その問い掛けに、とろけた眼差しがこちらを見つめてくる。
「ぁっ、……はぁ…………ダメです……出そう……」
眉を寄せ、快楽の波を凌ごうとする表情がまた色っぽい。
頰も耳朶も赤く染まり、漂う色香に頭の芯から溶かされてしまいそうだ。
「いいですよ……このまま俺の手に出して下さい……」
二人しかいないのに、内緒話をするみたいに声を顰めた。
手の動きを早めて、彼の達する瞬間の表情を逃すまいと無心で手淫に耽った。
「あ……あっ……久保さん……ダメ……イク…………っ」
切れ切れに喘ぎながら、充輝は白濁した熱いものを吐き出した。
断続的に放たれるそれを残さず搾り取るように指に力を込める。
「……はぁ…………ぁ…………」
倦怠感からベッドへと沈んでいく身体は淫靡な色気を放っていた。
誘われるようにして彼に覆い被さる。
「充輝さん……もっと、触っていいですか……?」
脚の間に入り込み、太股を撫でた。
相手の意識がこちらへと戻ってきて、促されるまま、尻を持ち上げる。
ベッドの傍らに用意していたローションを手の平へと垂らし、人肌で温める。
できるだけ優しく、やんわりと窄まりを撫でた。
「………………っ」
けれどやっぱり気休めにはならなくて、充輝は身を固くする。
綺麗な色をしたそこは思っていたよりもずっと柔らかくて、指先をたやすく呑み込んでしまいそうだった。
驚きと興奮で余裕を失しつつ、慎重に指を中へと入れてみる。
「ぁ……あ…………っ」
「大丈夫ですか? 痛い?」
「大丈夫、です……」
「痛かったりしたら、ちゃんと言って下さいね」
彼にもちゃんと気持ち良くなってもらわなければ意味がない。
そもそも入れるような場所ですらないのだ。
手探りの状態ながら、注意を払いつつ解すことに専念する。
指一本であればすんなりと入ったものの、それ以上増やすにはやっぱり狭過ぎた。
自分のそそり立つモノを見遣る。
指とは到底比べものにならず、念入りに解さなければ間違いなく傷付けてしまう。
それだけは何としてでも避けなければ。
ゆるゆると中を掻き回すように拡げながら、指の数を増やし、少しずつ呑み込ませていく。
すると指先が何かしこりのようなものに触れた。
「アッ……!」
息を呑むような甲高い嬌声が零れた。
突然のことに驚いて動きを止めた指を、内壁がきつく締め付けてくる。
「ダメっ……です…………そこは……っ……」
充輝が俺の動きを止めようと両の手を伸ばしてくる。
強い快感に襲われていることは明白で、俺は少ない知識の中から思い出す。
そう言えば、男でも強く感じる場所があるとどこかで見た。
彼を気持ち良くさせたい一心で、掠めた場所をもう一度探し当てようとする。
「はぁっ……久保、さん…………やだ……」
身を捩って訴える彼を眺めながら、ふと思い至って尋ねてみる。
「俺のこと、名前で呼んでもらえませんか……?」
「名前…………?」
抱き合う相手に名字で呼ばれるというのはよそよそしいと今になって思い至った。
だからと言ってこんな時にそれを指摘してくるのかと、充輝の目が問うように俺を映す。
その間も指の動きを止めないでいると、ようやく彼のいい所を見つけ出した。
指の腹でそこを優しく撫でれば、身体はしなやかに跳ねた。
「あぁっ…………そ、こ……っ」
「義彦って、呼んで下さい……」
「アッ……よ、し彦……さん……はぁ、っ…………おね、がい……」
ぐっと己の下腹部に熱が集まるのを感じた。
こんな時でもちゃんと「さん」を付けて呼んでくるところも、律儀で可愛らしい。
潤んだ瞳からは今にも涙が雫となって零れ落ちてしまいそうだ。
酸素を求めて開いた唇の間から赤く濡れた舌が覗く。
「充輝さん……すごく、色っぽい…………」
呟く声色は熱と情欲をはっきりと孕んでいた。
感じるところを愛撫しながら丹念に事を進めたおかげで、ようやく指を三本銜えることができるようになった。
抜き差しもスムーズにでき、随分と柔らかくなったようにも思える。
指に纏わり付くみたいに蠢くこの中へ、自身を呑み込ませたらどれだけ気持ちいいだろう。
収縮するそこを欲情しきった目で見つめながら、指を引き抜いた。
「……あっ…………んぅ……」
物足りなさそうな色めいた声が零れた。
その身体はくったりと力も抜けてしまっていて、浅い呼吸を何度も繰り返す。
下腹部では彼自身が再び緩く熱を持ち始めていた。
「充輝さん……挿てもいいですか……?」
これ以上はもう我慢できそうになかった。
己の猛ったものを蕾へと宛てがう。
押し入ろうとする質量に相手は一瞬驚いたようだけど、直ぐにシーツを握り締めて受け入れようと意識的に力を抜いてくれる。
「はい……」
あまりの健気さに胸を強く締め付けられた。
尚更優しくしたいと思いながら、縁をめいいっぱい拡げながら腰を押し進める。
少しでも苦しそうだったり、痛みを感じたようであれば直ぐに動きを止めた。
じれったいほどの時間をかけ、もはや生殺しの状態に近かった。
気が遠くなりそうで、全てを収めきった時は大袈裟だけれど感無量だった。
「……はぁ……。……大丈夫ですか……?」
少しばかり息を切らしながら、相手の顔を覗き込んだ。
充輝もまたぼんやりとした眼差しで俺の姿を捉える。
「……ちょっと、息苦しいけど……大丈夫です…………」
窮屈ながらも中は熱く柔らかい。
想像していたよりももっとずっと気持ち良くて、「動いていいですか」と尋ねる声色が甘く掠れてしまった。
こくりと頷いてくれた相手に笑みを返して、ゆっくりと腰を引く。
締め付けてくる後孔を押し開くように打ちつければ、堪らない快感が身体を駆け抜けた。
絡みつく肉壁を擦りながら何度も突き入れる。
単調な動きを繰り返していると、徐々にではあるけど、奥へ奥へと誘うような素振りで中が淫らに蠢く。
「充輝、さん…………」
「はぁっ……、あっ、ア……、ん……んん…………」
時折、いい所にも触れているようで、彼は身を強張らせて悦がった。
感じている姿はしなやかで、同じ男なのにとても悩ましい。
されるがままに揺す振られている細い身体を眺めていたら、充輝の手が未だシーツを握り締めているのに気が付いた。
その片手を掴み取り、自分の首へと腕を回すように促した。
間近で見つめ合うと、充輝がそっと囁く。
「……義彦さん……、気持ちいい、ですか……?」
「どうにかなりそうなくらい……気持ちいいです……」
破顔した俺に、相手は満ち足りた笑顔で応えてくれた。
今まで見てきたどんな笑顔よりも輝かしい。
無性に愛おしくなって彼を強く抱き締めた。
熱を持った互いの肌は吸い付くようにぴったりと合わさる。
己の欲を懸命に受け止めてくれる彼と、このまま快楽に溺れたい。
全てをどろどろに溶かして一つになってしまいたい。
熱に浮かされた頭はだんだん働かなくなっていく。
「充輝さん……はぁっ、…………。くそっ…………」
「ぅんっ……あ、あっ、あぁ……激し……アアっ…………」
行為に没頭していく中で、喘ぐ彼の手が頭を擡げた自身を握り込んだのが見えた。
条件反射的に自分もその手ごと握る。
「ここも、一緒にしたら……気持ちいいですか……?」
「アァ、あ……んっ、んぅ……気持ち、いい……」
「……すみません……っ、……も、イキそ…………」
「はぁっ、あっ、あ、あ……アァ――……」
本能が赴くままに、貪欲に後孔を穿った。
乱暴に揺さ振る俺に、充輝も懸命にしがみつく。
一際強く腰を打ち付けて彼の中へと欲望を放つと、充輝からも熱いものが迸った。
後孔が苦しいくらいに締め付けてくる。
強い快感で頭の中が真っ白になり、低く呻きながら身体もそのまま動かせなくなってしまった。
意識が戻ってくると、痺れるような気持ち良さの余韻を味わうようにゆるゆると腰を前後させた。
そうして充輝の顔を覗き込んだ時だ。
恍惚とした表情を浮かべながら、丸い目から上気した頬を辿って涙が零れ落ちた。
「充輝さん……?」
マズい。
強引、だっただろうか。
彼を傷つけることだけはするまいと心に誓ったのに、どうしよう。
繋がったままだというのに焦る俺に充輝は首を振った。
何でもないからと涙を拭うものの、どんどん溢れてきて、そんな自分に戸惑うように笑う。
「違うんです。嬉しくて……嬉しいのに、どうしちゃったんだろ……」
ふんわりと笑みを浮かべたその表情に魅せられる。
彼の心はどこまでも澄んでいた。
この笑顔を大切にしたい。
そんな気持ちを込めて、泣き笑う彼にキスをした。
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