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プロローグ

コツ…コツ…コツ… 足音が近づいてくる。 思えば、その日は朝から具合が悪かった。 『ふぁっ、やっ、ぁっ!!……っやめっ、やめっろ!くそっ!』 『あぁ?教えたのとちげーなっ!』 『…っつ!!やめっ、くっんんっ、きっ、きもち、っ好き、す、きっだからっっ!!』 『…ふっ』 今朝の悪夢を思わず思い出してしまう。最近よくみる、惨めに泣いている自分。 あれから1年経つんだ。大丈夫だ。自分に何度もそう言い聞かせてきた。アイツらがまさかここまで来るはずない。来れるはずない。 そう思っていた。 でも現れた。最初は見間違いだと思った。しかし、それはやはりアイツらだった。 俺は今日も校庭の隅で、草木の世話をしていた。すると側の渡り廊下にアイツらがいた。俺は咄嗟に被っていた帽子を更に深々と被り、屈んで隠れた。手が震えて、心音が激しくなる。呼吸を乱さぬよう、風景に溶け込むよう努める。こいつらが現れてから、毎回そうやって何とかまだ見つかる事を免れていた。 「柊、本当にここで合ってる?」 冬夜の声。 「…多分。こっち来てから鼻がおかしい。」 柊の声。そして 「んな「ちっ。クロの奴…。絶対捕まえてやる。捕まえて、繋いで、躾し直しだ。這いつくばらせて許しを乞わせてやる。」 煌の声。 俺は青ざめる。 「あーあ、王様も相当お怒りだね〜。まぁ、お仕置きは必須だよね。ははっ、俺はなにさせよう。んー、素直になって謝って欲しいし、ここはしっかり拘束して素直になるまで玩具突っ込んで放置コースだな。クロはそうでもしないと素直にならないからなぁ。」 コンコンっと、手すりを指先で弾きながら冬夜がふふっと軽く笑う。 「えー、俺は沢山、クロがぐちゃぐちゃに泣いちゃう位気持ちよくしてあげよ〜。こんなの間違いだって気づいてもらわないと。はぁ、早く会いたい。」 柊がうっとりと呟く。 「……兎に角さっさと捕まえるぞ。くそが…1年間も逃げ回りやがって…。そのツケは払わせてやる。」 煌が苛立ちを隠さず言い放った。 コイツら狂ってる。ここまで来るなんておかしい。また逃げなければ。 こうしてまた、やりたくもない鬼ごっこが始まる。

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