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第1話
ジャリ、ジャリ、ジャリ…
今日も今日とて、校庭で草むしり。これが終わったら、草木に水をやって、剪定して…。ひと昔に比べたら天国みたいな生活だ。俺は高校で、用務員として働いている。
「…」
視線を感じふと手を止めた。見れば、遠くから猫がこちらをみていた。黒猫だった。思わず、一年前の自分を思い出す。額に嫌な汗が浮かぶ。じっとりとした、嫌な汗だ。
突拍子もないが、俺はこの世界の生き物じゃない。文明はこの世界とほぼ変わらないが、獣が人の姿をしている世界で生きていた。そこには獣耳に尻尾がついている生き物がいて、王様は獅子。獅子には誰も逆らわない。世界を仕切っている以上に、カリスマや有無を言わせない強さがあった。
そんな世界で俺は黒猫。縁起が良くないと、無意味に迫害されたりもした。しかし父親と2人で、そこそこ幸せに生きていた。それが、あのクソ獅子との出会いでガラガラと音を立てて崩れた。
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「…お前、この屋敷で働いているのか?」
「?……あ、」
声をかけられて振り向くと、そこには大柄な男がいた。この屋敷の主人の一人息子。獅道 煌。獅子にしては珍しい黒髪で、それは産まれながらの強さの印。実際こいつはなんでもできる。俺と同じ学校に通っていて、よくこの男が人に囲まれているのをみた。体格はがっしりと身長も高い。顔だって、アーモンド型の目と高い鼻、冷たさもあるが作り物の様に整っている。随分と色々と持っているやつだ。
その男がこちらに声をかけ、ゆったりと近づいてくる。
「あー、そうです。庭師手伝い、やらせてもらってます、宮猫です。」
俺に話しかけるとは、何だろう?
俺は親父がこの獅道の知り合いだとかで、そのつてでこの屋敷で親父と働きながら学校に通っていた。
だからぶっきらぼうに答えながらも、一応雇い主側の獅道にぺこりとお辞儀をする。
「ふーん。」
すると、獅道がニヤリと笑った。
なんだ?
「お前、黒猫?」
「だったらなんだよ。黒豹にでも見えるか。」
そうかそうか。分かったぞ。コイツも他と一緒。黒猫の俺は何処でも煙たがられる。本当は親父の為にも大人しくすべきなんだろうが、思わず睨み返した。
「はははっ、べつに変な含みなく聞いてんだよ。下の名前はなんだ?」
「……黒斗」
それから、なし崩しに俺はこの男と友達になった。あの頃は煌と仲が良くて、騙されていたのかもしれないが兎に角そう思っていた。なんせ黒猫の俺にとったら、煌ははじめての友達だった。
その後煌の友達の狼の柊と蛇の冬夜とも仲良くなって、結構楽しかった。
その関係が変わったのはあの日だ。
「はー、楽しみ!柊と冬夜早く来ねーかな〜。」
俺はソワソワと窓側で外を見ていた。今日は俺の誕生日で、3人がお祝いをしてくれるらしい。
「……」
俺のハイテンションを他所に、煌は腕を組み、眉間にシワを作って無言でこちらをじっと見てくる。何を考え込んでいるんだ。
「煌?どうしたんだ?」
俺の誕生日に不機嫌はやめて欲しい。煌は良くも悪くも周りの空気を変える力がある。煌が不機嫌になると周囲の空気も悪くなる。
「……」
なんも言わないのかよ。
煌は何も言わずに、いつもの如くゆったりと近寄ってくる。気のせいかもしれないが、瞳に迷いがある気がした。いつも俺様で、自信に溢れたコイツにしては珍しい。
「?ちょっと?」
そのまま煌は俺の目の前で立ち止まった。手を少し動かすだけで触れそうな距離だ。毎度の事だが、距離が近い…。コイツらはスキンシップ過多な上、距離が近い…。俺は他の動物に友達が居ないからよく分からない。こいつらはこれが普通の距離とか言うけど、正直慣れない。
「え、ちょっ、…ぁだっ!」
煌はやけに真面目な雰囲気で俺を見下ろし、顔を近づけてくる。俺は煌の気迫に押されてよろけ、直ぐ後ろの壁に頭をぶつけた。
「クロ、お前、俺の雌になれ。」
「……何言ってんだお前。」
え、頭大丈夫かな、この人。お互い雄だろがよ。
「お前が俺だけを選びたいというならば…他は近づけないようにしてやっていい。」
「いや、全然意味わからん。」
急すぎて意図が読めん。相変わらずの上から感だけしか伝わってこない。
「なんの話だよ。お前らが俺にプレゼントをくれるとか言うから来たんだぞ。俺は全員から貰うぞ!」
きっと煌が言う他ってのは、柊と冬夜だろう。そして俺の家は結構貧しい。由緒正しい金持ちのコイツらだから、どいつのプレゼントも豪華そう。欲しい。換金してもいいし。あと、まぁ…友達から貰うってのが俺には凄く嬉しい。それは初めての事だ。
「……クロ…お前本当にアホだな。」
しかし煌は俺の言葉が気に入らないのか、眉間にシワを寄せた。俺をアホと言うが、お前もそればっかで語彙がないぞ。と心の中で反論する。
「お前が意味わからん。頭大丈夫か………んぐ!?」
今度は急にキスをされた。
「はっ!なんだお前!頭大丈夫か?!いや、本当、さわんな。」
日頃からコイツらはスキンシップ過多だし、変な冗談も言われてからかわれた。しかし幾らなんでもこれはやり過ぎだ。俺は軽く嫌悪感を込めて煌を睨んだ。煌はそれに不機嫌そうに眉間にシワを作った。
「クロ、」
ガチャッ
「クローー!!」
「わっ!」
また煌が俺の名前を呼んでいたが、それは柊と冬夜の登場でかき消された。柊は扉を開けるなり、俺に飛びついてくる。本当に、犬というやつは…あ、違った、コイツは狼だ。態度は、ほぼただの大型犬だけど。狼の柊は、色素の薄い肌に銀色の短髪、ぽやんともとろんとも形容できる様な柔らかい目と雰囲気をしている。しかし身長は煌同様に高く、体もがっしりとしている。立派に男らしい美丈夫でも、性格はただの大型犬だ。大きな体に俺は急に包まれ、わしゃわしゃと身体中を触れる。力で敵わないから、毎回されるがままでスルーだ。
「おまたせ〜。遅れたわ。王様怒ってない〜?」
柊の後ろには、冬夜もいた。煌と柊は美丈夫という雰囲気だが、冬夜はどちらかというと優男という雰囲気だ。顔の作りは中性的で、男にしては少し長い髪を結んでいる。身長も、煌と柊よりは少し低い。掴み所のない奴で、何処となく艶っぽく浮世離れした雰囲気がある。
「おせーよ。」
王様ていうのは、煌のこと。まぁ、実際それで正解な呼び名だが、冬夜はよく茶化して煌の事をそう呼ぶ。
「お前ら、いいところにきた。煌がおかしい。」
「…おかしい?」
俺はズルズルと抱きついた柊をそのままに、冬夜の方へ近づく。すると俺の話を聞いた冬夜は、ニコニコと俺の顔を覗きこんできた。
「……煌、ズルしてないよね?」
「馬鹿か。そんな事より冬夜、鍵。」
「はいはい。」
しかし俺の言葉は無視され、冬夜は煌の言葉に従い部屋の鍵を閉めた。なぜ施錠する?
「え、なんっ?!!わっっ!ちょとっ!柊!!」
何故と煌に質問する暇も与えられず、突然俺は柊に担がれた。
「クロ、大丈夫。大丈夫だよ。」
「いや、大丈夫って…。おろせよ。」
なんなんだよ。大丈夫かどうかは俺が決めるものだろ?そのまま俺が下されたのは、ベッド?だった。
(あれ?いつの間に…)
いつもこの部屋にベッドとかあったか?だだっ広い部屋だからちゃんとみてなかった…。
「?……っ!!」
柊は俺をベッドに下ろした後、俺の両手を万歳の姿勢で抑えてくる。
キョロキョロとしていた俺がギクリとしたのは、俺を抑える柊と目が合ったからだった。柊はいつもの柔らかい雰囲気は何処へやら、その目はギラつき、俺と目が合うと舌舐めずりをする。それはいつもの柊と全くの別人だった。
本物の狼だ。食われるっ…。
理屈を抜きに、本能が警鐘を鳴らす。
ギシッ
「あ、やっ、ちょっ!!」
柊から目が離せなくなっていると、いつの間にか煌が足元にいた。そのままするりとベルトを抜かれ、ズボンを脱がせにかかってくる。
「え、なに?」
「…」
「…」
俺の戸惑いに、煌も柊もなにも答えない。
「クロ〜、これから、いい事しようね。」
すると、脇にいた冬夜がそう言って微笑み、俺の服の下に手を入れてきた。低体温の冬夜の手にビクつくと、煌がまた荒くキスをしてくる。この辺りから流石の俺でも身の危険を感じ始めた。
「え、なに…やだ、やめろ…やめろっ!!」
煌の手が下着にかかる。冬夜の手は胸の辺りまで這い上がってくる。バタバタと暴れるが、柊に抑えられた腕はびくととしない。
「やだやだ、やだって!」
自由な足だけで目一杯に暴れた。
「ちっ、暴れんな。」
「ははっ、てか、本当のレイプみたいだ。結構興奮するな。」
煌が不満気に舌打ちするが、冬夜は楽し気に笑う。俺は冬夜の言葉に疑惑が確信になり、俺は更に暴れた。しかしそんな抵抗も無意味で、無数の手が俺の体を這いずり回る。
その日から俺たちの関係が大きく変わった。
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