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第2話

あの日から、1年以上が経った。 ハァッハァッハァッ 室内で走り回って、こんなに息が上がるなんて可笑しい。そうは思うが、この屋敷は馬鹿でかい。そして俺は、自室から出て、ベランダ伝いに下の階に降り、そこから更に広い庭に飛び出て、屋敷の裏手に回ってまた家の中に入って……と兎に角動き回っているのだ。俺は猫だから身軽な部類だけど流石に疲れる…。 まず、なんで自分の家でこんな事をしているのかって話だ。悲しい事にここは俺の家ではなく、俺の自室というのは実のところ監禁部屋だ。つまり俺は監禁されている。なら何故室内に戻るのか。それはこのくそ鬼ごっこ中だからだ。強制鬼ごっこ。いや、もはやこれは狩りという方が適切だ。 獲物は俺。 鬼は3人。 鬼ごっこ ・この屋敷から逃げ出せたら俺の勝ち。俺ははれて自由の身になれる。 ・俺を最初に捕まえた鬼はその日俺を独占でき、何をしても良い。 「ハァッハァッハァッ……!」 最初は真っ先に外へ向かって走っていた。けれどそれはあっちも読んでいる事だから、成功率が極端に落ちる。逃げ道は外だけでない。俺は室内にある逃げ道をやっと見つけた。悟られないようにしつつも、そこを目指す。 キッチンの窓から屋敷に再度入り、廊下へのドアを開けようとしたところで手が止まる。 「クロ〜」 「!」 冬夜……。俺はスッと息を潜める。全力で走ってきてまだ息は落ち着かないが、出来るだけ音を消し、料理用のヘラをもち冷蔵庫の扉を開ける。 「遊ぶなら俺が良いよ〜。今日は徹夜明けで既に眠いし、久しぶりにまったりと、部屋でイチャつこうよ〜。今日の俺は輪をかけて淡白よ。」 誰が変態の言葉なんて信じるかよ!俺は心の中で冬夜を罵倒する。冬夜は最悪。『何もしないよ。俺は。』綺麗な笑顔を浮かべ、俺にいかがわし玩具をたくさん取り付け、外してと懇願する俺を奴は数時間ニヤニヤと眺めたりする。冬夜はいつも綺麗な笑みを浮かべ、鬼のような事を平然とやってのける。 俺は開けた冷蔵庫に入り、ドアが完全に閉まらないようにヘラを挟み、ドアを手で抑える。 「クロ〜。ク〜ロ〜!この辺に居たと思ったけど、違ったかな〜。あーあ、疲れてるから、癒してもらいたいのに〜。」 冬夜の気配が遠ざかる。 「…寒っ……」 震えながら冷蔵庫から出る。そのまま俺は廊下に出て、奥に進む。 「クロぉ。クロぉー!」 柊だ。俺を呼ぶ声にぐるるるという唸り声が微かに混じっている。また興奮してやがる、クソ馬鹿単純野郎。 「クロぉ、ねっ、いっぱい気持ちよくしてあげる。だから出ておいで。クロぉ。」 コイツは冬夜よりもっと最悪。行為はしつこくて、俺の為とか言ってひたすらにキツイ快感を与えてくる。しかし、俺は行為自体が無理なわけで、とんだ見当違いだ。しかしも、鬼ごっこ中は狼の本能なのか何なのか、柊は酷く興奮している。いつもは見当違いなりに、微妙に優しくこちらを気遣う素振りをみせるが、鬼ごっこで捕まった時は酷く手荒に扱われる。柊は力が強いので、俺はなんの抵抗も出来ず結局ボロボロにされる。 俺はさっと向かいの部屋に入り、窓を開けて、脱いだ自分の上着を窓の前に置く。俺はそのまま、あたりを確認して部屋から出て廊下の物陰に隠れる。 まもなく、瞳孔が開いた目をギラつかせた柊が現れる。いつもののほほんとした奴と余りに乖離の大きい外見に、何回見てもゾッとする。 「はぁ〜、クロの匂いがする。好き……好きぃ…。あぁ、いっぱい、シてあげる。すきぃ…。」 ふんふんと鼻を鳴らしブツブツと恐ろしい事を言いながら、柊は俺がいた部屋に消えた。 俺は廊下にあった服を適当に着て、再び静かに動き出す。目指す場所は、廊下突き当たりの冬夜の部屋。 廊下の突き当たりにたどり着き、後ろの気配を探る。大丈夫、誰もいない。心臓がはちきれそうな位ドキドキする。動き回ったし、何よりこの先の未来を考えて。 「ハァッハァッ、……」 ドアをそろりと開けて、部屋に入る。すると、部屋の隅にある古びた扉が目に入った。 「やっと……」 やっと逃げられる…。 冬夜は賢い。科学の神童。変態じみた玩具や薬を作るが、真面目な研究もしていた。例えばこの扉。その扉は、別の世界に繋がる扉らしい。この扉の事に気づいた俺は、こっそり冬夜に取り入り……自分に好意をもつ変態相手だから取り入るのは大変だった…兎に角、扉のあれこれを聞き出しやっとここまで来た。 俺は扉の取手横のパネルを操作する。すると、カチリと扉から音がする。恐る恐る扉を少し開けて覗くと、真っ暗な闇が見えるだけだった。 …冬夜はこんな風に言ってたっけ?本当に大丈夫かこれ…。 「珍しいところにいるじゃねーか。」 「!?」 本当に入っていいのかあぐねいていると、いつの間にか背後に煌が立っていた。 「煌…!」 「何してんだ。こんな所で。」 不味い…見られた…?いや、そもそも煌はこの扉の事を知っているのか?冬夜は秘密だと笑っていたよな?でも冬夜が信じられる? 俺は後ろ手でそっと扉を閉めた。 「?なんだそれ?扉?」 「……来るなっ!」 瞬きをした一瞬の間に、煌は俺に近寄り俺の腕を掴んでいた。 「もう諦めろ。クロ、今日は俺が遊んでやるよ。」 「……っ!やめろっ!嫌だ!!離せっ!もうっ嫌だっ!!したくないっ!」 「はっ、何がだよ。いつも喜んで鳴いて、結局ドロドロじゃねーか。」 暴れる俺の体を難なく押さえ込み、煌の手がするりと俺の身体を撫でる。 「ふぁ……っ!くそっっ!やめろ馬鹿っ。ふぐっっ!?」 「あ゛ー!!もー、うるせー口だな。」 顎を掴まれ口に手を突っ込まれたかと思うと、舌を手で引っ張られる。 「上の口ぐらいは自由にしてやってたが、こっちもしっかり躾けるか?」 ぐちゃりっ 「っぁっっ!?」 ダラダラと垂れた涎を舐めとり、そのまま俺の口の中に煌の舌が入ってくる。 嫌だっ、嫌だっ!止まれ止まれっ!! 自分の体を必死にコントロールしようとするが、すっかりこいつら仕様の俺の体が勝手に興奮しだす。震えて、段々と上がる身体の感度。俺の変化に目ざとく気づいた煌が、ニヤリと笑うのが目の端に見えた。 (くそっっ!) こんな生活…ここから抜け出せるなら、もう何だっていい! 俺は扉の取ってに手をかけた。 …いや待てよ。逃げてもコイツと一緒じゃ意味がない。何とかして、少しでも距離を取らねば。 「はぁっ!」 やっと口が解放される。 「死ね。煌、お前なんか大嫌いだ。」 「あ゛ぁ?」 煌は拒絶の言葉をぶつけると、いつも分かりやすく怒る。煌を煽るため、いつもは控える言葉をわざとぶつけるが、正直睨まれてぎくりとする。獅子の煌にこんな風に睨まれたら、誰だってそうだ。 しかし俺は自分を奮い立たせ、煌が不機嫌に俺から少し体を離した隙をついて、煌の体を思いっきり蹴った。 「はっ、本当、今日のお前何なんだ。」 大して効いてないが、まぁいい。少し煌との間に距離ができた。その一瞬を狙い、俺は扉の隙間にするりと滑り込んだ。 (やっ) ガクンッ 「!!」 やったー!と思った瞬間、体が動かない。後方に引っ張られる。煌だ。煌の手が俺の襟首を掴んでいた。 「おいっ!何だこの扉?ちょっ、クロ!戻れっ!!」 珍しく煌の声が焦っている気がする。となると、これ結構いけるのでは?俺はその希望にすがり、何とか扉を閉めようと無我夢中で暴れた。 「煌!!扉が閉まりかけてる、1度手を離せ!」 「あ?」 冬夜の声がして、後ろでバタバタと揉める音がする。 「……っ!」 俺は渾身の力で扉を閉め、閉じた扉からカチリと締まる音がすると同時に、握っていたドアのぶを扉から引き剥がし壊した。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……やった!」

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