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第3話

「ひなた。」 「!!うわぁっっっ!……っ、あぁ、玲次か…。」 ぼんやりと校庭で昔のことを考えていたところ、名前を呼ばれてハッとして顔を上げる。ちなみに『日向』というのが、ここでの俺の名前。そして、校庭と道路の間にあるフェンス越しに声をかけてきたのは玲次だった。玲次は医者をしていて、俺がこっちの世界に来たばっかりで行き倒れ状態だったのを助けてくれた。その後も色々とお世話になり、結局今では玲次のマンションにまで住まわせてもらっている。今の職場を斡旋してくれたのも玲次だ。 玲次は、俺の大きな反応に少しびっくりした顔をしていた。そりゃそうだ。確かに俺はいつもよりかなり大きな反応をしてしまった。だって、あいつ、煌を見た後だったから…。 「ははっ、どうした?そんなにびっくりさせたか?仕事帰りに、圭人の監視がてら寄っただけなんだけど。一緒に帰るか?」 「……あ、いや、こっちこそごめん。うん。着替えてくる。」 玲次の誘いにぼんやりと頷く。何となく、今は玲次の顔を見るのが怖い。 「?帽子かぶるのか?」 「……日差しが強いから。」 作業着から私服に着替え校門を出てきた俺を見て、玲次は首を傾げた。本当はアイツらが近くにいたらと思うと気が気じゃなくて、少しでも顔を隠したかった。 「もう夕方だろ。」 「……」 確かに…。良い言い訳も思い浮かばず、俺は黙り込んだ。 「………?」 「…っ!!」 玲次に顔を覗き込まれてビクついてしまう。だって……煌と玲次の顔は瓜二つなんだ。最初に玲次の顔を見た時はかなり取り乱し迷惑をかけた。よく見たら玲次の方が大人びて、微妙に違うんだが、きっと煌が大きくなったら玲次みたいになるんだろう。実際年齢も、玲次が30歳で、俺たちが23歳だ。兎に角、最初は慣れなくて暫く挙動不審だったが、一緒に過ごして分かった。玲次と煌は中身がかなり違う。玲次は優しい。玲次は酷い事や俺が嫌がる事はしない。玲次はまとも。最近やっと慣れてきたのに…。 「……何かあったか?また職場で何か「違う!」 「…そうか。」 「あ、ごめん。」 「いや、いい。」 職場で…。俺は実はまだこの学校の職場に馴染めていない。それは俺がここで働き初めて暫くして起こった事件のせいだ。ここで働き始めて少しした頃、この高校の農業科で世話をしていた動物が殺された。結構酷い殺され方だった。そして、その日着ていた俺の作業着には血が着いていた。俺はそれに気づかず作業着を着ていたので、指摘されて初めて気づいたし、勿論俺はそんな事をしていない。しかし、まだ職場に馴染んでいない、身元も不詳な俺がそんな事件があった日に血が付いた服を着ていだものだから、疑惑の目は自然と俺に向いた。それから俺には誰も近づかない。元々の人見知りに拍車かかり、俺はここでかなり浮いた存在となってしまった。 折角黒猫縛りからも解放されて、友達もちゃんと作れると思っていたのに…。 「本当に、何もないから。」 「…ふーん。」 「…」 「…」 玲次はまだ納得していなさそうだった。でも玲次にこれ以上迷惑かけたくない。 「………クロ」 「玲次っ!その名前で絶対俺を呼ぶな!!」 ボソリと玲次が呟いた名前に、俺は大袈裟に反応してしまった。 「ふーん。過剰に反応するな。」 「なに。別に…。いつでもその名前で呼ばれるのは嫌だし。」 玲次は片眉を上げ、疑い深げに俺を見る。玲次の目はいつもこちらの全てを見透かすようで、こちらは毎回ドキマギしてしまう。 「…あっちの奴らがきたとか?」 「…」 そして最後はなんでもバレてしまう。 「…あいつら、頭おかしい…。」 「はぁー…。来たのか。俺にそっくりとかいう奴も?皆?何処にいる?確かにそいつらだったか?間違いじゃない?まだ何もされてない?バレてない?」 「う、うん。皆。バレてない。学校の生徒になってた。顔もみたし声も聞いたし、絶対あいつらだ。つか、あいつら歳的に高校生って…無理だろって感じだよな。もう20才超えのおっさんが。ははっ。」 矢継ぎ早に質問され、少しびっくりした。しかしあまり変に心配させたくなくて軽く笑う。しかし玲次は相変わらずの渋い顔だった。 「声を聞いたって?」 「……隠れて聞いた。あっちは気付いてないと思う。」 「そうか。」 玲次は苦々しげな顔だ。心配してくれているのかな。そう思うと、昔独りだった時よりも心が安定してくる。同時にやはり申し訳なさも大きい。あいつらが何をしてくるか、俺にも分からない。 「日向、職場を変えたが良くないか?職場にそんな奴らがいるなんて危ないだろ。」 「…うん。でも、直ぐに辞められるのかな…。」 玲次が心配そうに俺に提案してくれる。本当に優しいな。確かに、今の仕事は気に入っていたが、今となってはあの学校から離れたい。ただまだ職について日も浅い。直ぐに辞めたら、この仕事を紹介してくれた玲次にも迷惑がかかりそうで心配だ。 「そうだな。確認しておく。こちらのつてで、なるべく直ぐに辞めるように相談してみる。」 「……玲次。ありがとう。ごめん。こんな変な事に巻き込んで。」 「気にするなよ。日向、大丈夫だからな。今の日向には、俺がいるし。な?」 玲次は優しく笑って、子供にするみたいに俺の頭を撫でてくれる。玲次は本当にいい奴だ。不安になると励ましてくれるし、困っていると助けてくれる。 「玲次、いつもありがとう…。」 玲次は優しく微笑んでくれた。 「あー、折角、寮管理の先生に相談して、教師用の棟に空きがあるみたいって、最終確認してもらっていたのにな。」 流石にいつまでも玲次の家に居られない。俺は新しい家探しも進めていた。 「……まだうちにいていいんだぞ。」 「うん。ありがとう。でも、これ以上、玲次に迷惑かけたくないからな。俺ももっと自立したいし。」 玲次の家は広いけど、流石にいつまでもは居られない。もっと自立したいんだよな…。しかし、もし今の仕事を辞めれたらとなると、寮にも居られないしな…。困ったな…。

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