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第4話 ※玲次視点

理想は、俺が居なければ相手が生きられないって状態。 「夜分遅くに申し訳ありません。日向さんの件で……。はい。そうです。寮の空きがあるとかで。はい。ただ日向さんの記憶障害は経過観察の結果が芳しくなくて、…はい。だからまだ寮への入寮はまだ早いかと。はい。あと、ストレスを与える恐れがあるので、私からの電話があった事は伏せて、何か理由を付けて穏便に断って頂くようお願いします。あんな事件もあったので……。はい。…はい。よろしくお願い致します。それでは、失礼します。」 ピッ 「必死な兄さんっておもしろ。」 話終え、自分の部屋のベランダでスマホを切ったところで、後ろから声がした。振り返ると、ワイン片手にニヤニヤと嫌な笑顔を浮かべた弟がいた。 「…圭人。お前、いつの間に…。どっから上がり込んだ。」 「普通に玄関からだし。日向にあげてもらった〜。」 圭人。代々αのうちの家系に生まれた問題児のβ。遊び回って問題ばかり起こす。今は日向のいる学校で保健医として働いている。 「ね〜、あんな言い方したら、あの、高校で動物がいっぱい死んじゃった事件、本当に日向がやったみたいに聞こえるよ?」 圭人がわざとらしいく「あ、そうか」と一人呟いた。 「兄さんは、皆にそう思わせてんだもんな。」 「……」 「ははっ、あの時の動物、真正面から綺麗に首が斬られてたよ?可愛い動物が怯えるのを真正面から見たら、普通の人は怯むんだよ。てか普通、哺乳類は哺乳類を殺せないんだよ。兄さんみたいな、普通じゃない人間には分からないかも知れないけど。」 出来損ないでも、血を分けた弟だ。別に、最初からこいつにバレるのは想定内だ。 「だからなんだ。」 「だから〜、日向を孤立させるのに成功出来て良かったねって、話。可哀想に、皆ビビって、日向は今もぼっちだよ〜。」 「……なら良かった。お前、余計な事は言わない、やらない、という約束は覚えているよな。」 当然、こいつのコントロールもしている。問題ない。 「分かってるって〜。そもそも、俺、日向と兄さん見てるの好きだし。兄さんが別人みたいに、裏であれやこれや頑張っちゃってて、見てて面白いよ?今のも。何?日向が遂にこの家出ようとしたの?それ面白いなぁ。」 圭人はニヤニヤとしながら、更に質問を投げてくる。日向が来てから、こいつもよく喋るようになったな。 「圭人、お前の高校に転校生はきたか?」 「はぁ?話とぶねぇ。んー、この時期は親の転勤でとかで、結構パラパラいるけど?」 「…そうか。」 「玲次、圭人ー!まだご飯食べねーの?冷えるよー。」 そうこうしていると、部屋の向こうから、ひなたが呼ぶ声がする。 「あら、玲次の大好きな日向が呼んでる。早く行ってあげないと。」 それを聞いて、圭人がまたニヤニヤと笑う。 「圭人、今日は日向に酒を飲ませるな。」 「…ははっ、また日向に薬もったの?本当に……うけるな。」 ----- トンっ、トンっ、 「日向、日向、大丈夫か?」 食後、圭人を帰し、玄関からリビングへ戻ると、既に日向がソファで寝ていた。一応確認するが、薬が効いてぐっすりと寝ているようだ。 起きない事を確認したので、俺は日向を抱え、日向の部屋のベッドへ連れて行く。ベッドへ寝せて、日向の頬を撫でる。猫っ毛の黒髪がさらさらと手に当たった。 「んっ」 そのまま耳を触ると、びくりっと反応して体を竦める。その反応に口角が上がる。 「ひなた…ひなた……。」 首筋に顔を埋める。すると日向の甘い匂いがする。俺のΩ。 グラスからこぼれ落ちそうで落ちない水 倒れそうで倒れないトランプタワー 端から落ちそうで落ちないボール 日向はそんな感じだった。 俺は昔から感情が酷く希薄だった。悲しい、嬉しい、何かが死んで泣いたり、人と喜びを分かち合ったり、そう言うものがあまりない。でも日向には何か、自分の中で動くものを感じた。 ちょっと押せば壊れそう。だけどギリギリの所で均衡を保っている。ゾッとするようなゾクゾクするような、不思議な日向。その姿に目が離せなくなった。そしていつの間にか日向の事ばかり考えるようになって、これが好意だと後になって気づいた。 「日向、好き。…好き、ひなた。」 唇を軽く舐め、首筋に口付けると、日向から「ふっ」と鼻から抜けるような音がする。誰がそうしたか想像すると微かな怒りが湧くが、日向はきっと何処も感度が高いんだろう。 「早く、起きている時にキスしたいよな?」 堪えきれず、ギュッと覆いかぶさり、髪をさらりと撫でる。全然違う世界からわざわざ俺に会いに来たんだ。 「日向には、自立なんて必要ないからな?しっかり、俺のところに堕としてやるから…。な?日向。」 そして、全部俺のものにしたい。全部、日向から俺に差し出す様にしたい。それにはまだ程遠い。まだ日向の中で俺は良い人程度なんだろう。 「日向、好き。愛してる。ひなた。…ひなた。」 だから今はまだ、このままで可愛がってやろうな。日向。

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