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第24話
「えー、俺が力仕事が向かないの知ってるでしょー。」
「たく。」
「冬夜のアホ。」
煌、柊、冬夜。3人が言い合う。
「ははっ、しかし、クロ、また鬼ごっこっか?懲りねーなぁ。」
後ろから煌が笑う声が聞こえた。俺は兎に角、夢中で走る。
出来たら校門から外に出たいが、あいつらがいる。とりあえず、校舎内に身を隠すしかない。
走りながらポケットを漁ると、丁度、外の渡り廊下から校舎に入れるドアの鍵が手にあたった。急いで鍵をあけて、校舎内に滑り込んだ。そしてさっとそのドアの扉の鍵を内側からしめる。
「…っ」
振り返ると、悠然と笑いながらこちらへ歩いてくる煌と目が合った。ビクリと体が震える。煌は追っている割にゆったりとした。まるで、もう捕まえたとでも言っているような態度だ。俺は震える体に鞭を打ち、なんとかそこを走り去った。
「ハァッハァッハァッハァッっ、」
確か、この棟は食堂があるから、反対の端まで行けば窓脇に排気ダクトがある。それを伝えば下に降りれる。あいつらが正門方向からこちらに向かって来ていた。ダクトから降りれば、丁度裏門に出れる。都合が良い。そこから逃げよう。
「!」
2階に登ったあたりで、下からガシャンッと音がした。入ってきた。
「くそっ、」
またこんな事をしている。気持ちが沈みそうになる。けど、大丈夫だ…。今回も、逃げ切れる。落ち着け…落ち着け……。
「ハァッハァッっ」
俺の逃げ込んだ校舎はメインの棟ではないので小さめな4階建てだ。食堂がある為3階部分は全て食堂フロア。1階と2階、4階に4つずつ特別教室がある。ダクトで降りる前に、アイツらを遠いところに引き付けたい。出来たら、4階の別の教室とか…。
「ハァッっ、ハァッっ、くっ、」
俺は4階まであけ上がり、手当たり次第に教室のドアを開けながら、1番奥の教室に滑り込んだ。
「本当にこっちー?」
「ん」
程なくして、近く足音がする。柊と冬夜の話し声だ。
まずい。まずいまずいっ。
俺は乱れた息を整えて、抑えた。
大丈夫だ、とりあえずは予定通りだ。それにもう端の教室にたどり着いている。あとは、バレない様に静かに下に降りるだけだ…
ブブブブブ…
ブブブブブ…
「!!」
ガタっっ
俺のスマホが震える。元々張り詰めていた中の急な振動に、俺は大袈裟にびくついた。そのせいで静まり返った教室内に俺が机とぶつかった音が響く。
「あはっ、クロの番号入れてて良かったー。柊、こっちー。奥の教室の方。」
柊と冬夜の足音が、俺のいる教室に近づく。
「うっ、」
窓の建て付けが悪くて、開ける際にジャリジャリと音がする。俺は力を込めて無理矢理に窓を開けた。窓を何とか開け切ると、身を乗り出す。
「……」
け、結構高い…。昔はこんなの日常茶飯事だったけど、なにせ久しぶりだ。体がすくむ。……というか、どうしていつまでもこんな事やらないと行けないんだ!
「クロ、みっけ。おーい、柊いたぞ。」
「!」
まずいっ!
俺が躊躇しているうちに、冬夜が俺を見つけ柊に声をかける。
「え、ちょ、クロ?!」
俺は窓枠を一気に飛び越え、外に出てダクトにしがみ付いた。飛び降りたと思ったのだろう、冬夜の焦る声がした。
「ハァッハァッっ…っ」
4階…いや、体感的にはさらに高く感じる。そもそも身体能力も前とは違う。元々緊張で上がっていた心拍が更に上がり、手先の感覚が鈍い。集中しなければこのまま落ちそうだ。
俺は下に向かって降りて行った。その時、
「え」
ヒュンと耳元を何かがかすめる。一瞬思考が追いつかない。しかし、改めて下を見ると、上にいた筈の柊が下にいた。
ま、まじか…。
俺の横の壁の僅かな突起を掴み、柊は凄い速さで、半ば落ちるように下まで降りたようだ。
「!」
柊は屈んでいた体を起こすと、下からにへらと人畜無害そうな笑顔で俺を見上げる。
「クロ〜、逃げるの、だめ。俺もう待てない。」
「柊、すげーな。」
冬夜が上から感心したような声を上げた。
「おいおい〜、どうせ校舎を出て逃げると思ってたけど、校舎を出る前に捕まってるじゃねーか。」
柊の後ろからは、ゆったりと煌が笑いながら出てくる。どうやらこちらの動きは既に読まれており、先回りで待ち伏せされていたようだ。
俺はダクトにつかまったまま、狼狽た。上には冬夜、下には柊。外に逃げても煌が居る。どうするか…判断しかねていると、舌打ちがしたから聞こえた。
「おいっ、もう終わりだ。とっとと降りろっ。」
「だ、うわっっ、」
煌は不満気に漏らすと、ダクトをガンガンと蹴る。俺の手に振動が伝わり、グラグラと体が大きく揺れた。
「あっ、」
つるりと手が滑り、遂に手がダクトから離れた。
(落ちっ………っ!)
しかしドサリと落ちたのは、床の上ではなく煌の腕の中だった。驚きで見上げると、口の端を歪めて笑う煌と目が合った。
「よー。よくも散々逃げ回ってくれたな…。」
「ひっ、」
煌の強い怒りが伝わってきて、背筋にゾッとした感覚が走った。
「はっ、クロっ、クロクロっ!!」
「ってーなっっ!柊!重いっ!」
そして急に柊が飛びかかってきたため、俺は床に転がり落ちた。体を打って痛いはずだが、それよりも、恐怖で体が竦んで感覚が鈍く大してなにも感じない。
「はぁっ、クロぉ〜!!」
震えて這いつくばる俺に柊がのしかかり、首元に顔を埋められ舐められる。そして服の間から柊の手が入ってくる。
「はははっ、柊、ここで青姦は流石にまずいっしょー。」
呑気に笑いながら、冬夜も合流する。
「さぁ……クロ、仕置きの時間だ。」
とどめを刺す様に、俺の頭上から煌の声が降ってきた。
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