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第23話

「……日向」 「あー、玲次、おはよう。今何時ー…?ん、てか、なんで、玲次の部屋…………あ。」 朝起きると俺はベットの上というか玲次の上だった。一瞬状況に頭が追いつかない。しかし少し間を置くと昨日の記憶がどっと頭に押し寄せてくる。俺が、玲次を襲って、もっともっとって………。 思い出すと顔に一気に熱が集り、俺は固まった。 「日向、可愛かった。」 それをみて、玲次が笑いながら俺を抱き寄せキスをしてきた。俺は玲次の意味するところを考え、玲次の胸に顔を埋めて更に顔を赤くした。 「昨日は、その…付き合わせてごめん…。ありがとう…。」 「いや、あんな事なら喜んでやるけど。」 「…っ!」 ニヤリと意地悪く笑われる。俺はもう顔から火が出そうだ。 「ふ、風呂にっ、入ってくるっ!」 「ははっ、朝食作っておくな。」 ガバリと玲次の上から飛び降り、俺はシャワーに向かう。後ろから、玲次がくつくつと笑う声が聞こえた。 いやいや、逃げてる場合ではない。風呂から上がったら、ちゃんと玲次と話し合わなければ…。 シャワーから出ると、玲次がご飯を使ってくれていた。 「玲次はシャワー浴びなくて大丈夫か?」 「あぁ、俺は寝る前に浴びた。」 「そうか…。」 俺はダイニングテーブルに座った。玲次も俺の向かいに座り、朝食を食べ始める。 「………玲次、ごめんなさい。俺、浮気した…。」 「……ああ、うん。知っている。」 玲次は食べる箸を止め、俺の言葉にうなづいた。そうだよな。あれで気づかない訳がない。 「それなのに、昨日はごめん。…だから…俺はこの家を出て行くよ。」 家を出てどうにかなる保証もないが、裏切ったケジメはつけるべきだ。俺はそう考えていた。 「…いや日向、俺の方こそ、何となく気付いていたのに、助けてやれなくて申し訳ないと思っているんだ。それにきっと、浮気と言うには、相手が無理矢理だったのだろう?日向が良ければ、まだこの家にいて欲しい。」 「え…」 しかし玲次の反応は俺の想像と違った。助けてやれなくてとか…、玲次は本当にいい奴だ。 「……良ければなんて…、寧ろこっちこそ、玲次が良ければ……………まだ続けたい。」 この関係を。そしてまだ、恋人でいたい。 流石にはっきりと、恋人のままいてくれなんては言えなくて、俺は言葉を濁し言った。 --- 玲次は食器を片付けながら、日向に目を向けた。その目は暗く濁る。 「……」 (出て行くなんて………許すはずがない。) 昨日の日向は、凄く可愛かった。必死に俺を求めて、縋って………ずっとああなら良いのに。しかし現実はこうだ。日向なりの謝罪なのだろうが、それは俺の理想とは大きく違った。 「玲次、お昼から何処か出かける?」 「そうだな。少し外に出てお茶するか。日向も疲れただろう?」 「……れ、玲次…」 聞かれた質問にからかって笑いかけると、日向が顔を赤くした。可愛い。思わず口元が緩む。 そもそも、もっと事は上手く運んでいる予定だった。らしくもなく、感情に振り回されて失敗した。 「玲次、隣来ないのか?」 食器の片付けが終わっても考え込んでいた。すると日向が恥ずかしそうに控えめに玲次に尋ねてくる。 (…来て欲しいんだな。) そんな日向を見て、玲次は日向への愛しい気持ちが高まり笑顔になるのを感じた。そして案の定、俺が日向の隣に座ると、日向がそれとなく寄ってくる。それを見て、ふっと笑ってしまう。 (もっと、もっと俺に依存させなければ…。) 次は失敗しない。無理矢理日向の気持ちをこちらに向けた手前、日向にその事がバレたら、この関係は崩れるのだろう。ましてや、無意識下で日向にとって俺よりも上の存在がいる。日向の父親だ。下らない独占欲なんて、全て手に入れた後でいいんだ。傷ついて、裏切られても、日向が俺だけを頼って戻ってくるまで。 「日向、」 --- 「明日からは、仕事休まないか?」 玲次が俺の事を気遣う様に、腰を軽くさすってくれながら優しく聞いてくる。出来たらそうしたい。ていうか、そうしなければ…。もうバレている。 「ありがとう。玲次に迷惑かけて本当に申し訳ないけど、そうしていいか?」 「いいんだ。日向に何かあったら、それこそ俺も辛い。」 玲次はいい奴だ。俺は玲次の提案に頷いた。 その後少し休み、俺たちが外にでる準備をしていた時だった。 ブブブブブ… 「……」 スマホを手に取り、眉間にシワがよる。冬夜だ。てかちゃっかり俺のスマホに自分の番号登録しているし。勿論、無視だ。暫くしてバイブ音が止み、ブブっとメッセージ通知のバイブ音が鳴った。 『クロ、扉使いたそうだったから連絡したんだけどー。出てよー。扉使いたいって、お父さんに会いたいんだでしょ?』 ブブッ 『連れてってあげようか?お礼に遊んでくれるなら、連れてってあげるよー。』 ブブッ 『あ、王様達には内緒だから2人きりだよ♡アイツら来週まで帰ってこれないから。』 嘘だろ。大体このスマホ、煌が持ってるって言ってたはずなのに。 ……けれど…。 『煌から連絡あって、クロも一度お父さんに会った方が良さそうな雰囲気だったよ?』 俺の揺らいだ心を見透かした様に、冬夜が追い討ちをかけてくる。 ----- 「クロー!今晩わ♡」 結局その日の夜、俺は冬夜の誘いにのった。自分でも馬鹿だと思う。だけど、この機を逃したらもう一生扉の情報を聞けない気がした。 「何で学校なんだ…。」 冬夜に呼び出されたのは、夜の校舎のあの体育倉庫だった。灯が付くとはいえかなり薄暗い。 「まーまー、ほら。まずこれ付けて?」 冬夜俺に首輪?にしては薄い、厚めなゴムのような帯を渡してきた。 「なんかー、こっちの世界ではΩの必需品らしいよ?」 「はぁ?」 なんだ、また変態プレイか? 「……え、なんに使うの?これ…。てか、扉は何処にあるんだ?」 「だから、」 冬夜は俺の手からその帯を取り上げて、俺の首に巻いた。なに?やっぱり首輪的なやつ?首輪にいい思い出はないからな…。しかし、この首輪にはリードを繋ぐ穴もない。ぐるんと首輪を一周するだけで、首輪ってか、チョーカー? というか、そもそも扉は? 「噛みつき防止。勝手に番契約されないように付けとけだって。」 「……付けとけ?」 なんか、引っかかる言い方だ。 「そうそう。俺は理性的だけど、分からないじゃん?」 俺はって…。 「もしクロの発情期っていうか、ヒート?が急にきたら、柊とか、直ぐに噛んじゃいそうじゃん。」 え 「だから、煌が付けとけって。」 っ! 「わっ、」 俺は冬夜を突き飛ばして、体育倉庫を飛び出した。 「おい。何逃してんだ。」 「!!」 俺は走りながら、薄暗い闇の中から歩いてくる声を聞いて目を見開いた。

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