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第39話
「ごめん、玲次!!大丈夫か?!」
「俺は大丈夫だ。日向こそ大丈夫か?もしかして、結構酔ったか?気づかなくて悪かった……」
玲次は心配そうに俺の前髪をかきあげ、顔を覗き込んでくる。
「うん、俺は大丈夫。けど本当、ごめん…。」
「あちゃー、兄さん酒臭いな。もう風呂入ったら?」
俺たちの騒ぎを見て圭人が提案した。
「そうだよ玲次、先にお風呂に入っちゃいなよ。俺、その間に片しとく。」
「………そうだな。入ってくる。日向、具合悪いなら無理しなくて良いぞ。俺が風呂上りにやるから。」
玲次は風呂に向かって消えていった。今だ。
「やー、しかし、日向、本当酔ってない?体の火照りとか、震えとかヒートの兆候はない??」
「うん……。」
俺がしゃがんで床を拭くと、圭人も同様にしゃがみ床を拭きだきた。
さて、どう切り出そうか…。
「そっか〜、なら良かった。あー、でも、ヒートの症状はアルコール取った時の状態と似てるし体の変化には過敏になった方がいいよ〜。」
「そうなんだ。」
圭人と床を拭き適当な相槌をうちながらも、俺は話をどう切り出すかに頭がいっぱいだった。
……どうしよう。
圭人になんて言えば良いんだろう…。圭人は玲次を慕っている。そんな圭人に、玲次は煌と実は裏で繋がってて俺を騙したんだ。って?
「グラスも割れなくて良かったな。兄さん食器に金かけるタイプでしょ?これも高そー。」
「……うん。だな……。」
圭人は床を拭き終えると、そう言いながら落ちたグラスをシンクに持っていった。
言いにくい…。圭人も知りたくないだろうし。
「……そういえば日向、もうあの首につけるやつ付けないの?」
「うん。そもそもあれ、つける意味よく分からなかったし…。」
「……ああ…そっか……。」
圭人は手を洗いながら、俺をじっと見つめた。
ダメだ…。こんな、ゆっくりしてもいられない。早くしないと。
「もう捨てちゃった?付けといた方がいいかも。」
「うーん……。そうかな…。」
「うん。」
圭人は話を続け、俺に近づいた。
俺は焦るが、焦るばかりで肝心な話に移行出来ずにいた。湯船にお湯は溜めていないから、玲次はシャワーだけ浴びて出てくる。15分足らずで戻ってくるかな…。
「日向」
「ん?」
なんのとったかかりもないのに、急に言うのも不躾過ぎるよな…。いやいや、そんな悠長な事言ってられない。早くしないと玲次が戻ってくる。
「兄さんと何かあった?」
あ。俺ははっと顔を上げた。
「……け、圭人……その……………」
「日向?」
俺の反応に、圭人は心配そうに眉間に皺を寄せた。
「圭人………俺……た、たす……………あ、」
「………?…、ああ、兄さん、早かったね。髪も乾かしてないじゃん〜。」
「………」
気づけば、ポタポタと水が滴る髪にタオルを乗せ、玲次が圭人の後に立っていた。玲次の俺を見る目が、タオルの奥で懐疑的に細められる。俺はそんな玲次をみて狼狽た。
「………日向、日向も早めに寝た方が良さそうだ。次、シャワー浴びてこいよ。」
「……っ、うん。そうする。」
俺は玲次に言われるがまま、風呂場に向かった。
………まずい。まずい、まずい。玲次に何か気づかれた?
普段は優しいのに、罰と言い散々与えられた苦痛と快楽を思い出し足が震えた。
シャワーを浴びて髪を乾かして上がると、玲次ももう髪を乾かしてソファに座っていた。圭人の姿ももうなかった。
「あれ、玲次、圭人は?」
「もう帰した。あいつも大分飲んでいたしな。」
「そっか…。」
そうか……。帰ったのか。
俺はどうすべきか分からず、その場に立ち尽くした。
「日向、おいで。」
すると玲次が俺を手招きする。その顔は笑顔だった。俺は幾分ホッとして、玲次に招かれるまま玲次の足の間に座った。
「はー、風呂上がりは、石鹸の匂いが邪魔するが、日向、いい匂いする。」
「んっ」
玲次がするすると俺の首元に鼻を擦り付けた。
「ふっ、擽ったい…。」
「ははっ、」
俺が擽ったさに身を捻らせて笑うと、玲次も小さく笑った。恋人みたいなじゃれ合いだ。
「酔いは醒めたか?」
「うん。」
玲次が俺の肩に頭を乗せ確認してくる。
「そうか。良かった。」
「うん。大丈夫。」
「安心した。」
玲次が微笑んだ。俺もつられて微笑む。
「ヒートの兆候、火照りとか震えはないか?」
「うん。ないよ。」
「そうか。………日向、」
「ん?なに??」
玲次が俺の肩に頭を埋めたまま声をかけてきた。
「圭人となに話した?」
「…!」
びくりと体が震えそうになるのを必死で押し留める。やっぱり、玲次は気付いていた。
「いやグラス割れなくて良かったって話してたよ。だって、玲次の使う「日向」」
「……」
さっきよりも少し低い玲次の声が、俺の話を遮る。
「圭人に何を言うつもりだった?」
「……っ、別に何もないよ。」
俺の肩から顔を上げた玲次が、俺の顔を覗き込む。その顔に笑顔がない。鋭い視線に耐えれず、俺はその視線からそれとなく逃げて曖昧に答えた。
「ふぅん……。」
「………ふっ」
玲次が顔を上げ、代わりにその手がするりと俺の首を撫でる。手つきは優しいが、まるで肉食獣に舐められているような錯覚を覚える。俺は恐怖で固まった。
「動脈…」
ポツリと言って、玲次は軽く俺の首を押さえた。
「ふっ、日向は心拍も可愛いな。」
「…え?」
「早くなって、震えて…、心の動きに正直だ。」
「………」
そのまま玲次は手を動かし、掌全体で俺の首を覆った。反対の手で、俺の体をギュッと抱きしめる。力はそこまで込められていないのに、まるで首を締められているようなそれに俺は息を飲む。
「まぁ、心音なんて聞かなくても、日向は嘘をつくとすぐ分かるんだが。」
「……ふっ、」
不意に玲次の手がするりと服の間から侵入し、素肌を撫でた。俺は思わず小さな声を上げた。
「声は震えるのに、いつもよりやけにスラスラと喋るんだよな。」
「んっ」
そしてくりっと乳首を触られて、俺はひくりと体を跳ねさせた。そんな俺をみて、玲次が口の端をあげる。
「目線が合わなくなって、瞬きが増える。」
「ふっあっ…、」
玲次は俺の乳首を弄び続けた。
「あと何よりー」
手が止まり、玲次が再び俺の耳元に顔を寄せる。
「緊張で発汗して、匂いが濃くなる。」
すんっと、耳元で玲次の呼吸音が響いた。
「嘘をついても、すぐ分かる。」
「っ、」
そしてまた俺を見据える。その玲次の目は、もう支配者のそれだった。
「さて、日向、」
「………」
「圭人に何を言うつもりだった?」
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