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ブレイズ、悪に立ち向かう!・5
「そこまでだ! 亜利馬から離れろ!」
飛び込んできた獅琉の剣幕に、校長が俺の体から飛びのいた。
「な、何だ貴様!」
「大雅っ!」
「……ばっちり撮った。亜利馬のスカートに顔突っ込んでるとこ。一応、音声も録音済み」
「なっ、……」
潤歩が俺の前に体を入れ、校長の胸倉を掴む。
「さあ、全部白状してもらうぜ。この件が済んでもチクッたりしねえよ。……あんたとはこれからも『仲良く』やっていきてえしなぁ?」
「ヒッ」
顔面蒼白の校長が震える手で背後のドアノブを回す。
そして──
「兄貴っ!」
「あ、亜利馬っ……!」
一年もの間この部屋で監禁されていた俺の兄貴──有栖が、泣きながら飛び出してきた。
「さあ、解決したし飯でも食いに行くか。俺が奢るぞ」
竜介の言葉に、俺達は高々と手をあげて叫んだ。
「よっしゃ!」
おしまい。
「く、く、……くっだらねえぇぇ──ッ!」
場所は俺の部屋。ソファに座っていた潤歩が豪快にずっこけて、床に尻もちをついた。
「なんじゃこりゃ! こんな訳分かんねえやっすい劇になってたのかよ!」
「た、確かに最後の方とか、適当過ぎる感じもしたね……」
獅琉もテーブルに伏せて苦笑いしている。大雅はいつも通りの無表情だが、竜介はこのチープさがツボに入ったらしく腹を抱えて笑っていた。
俺達の記念すべき初ドラマ、「ハイスクール・ブレイズ」……。正直言って絶対にヒットしないだろうということは、素人の俺でも分かる。
「脚本家誰だよ? クビだ、こんなモン!」
「あっはっは! 笑い過ぎて腹が……! やばい、腹痛てぇ……!」
「ていうか絡みは亜利馬だけだったね。主役だから仕方ないか」
「主役! 亜利馬が、この劇の……主役! がはははは……!」
「わ、笑い過ぎです、竜介さん!」
確かに劇と言われても仕方ない。
内容もそうだけど、それより何より酷いのは──
「お、俺も含め、みんな台詞が棒読みなんですよっ!」
獅琉も、潤歩も、竜介も。AVでのちょっとした会話は完璧過ぎるくらい完璧なのに、どうしてドラマメインになると途端に全員がロボットみたいな喋り方になるのか意味が分からない。もしかしたら俺より酷いんじゃないかと思うくらいの棒読みっぷりで、ラストの校長を追い詰めるシーンなんかまるで悪意のある音声テープが流れているのかと思ったくらいだ。
「大雅が一番上手かったですよ! 普段と同じぼそぼそ声だから、全然違和感なかったし……」
「……ぼそぼそ声でごめんね」
「あぁっ、違う! 大雅、別に馬鹿にした訳じゃなくて……!」
潤歩が尻もちをついたまま俺に言った。
「そういうてめぇだって、何だあの演技。喘ぎ声さえ棒読みだったじゃねえか。『亜利馬のおちんちんにお仕置きしてぇ~ん!』……じゃねえよ!」
「う、うるさいですよ!」
沸騰した顔から湯気が出そうだ。
「潤歩さんこそ、『そのスカートから覗く美味そうな太股には興味がある』……とか言って、めちゃくちゃカッコつけてたじゃないですか! 棒読みで!」
「てめぇ……ぶっ飛ばされてえのか」
「ほらほら、ケンカしないで! 皆下手なのは一緒だったんだからさ!」
獅琉が俺と潤歩の頭を撫でてこの場を治め、俺達は同時に「ふん!」と顔を背けた。
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