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朝の珈琲
こぽこぽと音を立てて、焦げ茶の液体がドリッパーを通過してサーバーに落ちていく。
ぽた、ぽた、とひとしずくずつ落ちていくそれを、青年は優しい目で見つめていた。
ふんわり漂うは、薫り高い豆の香り。今日のコーヒーはブルーマウンテン。シンプルに、朝の時間向けの豆である。
青年、鈍い金髪を肩の下まで下ろして、やや幼顔の彼が、落ちるしずくを優しい目で見つめているのは、単にコーヒーが好きだという理由だけではない。
朝、淹れる特別な一杯のコーヒー。このコーヒーはそのとおり、特別なひとに届けるためのものだから。仕事で淹れるよりも丁寧になるというもの。
別に仕事で淹れるときも手を抜いてはいないけれど。気持ちの問題である。
やがてガラスのサーバーに適度な量のコーヒーが溜まった。青年は淹れる手をとめて、サーバーを取り上げる。用意していたマグカップに出来上がったコーヒーを注いでいった。
マグカップはプレーンな形で紺色の、まったく同じもの。一見して見分けはつかない。でもつかなくていいのだ。どちらを使おうとあまり問題はないので。それはこの、どちらかのマグカップを手にする相手が相手だからこそ。
マグカップの横には小さな皿を用意して、角砂糖をいくつか乗せる。ミルクはなし。朝のコーヒーはこれで完成だ。
二月を目前にした、まだまだ真冬の早朝。厨房は一応の暖房を入れても、やはり冷える。
冷めないうちに。
青年は木製のトレイにふたつのマグカップを乗せて、暖房のスイッチを切って、厨房を出て階段へ向かった。
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