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恋のはじめは夏のこと
『一生を共にする』きっかけになったこと。
つまり二人が恋人同士になったのは大学二年の夏だった。割合よくある展開だったと思う。
一年生の春、出会って友人になって、夏になる頃には『ヒロ』『ユウ』と愛称で呼び合うほど仲良くなっていて、そしていつからか友人としてではなくお互いを見るようになっていた。
弘樹がいつからそうなったのかは訊いたことがない。游太としては意外な出来事であったが。
だって弘樹は一年の頃、彼女という存在がいたのだから。てっきり女の子が好きなフツウの男だとばかり思っていた。
游太とて、別に根っからゲイというわけではないし、高校時代は彼女がいたこともある。
ただ、なんとなく以前からほんのり思ってはいた。『俺は男女どっちもいけるのかもしれないな』などとは。
恋愛的な目線で誰かを見るとき、対象が女の子ではないこともあった。ほんのりとした『いいな』どまりで、告白や交際にまで至ったことはないが。なにしろ同性と付き合うより女の子と付き合うほうが、よっぽど楽なのだから。
つまり潜在的なバイという性質であったのだろう。それがどちらかというと異性愛者寄りであっただけで。
なので弘樹に告白されたとき、驚きはしたものの嫌悪感などは抱くはずがなかった。そして嫌悪感がなければ、元々友人として好感を非常に高く持っていた弘樹のことは、恋というベクトルでも好きになっていって当然だったかもしれない。
八月の暑い盛りで、夏休み。弓道部の合宿に行った帰りのことだった。
合宿といっても、そもそも部活自体がめちゃくちゃ真面目な部活、というわけではない。大学同士の試合には出るし、練習も週に三日はあるけれど、結果を出さなければ怒られるわけではないし、なにがなんでも部活を優先して出席しろとも言われない。
『やりたいやつはとことんやればいい』
『でも楽しみたいだけのやつはそれでもいい』
そういうスタンスの部活。ゆえに弓道経験者の弘樹と、ライト層の游太が同じ部活に居続けられたのであるし。
そういう部活だったので、合宿はどちらかというと娯楽寄りだった。
大きな弓道場のある合宿所へ行って、三日間過ごした。
毎日、朝練からはじまった。
午前中は練習に打ち込んだ。
一日は模擬試合もした。
だが遊びに使う時間も多かった。昼食と夕食は自分たちで好きなものを作ったし、午後は近くにある森の中や海へ行ってはしゃいだ。夜は花火や肝試しなんかもしたものだ。
そのどれも当たり前のように弘樹と過ごした游太だったが、なんとなく違和感は覚えていた。
なんとなく……元気がない?
言葉にするならそんな感じ。
「具合でも悪いのか?」
一日目の夜に訊いたけれど、弘樹は「別に悪くないよ」とだけ答えた。そう答えられてしまったので游太は「そう。ならいいけど」と終えるしかなかった。おおかた彼女とうまくいっていないとか……メンタル的なほうだろう、なんて思って。
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