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無為な夜の、ある一夜
習慣になってしまったことがある。幾枚かの紙幣と引き換えに知らない男の腕に収まること。それは叶わぬ恋の、代替品。
「はっ……ぁ、っん、う、ぁ……っ」
ぎゅう、とシーツを握りしめて声を上げる。意識して甘ったるくなるようにしながら。俺の背後では男が夢中で腰を振っていた。ふっ、ふっと激しい吐息が聞こえる。
ちがう、アイツはこんなに下品に喘いだりしない。
思うのに俺はその思考を振り払うように嬌声を上げた。
今、触れているのはアイツだ。名前も知らない男じゃない。俺の腰を掴んで、中を懐柔して、俺の心もいっぱいに満たして。
「レオくん……レオくん……っ」
うしろから俺の名前が不意に呼ばれた。俺の『仕事』のための名前を呼びながらやはりいやらしく男は喘ぐ。
ああ、もう。妄想の邪魔しないでほしいのに。偽名なんて呼ばれたら台無しだ。チッと舌打ちしたくなりながらも俺は応えるように喘ぐ。
「んっ、いい……っ、は、ぁ! も、っとぉ……!」
多分望まれているだろう台詞を口に出す。俺の声にか台詞にか、興奮を煽られたであろう男はもっと激しく腰を使いだした。
早くイッちまえ。内心罵りながら、頭に思い浮かべるのはこんな薄汚い男じゃない。俺にとってはなにより綺麗な存在。太陽のような、存在。
『……リオ』
鮮明に思い出せる、低音ながら優しい響きを帯びた声で呼ばれる妄想が最後だった。
「あっ、イく……あぁーっ!!」
「うっ……!」
甘い声をあげて、意識してうしろをぎゅっと締め付ける。それだけで俺を犯していた男はあっさり逐情した。
「はーっ、はー……」
ずるりと抜かれて、俺はベッドに突っ伏す。
流石に少し疲れた。でもまぁ、代わりとしちゃ最悪でもなかった。
少なくとも多少なりとも妄想ができるくらいには。現実感ある妄想を求めてるんだ、この身を差し出す対価として。
このあと貰える紙幣じゃなくて。それは俺にとってはなにより甘美なもの。体に多少の快感を感じて、アイツのことを妄想すれば簡単に達せるくらいに、甘美なもの。
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