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逃亡

 箱の中身をすべて鞄に突っ込んで、俺が辿り着いたのはシティホテルだった。  何度か来たことがある。  勿論『仕事』でだ。そのとき快適だったから思い当たったともいえる。  俺はそのホテルに入り、部屋を取った。とりあえず、一週間。  本当なら大学生が何泊もできるようなランクじゃない。俺は見るからに若かったし、なんなら高校生という設定で体を売っているくらいだから、高校生にも見えないことはないくらいだ。  上質なホテルだけあってフロントのスタッフは上品だ。あからさまに疑いの目など向けてきやしなかったが、そういう空気はうっすら伝わってきた。 「先払いになりますが」  確認するようにそう言われた。こんなホテルは後払いが基本。ビジネスホテルならもう少しランクが低いから先払いのところが多いけれど。  良いホテルで先払いだと、客を疑っているような感覚を感じさせてしまうからかもしれない。しかし不審な客に対しては先払いを要求して、ある意味カマをかけているのかもしれなかった。 「かまいません」  俺は財布を取り出して、言われた通りの金額を出した。  スタッフに受け取られて、万札が何枚か消えた。  それ以上はなにも言われなかったし、むしろスタッフの安堵も伝わってきた。  疑われないように、金をちゃんと財布に移しておいたのも幸いしただろう。剥き出しの金を掴み出してはあからさまに怪しい。  カードキーを受け取って、高層階の部屋へ。ワンルームではあるが、広々としていて手入れの生き届いた綺麗な部屋。  俺はまず荷物を床に放り出して、バスルームへ向かった。  良いホテルだけあって、当たり前のようにバスとトイレは別である。荷物といっても、適当に服を数枚と下着も数枚突っ込んできたくらいだけど。  あたたかい湯に浸かりたい気持ちはあったけれど、溜めている時間ももどかしい。ひとまずシャワーで我慢しておくことにする。  服を脱いで、熱い湯を浴びた。一瞬、昨日の夜、自宅でシャワーを念入りに浴びたことを思い出しそうになってしまったけれど、すぐに振り払った。  流してしまえ。この熱いシャワーに。  そんなことはできるはずがなかったし、思考が消えることなどないとわかっていたけれど、とにかく自分にそう言い聞かせた。  頭からシャワーを浴びているうちに、少しずつ体はあたたまっていった。  心も多少はほどけたろう。その証拠に眠気が襲ってきた。  体を軽く洗って風呂を出る。髪をドライヤーで乾かしている間から、もう眠くてたまらなかった。  バスルームから出るなり、電気だけ消してベッドへ向かって潜り込んだ。  ワンルームではあるがベッドはダブルサイズ。ゆったり寝転がることができた。洗い立ての清潔なシーツの香りが身を包む。  それに安心して目を閉じ、力を抜くと、俺は一気に眠りの世界へ引き込まれていた。

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