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独りきり

 俺への気持ち、わかったの。  なんでムカついたのか、わかったの。  玲也はそれを言ってくれるべきだったと思う。  だってそれが俺を抱いた対価だろう。それはもう、金で買うより重大な対価だ。  でも玲也は結局、一晩中俺の傍にいるだけでなにも言わなかった。俺はずっと枕に懐いたままだったし、あちらも黙ったままで。  明け方になって「そろそろ帰るな」と言って帰ってしまった。俺は再び涙が止まらなくなったのは言うまでもない。  その日は流石に大学なんて行けなかった。  幸いバイトは入っていなかったので、休ませてもらう必要はなかった。  俺はベッドに入って、一日中布団にくるまって過ごした。  悶々としたままで。でも実のところ、頭は空っぽのままで。  くるまる布団、というかシーツには玲也の香りがしっかりついていた。  香りを残したくないなんて思ったことは吹っ飛んでいた。抱きしめられている錯覚を感じたいのか、それとも昨日のことを消してしまいたくないのか、俺ははっきりわからなかったし、色々な理由が混ざっていたのだと思う。それがなんなのか、考えたくなかったし考える余裕もなかった。  腹なんて減るはずがなかったし、時折トイレに立つほかはずっと布団の中。  時折うとうとする感覚はしたので、何度かうっすら眠ったのだと思う。けれど深くは眠れなかった。常に半分眠っているようなものだったかもしれない。  昼間が終わって、夜が来て。  結局時間が俺の心を多少なり癒してくれたのだろう。  俺はのろのろと起き上がって、まず暖房をつけた。  布団にくるまっていたときは布団のぬくもりで寒さは感じなかったが、部屋は随分冷えていたようだ。暖房をつけてもすぐにはあたたまらない。  寒さからか、独りきりなのを強く感じてしまって、ぶるりと体が震えた。  馬鹿だな、元々独りきりじゃないか。  俺は自嘲したけれど、知っていた。  昨日の夜は独りではなかった。  あんな夜でも、確かに独りきりではなかったのだ。  でもこれからのことはわからない。結局、俺は夜からぽかんと放り出されたようなものだ。どこへ行ったらいいかわからない。  急にこの部屋が恐ろしく感じた。  どこかへ行きたい。  衝動的に思ったものの、行き場所などなかった。俺の行ける場所など限られているのだ。  大学の友人でも高校の友人でも、知り合いはいる。泊めてくれそうなヤツはいる。けれどこんな酷い状態を見られて平気なヤツはと考えれば、そんなヤツはいなかった。  そこからも俺は玲也に依存してしまっていたことを思い知る。  アイツだけいればいいなんて。  友達としてでもそれだけでいいと。  ほかには実家くらいしか思いつかないが、友人宅以上に今は寄り付きたくないところだ。今はかりそめの彼女すらいないし。  気ばかりが急いたが、俺はふとそこでクローゼットに目をとめた。  あるじゃないか。行き場所。  即座にクローゼットの扉に組み付いて乱暴に開ける。  出したかったのは服じゃない。  いや、服も必要だったがもっと必要なものがある。  それは、クローゼットの一番奥に入っている……今まで邪険にしていた箱。

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